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原作の修正力ってどこまで発揮されるのかな?



 とりあえず、と睦月は一同を見回した。

 とりあえず、前世で見知った顔のキャラたちは、前世のゲームと同じ名前であった。

 転生したら前世でプレイしたゲームの世界だった、とかいう展開は割とよくある展開になりつつあるくらい当時流行っていたが、あくまでもそれらは漫画やゲーム、小説でのお話だ。自らが体験したいと思った事はない。


 転生して、世界に転生したのがたった一人、という話もあれば複数の転生者がいるというものもある。

 既にこの場に他にも転生者がいるので一人ではない、というのは少しだけ妙な安心感があったけれど、絶対的に安心できる要素ではない。

 外見がそのままであっても中身が違うとなると、原作と同じ展開になった時に原作の展開通りに行動してくれない可能性もある。むしろそっちの可能性の方が圧倒的に高かった。


「オレが言うのもなんですけど、ところで皆さん原作通りの展開をお望みだったりしますか? オレが皆さんの事調べた結果、そうじゃないと思ったからこうして声をかけさせてもらったんっすけど……もし原作通りをお望みなら申し訳ないっすけどオレはそれを阻止するつもりっす」


「うん、原作は好きだけど、それはあくまでも創作物という点で見ればの話であって。実際に自分がその通りの体験をしろとなるとそれはちょっとお断りしたいかな」


 蓮の言葉に即座に返したのは瑛里だった。声にこそ出してはいないが伊織と胡桃も頷いている。

 何の反応もしていなかった睦月に、またもや自然と視線が向けられていた。


「まぁ、私も原作はちょっと……って思ってるけど。でも、もうこの時点で少し原作から微妙に外れてない? 具体的に言うなら私は部活に入ってないし、私の知るゲームグラフィックだと鳴瀬さんは髪の毛もうちょっと長かったはずだし、蓮もそんなカチューシャしてなかったしもっというならそんな口調じゃなかったよ。六条さんもそれ言うと口調が若干違うかなーってなるんだけどさ」



 そう、既にそこそこ原作とは異なる点が出ているのだ。このまま原作のストーリーが開始されたとして、果たして本当に自分が知ってる話通りの展開になっていくかとは……生憎思えなかった。


 例えば睦月は本来ゲームだと部活に入っている。弓道部だ。

 外見も黒髪ポニーテールのきりりとした和風美人である。メインヒロインっぽい外見と言えばいいだろうか。

 だがしかし、転生して自分がそうなってしまっているこの睦月は帰宅部だった。


 次に瑛里。

 彼女は本来青い髪をゆるく三つ編みにしているはずだが、その三つ編み部分は存在していない。本来あるはずの部分を思わず凝視していると、瑛里もそれに気づいたのだろう。

「邪魔だったから、つい」

 首筋を撫でながらそう答えた。

 まぁ、気持ちはわからないでもない。夏場は本当に髪が邪魔に思える時が多々あるのだ。いっそばっさり切ってしまおうか、と睦月も過去何度か考えたが、睦月の髪は短くすると全力で跳ねるタイプの髪質だったため、仕方なしに伸ばしている。


 蓮は先程見た通り、原作にはないカチューシャを身に着けているし、何なら中身が前世男だったと言っているのだ。原作での彼女は活発元気系のよく動き回る後輩キャラだったと記憶しているが……方向性は似ていても決定的に違うと言える。



 外見が原作とそう変わっていないのは胡桃と伊織だ。


 とはいえ、胡桃は金髪ツインテールのツンデレ系後輩、というある意味テンプレなキャラクターであったはずだが、こうしてみる胡桃はツンデレとは程遠い気がするし、発言ももっと強気で生意気な感じがしていたが、今の胡桃は開き直って宣言した時はともかく普段からそういうテンションというわけでもないだろう。


 伊織は……原作だと桃色の髪と巨乳が特徴的な、所謂お色気担当系のキャラだ。

 髪は毛先の部分だけ緩く波打っており、全体的にふわふわした雰囲気が漂うお姉さん、といった感じだった。

 けれども中の人が前世社会人だったからか、今の伊織は確かにふわふわした外見ではあるが、椅子に座っていても背筋がしゃんと伸びていて学生というよりは秘書のような雰囲気すら漂っている。

 色気、というよりは凛々しさの方が強く存在していた。


 こうして見ると、成程、転生者であったならばこの違和感に気付かないはずがない。原作を知らないのであればともかく、知った相手が見れば既にイレギュラーが発生しているのだ。訝しく思うのが当然の流れであった。


「オレが調べた限りでは、他にもいたんすよ。転生者。ただそっちはどうにも原作至上主義っぽいから下手にこっちが接触すると厄介な事になりそうだなーって……思ってたんっすけど……」

「歯切れ悪いね。どうしたの?」


 睦月が問いかけると、蓮はやや視線をあちこちに彷徨わせて言うべきかどうかを悩んでいるようでもあった。

 ……いや、実際に悩んでいたのだろう。その様子からあまりいい話ではなさそうだと察する。


「いやその、先月の事故のニュース、知らないっすか? ほら、あの、雨で路面が濡れてそのせいで滑って横転したトラックに巻き込まれて死んだ女子高生二人の」

「あぁ、あの。確か他校の……女子高、だったよね」


 睦月には心当たりがなかったが、伊織は知っていたらしく僅かに表情を曇らせる。


「はい、彼女たちも転生者でした。そして死んだあの日、彼女たちは……これはオレの推測なんですけど、多分、原作通りに事を進めるためにとある人物を殺そうとしていた可能性が高いっす」


 その言葉に、思わず息を呑んだ。


「まって、まって何それ。どういう事?」

「いや、本来なら既に死んでるはずの人なんっすよ、その人。けど何でか知らないけど生きてて。もしかしたら他にもいる転生者の中でもよくある、ほら、原作で死んだ人を救済しようとかって考えの人がいるのかなとも思うんっすけど、そこら辺はオレでもちょっとわからなくて。

 ただ、本来なら死んでるはずの人がいて、それが生きてるとなると原作通りに話が進まない。だから殺そう。そういう考えに至った可能性が高いんすよ……」

「こっわ! え、転生して原作通りに進めるのに邪魔だから殺しちゃおうって発想がもう既に怖いんですけど!? モンスター蔓延るファンタジー世界で魔物殺そうってのとはわけが違うんですけど!?」


 思わず自分で自分を抱きしめるようにして、二の腕をさする。気温は相変わらず高いままだというのに、何故だか唐突に寒気すら感じてしまった。


「その可能性に辿り着いたのって、なんで?」


 睦月が聞こうとした事を、胡桃が代わりにとばかりに問いかける。


「SNSっす。とはいっても全体公開してるやつじゃなくて、鍵かけて限られた人しか見られないってやつなんっすけど。まぁそっちを見る事ができまして。

 そこであからさまに殺すって書いてたわけじゃないけど、考えようによってはそう思える事が」

「あー、あぁ、ネットね。馬鹿なの? 鍵かけて限られた人しか見られないって言ったってそれ絶対安全じゃないじゃん。あと、うっかり手違いで自分の手で鍵解除しちゃったりとかって事がないとも言えないのに」

「おっと、まるで過去にやらかしたような反応っすね」

「黒歴史だから聞かないで」

「了解っす」


 思い出したくないとばかりに首を小刻みに振っている胡桃に、蓮もそれ以外の誰も何も突っ込まなかった。胡桃のその黒歴史とやらは恐らく確実に前世のものだろう。


「あの、その人たちの事はともかくとして、それ以外の転生者の存在は? 救済しようって考えの人たちなら、こっちと同じだと考えてもいいんじゃないかしら?」

「……それが、いるとは思うんっすけど、誰がそうなのかまでは掴みきれなかったっす。なので現状、オレが把握している転生者っていうのは生きているって言葉を付けるなら――ここにいる人たちだけっすね」


 伊織の言葉に蓮は重々しくそう答えた。

 冷静に考えると転生者結構いるな。どこか呑気にそんな事を考えてしまったが、そのうちの二人は既に死んだという。主要キャラに生まれたならばある程度原作に巻き込まれるのは確定しているが、その死んだ二人はまず間違いなく主要キャラではない。

 というか主要キャラは既にここに大体揃っているのだから、そこはわざわざ確認しなくてもわかりきった事ではあった。


 知ってるゲームの世界に転生してモブとして蚊帳の外でまったり過ごすくらいが丁度いいと思うのだが、モブは場合によっては死亡する確率も上がる。

 ここにいる面々は転生する際に特に神様らしい存在に死んだ後に会ってこれから貴方はどこそこの世界に転生しますよ、とか言われたわけでもなく、別の世界に転生すると言う事で慣れない世界で生き抜くための特典とやらを授けられたわけでもない。


 けれど、その原作通りに事を進ませようとした人たちはどうなんだろうか。所謂転生特典とやらを授けられていたが故に、どうにかなると判断して行動に移した可能性もある。

 まぁ、死んでしまったらしいので、その特典とやらは存在していなかったという事になるのかもしれない。



「うぅ~ん、ねぇ、でもちょっと思ったんだけど、本当に原作とやらが始まるのかしら? さっき御巫さんが既に色々と違うって言ってたけど、その最たるものがあるでしょう?

 それ考えるとここ、ただのパラレルワールド説もあり得ると思うのよね」


「パラレルワールド、ですか? 世界観が似ているだけの平和な世界だというのなら、それはそれで大歓迎、だけど……違いの最たるものっていうのは?」

 小首を傾げている伊織に、瑛里もまたつられるように首を傾げた。

 この二人、見た目から感じる雰囲気は全くもって違うし何なら真逆にも見えるのに、細かい仕草だけは先程からちょこちょこかぶっている。それでいて本人たちは気付いていないのだろう。睦月としては見ているだけで微笑ましいのでそのままでいいと思ってはいるが。



「え? 貴方たちも原作知ってるんでしょ? じゃあ何でそこ突っ込まないのかなってずっと思っていたのだけど。学校の名前が微妙に違うじゃない」

「ちょちょちょ、それどういう事っすか!? めっちゃ原作通りっすけど!?」

「えぇ~? だってここ、私立神薙高等学校でしょ? 原作は神薙学園だよ?」

「いやいやいや、え? 学園? 違うっすよ。私立神薙高等学校っす」

「え~?」

「えええ?」


 伊織と瑛里が首を傾げていたのも束の間。今度は蓮と伊織がそろって首を傾げる結果となった。



 ――とりあえず、話が拗れる予感がしたのは言うまでもない。

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