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11-18

 松井隊が正面から突っ込んできた。

 先頭は豪傑の斎藤彦四郎。重装備の黒い鎧、最上胴丸を着ていた。率いる十数人は松井隊で最も勇敢な部隊だった。

 利家は斎藤の顔目がけて槍を投げた。槍は唯一守られていない顔面を貫いた。斎藤は仰向けに倒れた。

 蜂須賀隊は手持ちの槍を投げた。槍は先頭集団の手足や顔を串刺しにした。後続はたじろいで足を止めた。

 利家は刀一本で駆け出した。蜂須賀隊は背中から矢を取り、弓を打って後続に射かけた。後続は下がった。


 利家は斎藤の前に立った。

 斎藤はショック反応で手足を貧乏ゆすりのように痙攣させていた。顔に真っ直ぐ刺さった槍が小刻みに揺れていた。

 利家は左手で軽く手を合わせた。


「悪いな。あんたの首で復帰させてもらうわ」


 正勝は利家に呼びかけた。


「俺らの分の耳も切っといてください!」


 後方に残った明智隊、村井隊は荷車から盾を下ろして地面に並べた。長坂道は盾のバリケードで封鎖された。

 馬は流れ弾を避けて百メートル後ろに下げた。


 成政隊は秀満の説得を受けて一早く後退し、分岐点に第二防衛線を張った。

 これを「繰り退き」という。

 A部隊が追撃部隊を迎撃している間に、B部隊が後方に第二防衛ラインを築く。頃合いを見計らってA部隊は第二防衛ラインまで後退する。B部隊が第二防衛ラインで敵を食い止めている間に、A部隊は後方に第三防衛ラインを築く。これを繰り返して撤退する。


 正面から佐々隊がやってきた。彼らは明智隊の両脇を通って後ろに逃げていった。

 利家と蜂須賀隊が走って戻ってきた。利家は血に染まったズタ袋を持っていた。彼らは両脇を通って部隊の後ろに着いた。

 利家は部隊に指示した。


「敵が来る。打ち合いに持ち込んで崩すぞ」


 敵の先鋒隊がやってきた。先頭の鎧武者は血まみれの金棒を持っていた。

 光秀は大型銃を構えた。この銃は当てづらいが通常の銃より三倍の射程距離を持っていた。

 光秀は距離百五十メートルから先頭の鎧武者を狙撃した。

 鎧武者の頭が吹き飛んだ。周囲はパニックになった。

 敵兵の何割かはその場に伏せた。何割かは雄叫びを上げて突っ込んできた。

 明智隊は鉄砲で猛射撃した。


 明智隊は玉が当たると「ヤー」と声を上げた。

 矢には印が刻まれているので、誰が倒したのか分かる。これが「矢印」の語源だ。しかし玉に印を刻む訳にもいかないので、当たった時は「自分がやったぞ」と周囲にアピールするために声を出す。

 明智隊は首切り役の雑兵を数人雇っていた。

 敵が倒れると、盾を持った雑兵が飛び出した。雑兵は矢玉を防ぎながら前進して、敵の耳を切って自陣に持ち帰った。傭兵にとってはこの耳が報酬になった。


 敵の先鋒隊は猛射撃で打ち崩された。力攻めは失敗した。

 敵は正攻法に切り替えた。

 先鋒隊の生き残りは後退した。代わって盾を持った新手の部隊が前に上がってきた。

 明智隊と新手は盾を挟んで打ち合った。


 明智隊は正確な狙撃を何発も打ち込んだ。部隊は喉が枯れるほど「ヤー」を唱えた。

 明智隊が弾を込めている間は蜂須賀隊が弓を打った。矢は鎧に守られていない腋や股、顔に当たった。

 村井隊は前線と後方の荷車を行き来して弾薬を補給した。

 秀吉は後方で物資補給を監督した。玉切れは起きなかった。

 利家は前線で部隊を指揮した。大軍相手にも一歩も引かなかった。


 前田隊は猛射撃を切れ間なく叩き込んだ。

 敵の死傷者が増えた。無傷の者もやる気をなくして積極的に反撃しなくなった。

 利家は部隊に指示した。


「俺に続け。軽く追い払う」


 蜂須賀隊は弓から槍に持ち替えた。

 利家は槍一本で飛び出した。蜂須賀隊は後に続いた。

 敵は逃げ出した。


 百メートルほど追った所で、利家達は自陣に戻ってきた。利家と正勝は両手に血まみれのズタ袋を持っていた。膨らんでパンパンだった。

 利家は部隊に指示した。


「よし、よし、よーし!よくやった!分かれ道まで逃げるぞ!」


 部隊は盾を持って後退した。最後尾には明智隊が付いた。敵は積極的に追撃しなかった。


 道の途中で味方の負傷者が休んでいた。秀吉は村井に指示して荷車に乗せてやった。

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