10-11
朝十時、義元一行は西の漁港から屋形船に乗って南の蛭子岬に向かった。
一行は船内で美味しい物を飲んだり食べたりした。住職はハイペースで飲んだ。
健康志向の義元は飲めるが飲まないタイプだった。彼は窓から見えるピンク色の景色を題材に和歌を詠んだ。
元康と家臣十人は馬に乗って西の海岸線を進んだ。
元康率いる五人は怪しい人物が浜辺にいないかチェックした。
鳥居元忠率いる五人は内陸部まで入って警戒した。住民に話を聞いたり、あちこち動き回って道や地形も確かめたりした。
船は蛭子岬を回った所で一旦止まった。
岬の東側に恵比寿海岸があった。浜辺に若い海女十数人が立っていた。全員碧志摩メグのような恰好をしていた。
海女は船に向かって手を振った。
船内の一行は嬉しそうに手を振り返した。
住職は一行に言った。
「これからナマコ取りをご覧に入れます!」
一行は喜んだ。
義元は冷たく釘を刺した。
「いや、申し訳ないがそういうのは必要ありません。彼女達には後で礼を言ってください」
船は再び動き出した。
海女は義元や若手エリートの目に止まるチャンスだったので残念がった。
恵比寿海岸の北に愛知のワイキキビーチこと宮崎海岸があった。
船は浜辺に寄せた。一行は船から降りた。
海焼けで黒光りした漁師数十人が浜辺に立っていた。元康達は少し離れた松林に馬を繋いで待っていた。
住職は一行に言った。
「これから地引き網をご覧に入れます……」
一行は喜ぶ振りをした。こんなナマコは見たくなかった。
屈強な黒い漁師は「ワッショイ!」と掛け声をかけながら、綱引きのように海中から網を引っ張った。
これはこれで楽しかった。一行は手を叩いて応援したり、一緒に掛け声をかけた。
元康は海を、元忠は陸をじっと眺めた。