表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/29

ヒロインじゃないから仕方ない



 そもそもプレイヤー目線でも紬と暦の存在は不審なのだ。

 最初のプレイでは信じていたけど最後に裏切られて二週目、お前らにもう騙されないからな! と決意を新たにプレイする、なんていう感じですらなく、一週目の時点で既に怪しい。

 主人公達が逃げ込んできた時、化け物が近づいてきている時に早く戸を閉めろと叫んだのは、そいつに見つかる前にという風にも受け止められるが、実際は違う。


 紬と暦の存在は、化物達の中でも異界の主に近い代物であり、万一そこで他の化物と遭遇してしまえばすぐに正体がばれてしまうからというものであったらしい。化物の中には完全に理性を失っているものもいれば、人間の頃の記憶を持ったままの者もいる。そういった奴らと遭遇してしまえば、かつて彼らを陥れた存在だとすぐさま主人公達にバレてしまう。だからこそ、紬と暦は基本的には動かない。じっと、ひたすらに弱者の振りをして主人公達が戻ってきた時に情報を纏めるという役割に徹している。


 実際最初にどこを探索するか、という話が出た時に紬が調べた方がいいと言う場所には、間違いなく化物がいる。プレイヤーからすれば化物がいるのであれば、そこには何らかの情報がちゃんとあるのだろうと思えるし、何ならイベントかと思うだろう。何もいない、何事もない、というのであればむしろ外れかと思うはずだ。

 暦が紬の言う場所以外だと……と提示する情報は、紬に比べると重要度が低そうなものだ。

 例えば最初、まず欲しいのは情報だ。職員室の中に特に目ぼしい情報がなければ次に行くのは高確率で図書室あたりだが、紬が図書室を挙げるのであれば暦は保健室を提案する。

 今行く必要あるか? と思われる保健室だが、暦は、

「もしかしたら他にも迷い込んだ人がいる、もしくはいたかもしれません。ならば保健室を利用する、した可能性は高いです。それならば、手掛かりの一つくらいはあるのでは……」

 控えめにそう主張するのだ。


 言われてみればそうかもしれない。それにもし化物と遭遇して逃げる事ができたとして、無傷でとはいかなかった場合、薬はあった方がいい。薬がなくても止血に使うであろう包帯などがあるといいかもしれない。

 行けるなら行ってみようか、と思える提案ではあるのだ。


 ……二人の提案に従うと間違いなく化物と遭遇するし、下手をすれば主人公以外のメンバーが死ぬわけだが。


 初っ端から仲間が死ぬ事で、その場所は重要な何かがあったのではないか、とプレイヤーに思わせる事もできるし実際瑛里も前世で放課後エフギウムをプレイした時はまんまと騙された。


「正解は提案された場所はその時点では探索しない。そうすれば化物に遭遇する確率はぐっと下がるし、一度探索を終えて職員室に戻った時の紬の質問には行くつもりだったけど道に迷った、を選べば好感度が上がる」

 正直これでどうして好感度が上がるのか。

 ドジっ子萌えとかそういう属性でも持ち合わせているのだろうか。

 それとも人間だった頃を思い出して主人公達が無事であった事に安堵したのか。

 化物目線で何だこの馬鹿な人間、と嘲った可能性もある。

 この時点での紬の考えはわからないが、とにかく少しだけ好感度が上がる。


 道を間違えて予定と違う場所を探索して、危機的状況を回避している主人公に呆れつつもいっそここまでくると強運ね!? という気持ちになってくるのか、好感度が上がってくると紬の態度は徐々につっけんどんなものから、仕方のない生物ねぇ、みたいな生温かいものへと変化してくる。

 ……それ、好感度上がったって言えるかなぁ、と思わなくもないが、態度が緩和したのであればそういう事でいいだろう。きっと。


「暦に関しては探索から戻って来るたびに話しかけて探索した場所の情報を教えていけばそこそこ上がる。あとは基本的に暦の顔色が優れない、って事で紬と一緒に職員室にいるわけだから、毎回お見舞いっぽい感じで何かアイテムを渡していくとかアイテムが無い最初の時とかは心配してる感じの事を言えば大丈夫」


 そう言うと瑛里はちらっと伊織が文字をノートに書きこむのを見た。


 紬 あらあらうふふ

 暦 チョロイン


 総評 癒しと優しさに飢えている


「…………」


 見間違いかな、と思って瑛里は一度眼鏡を外して目を擦って、眼鏡を掛けなおしてもう一度確認したがやはり見えている文字に変わりはなかった。

 書いてる事は多分間違ってないんだろうけれど、何ていうかもっとこう、オブラートに包もう……? と言いたくなるのは何故だろう。



「あと、好感度じゃないけどこれは言っておくべきだと思うから。

 まず睦月、一緒に行動するのが誰であれ、ちょっと化物と交戦しないといけない状況があるからその時に使えそうな武器を選ぶ時には弓だけは選んじゃダメ」

「うぅん、メルスクでは弓道部だったけど、私原作回避したくて弓道部ですらないからそもそも使えませんし」

「使うと弦が駄目になってその隙に化物が接近して首切っちゃうから、使い慣れなくても包丁とかそこら辺にしておいてね。弓選ぶと即死だから」

「そもそも弓と矢があるっていう状況なんだ……いや、あっても選ばないけど」


 ゲームは違えどどうやら放課後エフギウムの睦月も弓道部だったのだろうか。そうでなければ弓なんて選ばないだろう。ボウガンなどの矢をセットして撃つだけ、というのであればまだ選んだ可能性はあるが、弓なんて和洋どっちであっても撃つのは簡単なものでもない。初心者が見よう見まねでやったとしても、思った以上に飛ばないものだ。


「次に胡桃。家庭科室で粉塵爆発だけはやめて。いくら危機的状況に陥ってもそれやっちゃうと教室事吹っ飛んでバラバラ死体になるから」

「そう言われたら絶対やらないから安心して。むしろゲームのワタシ、何がどうしてそれをやろうと思っちゃったの……」

「ゲームの胡桃は性格が小生意気っていうか好戦的だったからじゃないかな」


 念の為言う事にしたけれど、何と言うか多分大丈夫かな、と瑛里も口にしてから思った。そういやゲームの胡桃はもっと生意気で、相手が先輩であろうと相手を侮るような事を言ったりもしていた。

 しかし今ここにいる胡桃は流石にそういう態度には出ないだろう。


「伊織は……主人公と一緒に行動しない場合、胡桃と一緒に探索に出るのだけはやめた方がいいかも。胡桃と二人で音楽室探索した場合、高確率で死ぬ。そこさえ回避すれば後はどうにかなると思うんだけど……」

「主人公視点じゃないと、何があってそうなるのかわからなくて困るわねぇ……えぇ、でも流石に死にたくはないし、もし他の誰かと二人で探索って事になったら胡桃だけは選ばないようにするわ。

 別に貴女が駄目ってわけじゃないんだけど……もしその時になったらわたしと一緒にならないようにお願いね」

 胡桃も流石に目の前で伊織が死ぬ状況を見たくはないのだろう。言われて、神妙な顔で頷いていた。


「蓮は……正直主人公と一緒に行動しないでくれた方がいいかもしれない。主人公が一緒に行動しようって言い出す前に睦月か胡桃と一緒に行動するって宣言してくれた方がいいかも」

「はぁ、まぁ、いいっすけど。え、そういうって事は主人公と一緒にいる方がオレの死亡率高いって事っすか?」

「高いっていうか、主人公の繰り出すネタ選択肢、ダントツで多いから……うっかり聞き流したり適当に返事した結果、って事が無いとも限らないし……」

「あー、その場のノリと勢いでノッちゃうかもって事っすね。オーケーオーケー把握したっす。確かに今のオレならうっかりやらかすかもっすね」

 はは、と乾いた笑いを浮かべているが、洒落にならない。ゲームならば目の前に選択肢という存在でもって自己主張してくるが、いざ異界に引きずり込まれて主人公らしき人物と共に蓮が行動をする事になった場合、選択肢なんてものは当然目の前に出てきてはくれない。てっきり気を紛らわすための普通の会話だと思ったらそれがネタ選択肢でした、なんて事になったら。気付いた時には手遅れの典型的な状況である。


「僕は……まぁ、状況を回避したいがために髪を伸ばさず切ったから、大丈夫、だと思いたい」


 ゲームのビジュアルと比べて瑛里の髪が短かったのは、やはり原作回避のための手段であったようだ。

 具体的に何があるのか気になりはしたが、ゲーム内容と髪を切る事で回避できる状況を考えるとロクな事ではないのであえて誰も何も聞かなかった。



「正直これ以上は特に話せる内容もないかと。あとは、もし二学期になって引きずり込まれたら、職員室から出て他の場所で情報交換するって事もやろうと思えばできるから……」

「実際引きずり込まれる前にあれこれ言われてもそもそも全部なんて覚えてらんないっすからね。もしここがそうだとして、その時は主人公と一緒に行動する人以外の二人一組同士が別行動しないで固まって行動するとかも有りでしょうし」

「とにかく、ここがそうじゃないと祈るしかないかな」


 とはいうものの。まだ他の三人の話を聞いていないとはいえ、ここがどの世界線であっても面倒な事に変わりはないような気がしている。


「とにかく、もしここがそうであったとしても、紬と暦の好感度上げておけばいいわけでしょ? それならまだどうにかなりそう」

「あ」

「何? 途中で遮るのはいいけど、一言だけとか不吉さしか感じないからヤメテ!?」


 ぴゃっと肩を跳ねさせる胡桃に、瑛里はごめん、と目で訴える。

 瑛里が知ってるゲームの展開で、これだけは気を付けろと言うのは今言ったばかりだ。だが……


「一つ言い忘れてたけど。僕たちは主人公じゃないから大丈夫だと思いたいんだけど、紬と暦の好感度は完全に上げ切っちゃうとトゥルーエンドじゃなくてバッドエンド行くから気を付けてね。

 八割くらいを目安に上げるようにして。じゃないと二人に気に入られて閉じ込められるから」

「ちょ、それ言い忘れちゃダメな情報じゃないっすかー」


 なんというしまっちゃうエンド。

 他のゲームはどうだか知らないが、このゲームに関しては言える。

 好感度は敵――と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ