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十七日夜、信長は清州城の茶室に信頼する家臣を集めた。
庭の隅にある詫びた茶室である。遼廓亭のようだった。
狭い部屋に大男四人が集まった。
当主の信長。家中の2トップ、柴田勝家と森可成。相談役の丹羽長秀。
信長は三人に状況を説明した。
「今日夕方、情報が入った。
十九日の昼、今川義元の本隊が田楽坪に入る。少数精鋭でこれを討ちたい。どうだろうか」
三人は即答出来なかった。「出来る訳ない」とも、「今すぐやりましょう」とも言えなかった。
信長は奇襲に活路を見出していた。二度の「体験学習」で奇襲の精度は上がっていた。
三人も奇襲しかない、とは思っていた。しかし大きな問題があった。十九日の情報は本当に正しいのだろうか。
長秀は消極的だった。
「まずは情報の裏を取りましょう。
実相寺では不確実な情報に踊らされました。ここは慎重に動きたい」
勝家は積極的だった。
「五日の昼には義元は確かに寺にいたのです。裏取りに時間を割いたから夕方に攻め込む事になった。どこかで『これで十分』と線引きしないと、また勝利を失います。
私は簗田出羽という男をよく知っています。半端な仕事をする男ではない。裏取りは必要ないと考えます」
可成はバランスを取った。
「明日一日の猶予があります。二つの班を作って課題に取り組みましょう。
一方は情報収集班。明日の夕暮れまでしっかり情報を集める。
もう一方は作戦立案班。勝ち筋を見付けます。一帯は谷間の入り組んだ複雑な地形と聞きます。信頼出来る、口の堅い地元出身者を呼びましょう」
信長は可成の案を取った。
「では権六(勝家)は静かに、素早く人を集めろ。
五郎佐(長秀)は裏取りを頼む。三佐(可成)は勝ち筋を見付けろ。権六は俺を補佐して二班をまとめろ。
明日夜、主だった面々を広間に集めて会議を行う。それまでには形を付けよう」
三人は頭を下げた。
信長は茶室に極秘に人を集めた。人選は勝家が担当した。
作業班は地形の検討や情報の裏取り作業を進めた。




