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広間に酒が運ばれてきた。
宴会が始まった。宴会の余興に宮福太夫という能楽師が呼ばれた。
宮福太夫は首脳部の前で「大織冠」という流行りの能を舞った。太鼓は信長が務めた。
唐の太宗と藤原鎌足の娘が結婚した。太宗は結婚の引き出物に釈迦の宝玉を贈ろうと思い立ち、日本に使節団を派遣した。
海底に住む竜王は宝玉を奪おうと海底一の美女を地上に送った。使節団の団長は女性の美しさに心を奪われ、宝玉を盗まれてしまった。
鎌足はもう一人の娘で地上一の美女を海底に送った。娘は竜王に逆にハニートラップを仕掛けて宝玉を取り返した。
舞が終わると無礼講の大宴会になった。首脳部は浴びるほど酒を飲んだ。勝家は優勝力士のような大きな盃で一気飲みした。
やがて酒樽が広間に持ち込まれた。酔っぱらった首脳部は柄杓で酒を掛け合った。酒樽に頭を突っ込んでスケキヨになる者もいた。
日付が変わって十九日になった。
宴会はようやく終わった。首脳部は家臣に左右を支えられて広間を退室した。
信長は一人で間に残った。
部屋は目を背けたくなるほど汚れていた。まるでマナーの悪い外国人が花見をした後のようだった。
飲酒量は不安の大きさを表す。首脳部はメンタル的に追い込まれていた。
この日は熱帯夜だった。
戦いに参加した織田軍の兵士は、老人になって当日の事を回想している。
―「永禄三年五月十九日。この年まで生きていて、あんなに暑かった日はない」
戦国時代の運命を変える日が幕を開けた。




