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11-14

 熱田は戦闘態勢に入っていた。

 町の至る所に旗が立っていた。周辺の林や丘にも旗が立ち並んでいた。まるで大部隊が街の内外に駐屯しているように見えた。

 街は独自に傭兵部隊を雇っていた。街の出入り口は盾のバリケードで封鎖されていた。


 朝八時、信長隊は街の北口を訪れた。

 北口に熱田一の大商人、加藤順盛とその部下数名が待っていた。

 加藤と部下は頭を下げた。信長は加藤に話しかけた。


「馬上より済まない。

 この戦いは苦しいものになるだろう。熱田大神の力を借りたい。禰宜殿に取り計らってくれないか」


 禰宜は神社の№2である。宮司の千秋季忠は織田軍に参加していなかった。


 加藤は了承した。


「分かりました。我が屋敷に茶を用意しております。準備が出来るまでお休みください」


 信長隊は加藤の豪邸でしばらく休んだ。

 まだ朝食を取っていない兵士も多かった。加藤家はお茶と握り飯を用意して兵士をもてなした。兵士は喜んで食べた。


 朝十時、信長隊は熱田神宮に入った。

 熱田神宮は伊勢神宮、石清水八幡宮と並ぶ日本三大神社の一つである。広い境内の一番奥に三種の神器を祀った本殿があった。


 本殿は門と垣に囲まれていた。門の前には石畳が敷き詰められていた。

 加藤と神職数名が門の前で待っていた。

 信長は禰宜に話しかけた。


「ではよろしく頼む」


 禰宜は頷いた。

 №3の権禰宜が手桶から柄杓で水を汲み、信長に差し出した。信長は柄杓で軽く口を漱いだ。


 信長隊は石畳に座って門に頭を下げた。

 気温は三十度を越えていた。火の近くにいるような暑さだった。体から汗が滴り落ちてきた。

 禰宜は門に向かって祓詞を読み上げた。


「かけまくもかしこきいざなぎの」……


 その後、願文を読み上げた。


「この戦いはとても苦しいものになります。熱田大神様、是非とも我々に力をお貸しください」……


 最後に巫女が神楽を舞った。

 この時、門の奥から鎧の触れ合う音が聞こえた。そして本殿の敷地内から二匹の白鷺が飛び立った。

 兵士は青空を飛ぶ白鷺を見上げた。「熱田の神に願いが通じたのだ」と全員感激した。


 神楽が終わった。信長隊は立ち上がった。

 この後は玉串(お供え物)の奉納になる。信長は矢と神酒を奉納した。


 禰宜と権禰宜が信長の前にやってきた。権禰宜は白い壺を載せた三方(お供え物を載せる木の台)を持っていた。

 信長は白い土器を、禰宜は神酒の入った白い壺を持った。


 この後の流れはこういうものだった。

 禰宜が土器に神酒を注ぐ。信長が願いを込めた後、土器を三方に載せる。それを権禰宜が門の前に供える。


 信長は一つ頼んだ。


「いや禰宜殿、申し訳ないが今日は加藤殿に酌をしてもらいたい。

 加藤殿。頼む」


 加藤と禰宜は顔を見合わせた。

 禰宜は頷いた。加藤は了承した。


「分かりました。それでは……」


 加藤は土器に神酒を注いだ。

 信長は振り返って三百人に言った。


「今日の戦に勝とう!加藤だけに!」




 信長隊は本殿を後にした。

 熱田神宮の入り口前に織田軍二千人が集結していた。全員凛とした表情だった。

 信長は全軍に命じた。


「これより丹下砦に向かう!」


 全員「おう!」と応じた。

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