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そうこれはよくあるDIEジェスト



 オープニングが終わって自由行動ができるようになる、という意味ではここからがスタートなのだが。

 まずはここで職員室にいる面々をようやく確認できるようになる。この時点ではまだ主人公は誰かと一緒に行動するわけでもないので、オープニングが終わって次はチュートリアルのような状況になるわけだ。


 主人公。そして同じ学校でもある五人の少女。そして見覚えのない二人の女生徒。先程早く戸を閉めろと叫んだのはその女生徒の片方でもあった。

 五人の少女の描写は今更言う必要もないだろう。外見は髪型や口調の違いこそあれど、ここにいる五人なのだから。


 二人の女生徒。こちらは片や灰色の髪にアイスブルーの目をしたクール系美少女で、もう片方は黒髪を肩のあたりでそろえている大人しそうな大和撫子系和風美人である。五人とは違う制服ではあるものの、この二人の制服は同じなので彼女たち二人は同じ学校の生徒なのだという事だけはプレイヤーからもわかる情報であった。

 戸を閉めろと叫んだのはクール系の方だ。


 ここが一体どこなのか、とかさっきのあれは何なのか、という疑問もあるにはあるが、まずはお互いに自己紹介をしようという流れになり、主人公が名乗り、五人の少女がそれぞれ名乗り、そうして最後に二人の女生徒が名乗る流れとなる。

 クール系がつむぎと名乗り、和風美人がこよみと名乗った。

 苗字は? と主人公が質問すると、紬が露骨に不機嫌になって「それ、いる?」と言い出して結局名乗られる事はない。

 プレイヤー目線からするとこの時点で二人は少々怪しい人物だ。


 主人公と一緒に来た少女以外の四人の少女も、主人公達より少し先に来ていて、その時には既にこの二人はここにいたらしい。とはいえ、二人も何とかここに逃げ込んでそうたってないうちに主人公達が来たとのことで、詳しい事はあまり知らないのだそう。


 どちらにしても情報が足りない。ここでこのままこうしていても戻れる確証もなく、危険ではあるが調べるべきだろう、という流れになる。ゲームだからそうじゃないと話が進まないのはわかっているが、実際にそんな体験する事になったら間違いなく率先して行動したくない展開であった。


 主人公はここでようやく本当の意味で行動できるようになる。

 探索に行く際に、一緒に行動するパートナーを選ぶ事になるのだが、連れていけるのは一人だけだ。

 こんなわけのわからない場所で二人で行けというのも酷な話だとは思うが、集団でぞろぞろと行動するのも危険、かといって単独で行動するのも危険、と言う事で主人公は誰か一人を連れていくことになるわけだ。

 ちなみに選ばれなかった残りの少女たちはそれぞれが二人組になって行動する。


 紬と暦はというと、暦の顔色が悪く流石に行動するには厳しいと紬が言うので彼女たちは基本的に職員室に待機している。



「基本は二人一組で行動するんだね」

「うん。ただ、主人公がそうして行動するのはいいんだけど、問題は主人公じゃない二人一組の方なんだよね……」

 うんうん、と頷いていた睦月に困ったように首を傾げつつ言う瑛里の眉間には皺が寄っていた。

「……どういう事?」

「そっちの世界のゲームがどういうのがあるかってのはよくわかんないけど、多分僕の世界のとそう大きな変わりはないと思うんだよね。技術力とかに大きな差があれば話は違ってくるかもしれないけど。

 で、皆の世界のゲームで、こういう経験ない? NPCが最大の砦っていうやつ」


 瑛里の言っている意味が最初はよくわかっていなかったであろう胡桃が「んん?」と唸るようにしていたが、やがて合点がいったのだろう。それよりも一瞬早く理解してしまった面々も「あ~」と言いだしそうな顔をしている。良かった、どうやら通じたようだ。瑛里はそう判断してほっと息を吐きだした。



 瑛里の言い方は少々わかりにくいかもしれないが、主人公が操作をしないで勝手に行動するキャラクター。NPCと呼ばれる彼らは、時として下手なラスボスより厄介な存在である。

 こちらが指示を出してその通りに行動してくれるのであればまだいいが、それぞれのAIによって行動する場合、何故そうなったと突っ込みたくなるような行動を取るキャラクターも中にはいるのだ。

 そう、お助けキャラのはずが何故かプレイヤーの足を引っ張る事もある。そんな困ったNPCのせいでイライラするだけならともかく、最悪そこでゲームの進行がストップして中々先に進めない、なんて事もある。

 何回やっても何回やってもここだけがクリアできなくて結局ここで諦めた、なんていう事だって起こり得る、味方と見せかけてとんだお邪魔キャラクター。NPCは時としてそんな可能性を秘めている。敵に回るとやたら強敵なくせに味方になると途端に使えなくなる、なんて事もよくある話だ。それはNPCに限った事ではないが。


 例えばプレイヤーキャラの後ろをくっついてくるだけならまだいいが、本当にただついてくるだけで、目の前に穴とかあってもそのままそこに真っ逆さま、なんて事もゲームによっては普通にある展開だ。

 何故! 目の前に! 穴があるってわかってるのに!! お前は落ちていくのか!! せめて飛び越えろよ!

 むしろついてくるならプレイヤーキャラのアクションそのままに真似してついてこいよ!!

 そう叫びたくなるような事を、多分誰もが一度くらいはゲームをやってて経験するかもしれない。


「NPC……AI……うっ、頭が」


 どこか遠く虚ろな目をした胡桃がそう呟いて頭を抱えている。可哀想に、きっと嫌な思い出があるに違いない。深くは聞かないが、それでも瑛里は同士だと判断して温かい眼差しを向けた。


「何が言いたいかっていうとね。主人公と一緒に行動しなかった私たちは、唐突に知能指数が大幅にダウンする呪いにでもかかっているのか、割と簡単に死ぬ」

 くっ、と眼鏡を指で押し上げて決め顔で断言するが、言っている内容は割と酷いものである。


「わりとかんたんにしぬ」

「そう。ビックリするくらい唐突に死ぬ」

「びっくりするくらいとうとつにしぬ」


 別に誰もリピートアフタミーなんて言ってないのに何故だか瑛里の言葉を復唱してしまった一同の目が徐々に死んでいく。

 えっ、いやそれどうすればいいの? そんな思いがありありと浮かんでいたりする。



 主人公と行動を共にしない他の面々も、主人公と同じように学校の中を探索に行くのだが。

 この時の選択肢によって割と簡単に命運が左右される。主人公たちはどこに探索にいくか、というのを聞かれ、それに答えると主人公達が選ばなかった場所を探索する事になるのだが。


 ゲーム序盤で普通に考えると主人公達も無茶をするような選択を初見のプレイヤーはまず選ばない。縛りプレイでもしているならともかく。そしてバッドエンドから回収してくぜ、って人もともかく。

 まずは無難にでもクリアして、全体の流れを把握してからエンディング回収、というプレイヤーの方が多いのではないだろうか。とりあえず一度クリアさえしてしまえば攻略本なり攻略サイトを頼るなりを解禁する、という人もそれなりにいるだろう。勿論最初から攻略情報に頼る人もいるが、初回だけは新鮮な気分で初見のまま行く、というプレイヤーはそれなりにいるはずだ。


 お笑い選択肢みたいなのの誘惑に負けてあえて選ぶ者もいる事は否定しないが。


 あとは、初っ端から攻略情報見てもいまいちよくわからん人物名とか単語とか出てきて意味がわからん、という人も少数ながらいる。そういうプレイヤーは初回から攻略情報を見てもいまいち役立てられている感じがしないせいか、やはり二週目からが本番などと言っている事が多い。


 ここで主人公達がそこそこ無難な場所を探索する選択肢を選ぶと、選ばなかった場所を探索する少女たちは高確率で危険な状況に陥る。場合によっては確実に死ぬ事もあるが、ある程度は運も絡んでくる。同じ選択肢を選んで進めたとしても、一週目のプレイでは死んだはずの展開だが二週目では死ななかった、なんて事もある。


 これは選択肢もそうだが、選ばれなかった少女たちの組み合わせにもよる。


「最初は何がなんだかわからないけど、何度もプレイしてると学校の中で何が起こっているかっていうのはランダムじゃなくてほぼ決まってるらしいから、タイムテーブル把握できるようになれば全員生還エンドも楽に見れるんだけど、ロクな事前情報や知識もないままやると高確率で死ぬんだよね」

「えーっと、その、死ぬ、のはまぁいいとして、何でそれがわかるんっすか? 一度探索して、職員室に戻って来た時に誰々が戻ってきてない、程度ならともかくなんっすけど、次の探索でうっかり死体でも発見しちゃうんっすか?」


「うっかりというよりは……学校内を徘徊してる化け物が生首持ってたりぶん投げてきたり、あと首のない死体が転がってるだけとかならいいけど、場合によってはどこかの教室のロッカーに押し込まれてて、調べようとしてロッカー開けたらご対面とか寄生型の化け物に死体操られて主人公達に襲い掛かったりとか」


「ね、ねぇ? そのゲーム、年齢制限とかあったりしない?」

「特にはありませんでしたけど」

「うっそぉ……」


 どう考えてもトラウマができそうなゲームだというのに……? と伊織が信じられないようなものを見る目を向けるも、そんな目を向けられた所で瑛里にはどうしようもない。ゲームの残酷度合いとかそこら辺のチェックとかをしたのはゲーム会社とその他のそういうのを審査する委員会みたいなものであって、ただ一介のプレイヤーでもある瑛里ではないのだから。



「化け物が学校内部をうろつくルートとか、そういうの覚えてしまえば割と楽になるとは思うんだけど、主人公と一緒に行くキャラによっては同じ攻略方法やろうとすると難易度が変わったりするんだよね。

 だから、そういう時は行くルートを変えたりしていかないといけないから、全員同じルートで行けばクリアになるってわけじゃないの。で、違うタイミングで調べたりする教室とかもイベントが微妙に異なってるから何だかんだ一通りのキャラを相棒にしてプレイするのはそこまで苦ではなかったんだけど……」


 単純に五週すれば全部のイベントを網羅できるというわけではないんだよね。


 一度言葉を切って告げる。


「何、そっちにも隠しキャラとか出たりするの?」

 睦月の問いに、瑛里はそうだったらまだ楽だったかもね、とこたえる。


「このゲームにも、好感度なるものが存在します……」


 何というか化け物云々よりもシステムの壁の方が立ちはだかっているような気がしてきた。

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