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11-9

 話がまとまった。義元は首脳部に指示した。


「それでは明日、大高城に入る。船で熱田を焼き払い、清州を攻め落とそう」


 服部水軍の協力を得た事で、今川軍は伊勢湾を自由に移動する事が可能になった。

 織田軍が鳴海城方面に展開してきた場合、今川軍本隊は海上機動で守備の手薄な伊勢湾北岸部に上陸し、留守の清州城を突く。

 清州城に籠った場合は熱田を焼いて様子を見る。出てきたら海上機動で裏をかく。

 熱田を焼いても籠城を続ける場合は、各地の拠点を潰しつつ、じわじわと北上する。


 今川軍の海上機動を封じるには、織田家も水軍を使うしかなかった。織田家は知多半島東岸に水野水軍、半島西岸に佐治水軍を持っていた。

 水野家は佐治家に対して強い影響力を持っていた。織田家は水野家と同盟する事で海上を自由に移動出来た。二度の暗殺作戦も水野家の力がなければ不可能だった。


 実は義元は開戦前、元康、泰朝を通じて水野家当主の水野信元に調略を仕掛けていた。それに対して信元がどう答えたかは分かっていない。

 事実として、織田家は水軍を使わなかった。そして水野隊、佐治隊が守備していた正光寺、向山、氷上山の三つの砦の存在が資料から消去されている。



 ある資料によれば、松平隊は知立城から今の大府市南東部まで船で輸送部隊を運んだ。一帯の制海権を持つ水野家は邪魔しなかった。

 松平隊は北の鷲津砦を攻めて注意を引いた。その隙に酒井忠次率いる輸送部隊が南東から大高城に突入した。南を固めていた水野隊、佐治隊は邪魔しなかった。

 一説には、松平隊が大高城周辺に現れると、水野隊、佐治隊は戦わずに砦から退去したともいう。砦にいたのは弟信近ではなく、信元本人という説もある。


 打ち合わせが終わった。

 広間に酒と食事が運ばれてきた。首脳陣はその場で夕食を取った。

 義元は上機嫌で「芭蕉」という能を舞った。


 中国の山の中に僧侶が住んでいた。

 ある日、僧侶が家でお経を挙げていると、不思議な女性が現れた。女性は「自分は芭蕉の葉の精霊です。仏の教えが知りたいのでお経を聞かせてください」と頼んだ。僧侶が聞かせてやると、女性はそのお礼に舞を踊った。

 踊りが終わると風が吹きすさび、女性の姿は消えた。外を見ると、庭の芭蕉の葉がざっくりと破れていた。


 気持ちの暗くなる能だった。

 重臣の一人が「出陣前に不吉ではないですか」と言うと、義元はひどく不機嫌になった。一説にはその場で重臣を切り殺したともいう。

 気まずい空気で夕食会は終わった。


 深夜、義元は寝室で休んでいた。

 部屋の外から騒ぎ声が聞こえた。

 義元は飛び起きて怒鳴った。


「うるさい!」


 義元は部屋の外にいる警備番に呼びかけた。


「騒いでるのは誰だ!確かめてこい!」


 しかし夜中に騒いでいるのは誰もいなかった。

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