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10-14

 信長は近隣諸国に援軍を要請した。

 六角家は兵二千を派遣した。

 信長の妹を妻にしていた東美濃の苗木城主、遠山直廉は自ら兵三百を率いて参戦した。

 今川家の同盟国の武田家、北条家は長尾景虎への対応で義元に援軍を出す余裕はなかった。


 織田家は戦争準備を整えた。尾張国内の物資移動は活発化した。運送業、傭兵業でバブルが発生した。


 秀吉は森可成からの書状を携えて熱田の前田邸を訪れた。

 熱田には全国各地から傭兵や運送業者が集まっていた。

 背に荷物を括り付けた馬が通りを行き交っていた。港には千隻を越える船が停泊していた。物資を買い付ける市場では聞き慣れない方言が飛び交っていた。

 酒場は昼間から傭兵で満員だった。中には殊更に入れ墨を見せびらかす人間もいた。

 街の治安は急激に悪化していた。


 利家は街外れに厩舎と蔵を借りて馬借を営んでいた。

 馬房には十頭の馬が入っていた。村井長頼の指示で厩務員五人が働いていた。

 秀吉と村井は互いに会釈を交わした。


 馬借は馬を使った輸送業である。今で言えばトラック運送会社だ。

 利家の体には商売の才能が眠っていた。社員一人、痩せ馬一頭で始めた馬借はバブルに乗って社員十一人、馬十頭に急拡大していた。


 厩舎の隣に蔵があった。従業員五人が荷物を出し入れしていた。

 利家は蔵の前で従業員に指示を出していた。

 声は威圧的だが、指示自体は簡単で分かりやすかった。道が分からないという従業員にはその場で地図を書いて渡してやった。

 利家は城では武士らしく肩衣袴に刀を差していたのに、街では法被に半股引で夏祭りのような恰好をしていた。笑ったら殺しに来るので秀吉は無言で手紙を渡した。

 利家は手紙を読んで雄たけびを上げた。


「よし、よし、よーし!

 森殿が陣借りを認めてくださったぞ!これで帰れる!熱田牢屋から出所だ!」


 自費で参戦する事を陣借りという。陣借りした武将は戦闘後、「これこれこういう戦果を挙げました。褒美をください」と味方指揮官に催促する。しかし基本的に戦果の押し売りなので、必ず褒美がもらえるとは限らない。海外の観光地で、勝手に写真を撮った後に金を要求する現地住民のような存在だった。


 秀吉は利家に釘を刺そうとした。利家はペラペラ喋った。


「いや。もし自分一人、槍一本で参戦したら殿は許さない。自分の復帰ばかり考えず、戦全体の勝利を考えて、部隊で参戦すべきだ」


 秀吉は感心した。このままもう少し社長をやらせた方が本人の更生のためにもいいのではないか、と思った。おそらく信長もそう考えるだろう。

 秀吉は尋ねた。


「それでお前、金はいくらあるんだい?」


「備(そなえ。三十人程度の歩兵部隊)一個を雇うだけの蓄えはある。問題なく行けるだろう。

 よし、じゃあ寄せ場に行こうぜ。ともかく人集めだ」


 利家は会社を村井に任せて熱田神宮に向かった。

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