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2-4

 織田家の三河における拠点、安祥城。

 守りやすくて攻めにくい城である。周辺には森や沼が点在していた。

 城の東西は腰まで浸かる湿地帯だった。出入り口は南北しかなかった。

 織田信秀の息子で信長の兄、織田信広は兵四千でこの安祥城を守っていた。


 天文十八年九月、今川軍は兵一万で安祥城の南にある西条城を攻めた。

 信広は援軍二千を西条城に送った。しかしこの援軍が到着する前に城は陥落してしまった。援軍は安祥城に戻ろうとした。

 今川軍は素早く進撃して援軍の背後を捉えた。援軍は反転して迎え撃ったが、今川軍の攻撃の前に敗北した。

 信広は尾張の父信秀に救援要請を送った。これを受けて、信秀は重臣の平手正秀隊四千を安祥城に送った。



 十月、松平軍二千と合流した今川軍は安祥城周辺まで前進した。

 城周辺の森には複数の砦が新たに設置されていた。弓鉄砲も大量に準備されていた。兵の数も十分だった。

 今川軍は複数の部隊に分かれて砦を攻撃した。砦の守備隊は弓鉄砲で激しく反撃した。


 鉄砲が普及する時代から、七百の城兵で五万の敵と互角に戦ったとか、一万の城兵で二十万の敵を壊滅させたとか、千の城兵で二万の敵を追い払ったとか、信じられないような攻城戦が次々出てくる。

 城壁があれば安全に玉込め出来るし、標的が向こうから飛び込んでくるので当たりやすい。玉が続く限り敵を倒せた。

 どんな名将や精兵でも鉄砲で固めた城は落とせない。逆に言えば、それなりの武将でも城と十分な鉄砲があれば無敵になれる。


 今川軍も鉄砲を大量に準備していた。

 今川軍は地面に塹壕を掘って接近した。ぬかるみはわら束で埋めた。工事中の攻撃は竹束で防いだ。


 竹束とは複数の竹を束ねた柱状の盾である。現代の猟銃マニュアルにも「跳ね返って危ないから竹林で打ってはいけない」と書いてあるぐらい、竹の防弾性能は高い。しかし銃弾には強いが火には弱かった。


 砦から三十メートルの距離に近付くと、工事で出た土で数メートル程度の丘を作った。丘の左右には土俵や竹束を積み上げて胸壁を作った。

 今川軍は丘や胸壁から砦に弓鉄砲を打ち込んだ。敵も鉄砲で応戦した。辺りに黒い煙が立ち込めた。


 今川軍は砦一個に対して複数の塹壕を掘り進めていた。朝から晩まで砦の四方から間断なく鉄砲が浴びせられた。

 暗くなると今川軍は退いた。

 砦から夕飯の炊事の煙がもくもくと上がった。


 敵は連日の攻撃で疲弊していった。戦死者が増えれば米を焚く量も減る。砦から上がる炊事の煙は日を追うごとに細くなっていった。

 煙が十分に細くなると、今川軍は総攻撃を開始した。

 今川軍はかい盾、竹束を持って丘から飛び出した。敵は弱りきっていた。砦から弓鉄砲が数発だけ飛んできた。

 今川軍は丸太で門を破壊して砦内に雪崩れ込んだ。


 今川軍は砦を一個一個無理なく落としていった。安全だが時間がかかる方法だった。

 信秀は二度目の救援部隊の準備を進めた。



 十一月、砦を全て落とした今川軍は安祥城を包囲した。織田軍は激戦の中で二千人まで減っていた。

 信広は囲まれても降伏しなかった。彼は「三日耐えれば援軍が来る。それまで頑張れ」と部下を励ましたという。


 安祥城の入り口は南と北西に二か所あった。

 安祥城で乾いた場所は北西だけだった。ここに正門と三の丸があった。

 南に二の丸と裏門があった。三の丸とは城の西側通路で繋がっていた。

 裏門に続く道は細く、左右にはぬかるみが広がっていた。大軍では攻め込めない場所だった。

 二の丸の北に本丸があった。


 北西の三の丸から入って、西側通路を南下し、南の二の丸を落として、北の本丸に入るのが正攻法だった。東のぬかるみを渡って本丸に奇襲を仕掛ける事も可能だが、今はそんな大博打を打つ必要はなかった。


 雪斎は主力の朝比奈泰能隊を北西に配備した。南には岡部元信隊を置いた。

 本陣は一帯を見下ろす城の北の丘に置いた。雪斎隊と松井宗信隊はこの本陣で待機した。

 十一月六日早朝、今川軍は南北から総攻撃を開始した。

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