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鉄砲組は秀吉達の方にやってきた。
大将は上品に挨拶した。
「我らは越前から参りました。
私は荒深小五郎と申します。こちらは甥の三宅弥平次」
副将は凛々しく挨拶した。
「三宅弥平次と申します。以後御見知りおきください」
秀吉は挨拶した。
「織田上総介様家来、木下秀吉と申します。こちらは元同僚の前田利家」
「前田利家と申します!今は色々あって浪人中です!」
四人は挨拶を交わした。
小五郎は秀吉に尋ねた。
「それで、支払いの事ですが……」
秀吉は請け負った。
「期日までに必ずお支払いします。津島商人が全員破産するまで借金してやりますよ」
「そうであれば、熱田の馬借頭から借りた方がいいでしょう。
戦に勝ちたいのであれば、兵法ではなく運送を学ぶ事です。ここで馬借頭と縁を作っておけば、木下殿の将来に必ず有利になります。
頭を口説く時は呼んでください。私も行きます」
馬借の上には県トラック協会のような馬借頭がいて、ここが各地の馬借を取りまとめていた。馬借頭は金融業も兼業しており、地元のボスとして君臨していた。
馬借頭と友好関係を築く事が輸送を円滑に行うコツだった。
十人の槍足軽組がやってきた。周りは声を上げた。
十人は野武士のような集団だった。「粗にして野だが卑ではない」という感じで、恰好は汚いが、決して卑しくはなかった。背中に鞘付きの槍を背負っていた。
組大将は蜂須賀正勝。色黒、丸顔で黒団子のような青年である。元は斎藤道三に側近として仕えていた。道三死後は尾張に移り、幾つかの戦いで名を挙げたが、今は主君と喧嘩して浪人になっていた。
正勝は利家に話しかけた。
「蜂須賀正勝と申します。我ら十騎、前田殿に世話になりたい」
利家は覚悟を尋ねた。
「お前なら俺が首になった事情を知っているだろ。今回は復帰のために相当無理するつもりだ。楽に稼ぎたいなら他の職場を探してくれ」
「いいや、この戦で一番安全な場所は前田殿の陣です。楽をしたいから仲間に入れてください」
利家の家臣の村井長頼が騎兵十人を連れてやってきた。
騎兵は馬借の従業員だった。戦闘はともかく、馬の扱いは上手かった。
秀吉は利家に話しかけた。
「これで三十人揃ったな。後はお前次第だ」
利家は秀吉に頼んだ。
「俺はずっと槍一本で戦ってきた。部隊を率いるのは今回が初めてになる。
力を貸してくれ、秀吉。俺が知る限り、お前はこの世で最も賢く、最も勇敢な人間だ。お前がいれば必ず勝てる」
「俺はただの根性なしの事務屋だって」
「違うんだよ。本当に強い人間は威張らない。優しくて真面目なんだ。そういう人間を集めて本気の今川家と戦える事を嬉しく思う」
三十人は互いに挨拶を交わした。
小五郎と正勝は集団から少し離れた場所に並んで立った。
正勝は小五郎に挨拶した。
「お久しぶりです。俺は生きていると信じていましたよ。
今は何を?」
「色々です。武者修行したり、傭兵したり。子供相手に塾をやったり、医者をやったりもしています。
蜂須賀殿も元気そうで良かった」
「どこに行っても上司と喧嘩ばかりです。俺はね、斎藤山城っていう最高の上司を知っていますから。どうしてもあの方と比べてしまう。
この戦い、勝つか負けるか分かりませんが、あなたといれば必ず生き残れます。
頼りにしています。明智光秀様」
決戦が迫っていた。
(続く)




