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俺的見解【sideクリス】

双子の兄、セシルは出会った人すべてを魅了する。

肩の辺りで切り揃えられた金髪は陽の光を浴びるとキラキラと輝き、小さな顔に細い首筋、すらりと伸びた手足は少女かと思うほど華奢で、人間離れしている。さながら森の妖精のようだ。

それでいて人懐こく、誰にでも親切で天使のような笑顔を振りまくので、会う人会う人、みんな一瞬でセシルのとりこになる。

幼い頃はそれでも良かったが、成長するにつれ、年頃の少女達にもてはやされるようになると、揉め事が増えた。少女達の間で誰が1番セシルにふさわしいか、すったもんだが起こる一方で、その親達も、誰の娘が1番王子にふさわしいのか醜い争いを始める。

日々ごたごたが絶えない中、当のセシルはニコニコしているだけだった。セシルは誰も嫌いにならない。それは裏を返せば、誰も好きにならないと同じこと。セシルにとっては、みんな同じように大切で、それ以上でもそれ以下でもない。

俺は元々無愛想な性格なのと、ほんの一瞬生まれた早さが違うがゆえの第2王子なのとで、そういったごたごたに巻き込まれることはまずなかった。ただ、兄の周りで巻き起こる様々な事件を、傍観者として興味津々で観察していた。



そんなある日、突然セシルが恋に落ちた。

相手はソフィアという名の同い年の少女。

俺達の伯父上の再婚相手の娘だ。関係としては、血の繋がらない従妹にあたる。

今までどんな時もまばゆいばかりの笑みを絶やさなかったセシルが、ソフィア嬢に出会ってからは赤くなったり青くなったり、慌てたり落ち込んだりと、別人のようにどたばたしていて面白おかしい。


セシルでもこんな風になるのか。

恋って恐ろしいもんだな。


と、感心していたのもつかの間、ソフィア嬢はソフィア嬢で、義理の兄であるアランに想いを寄せていることが、これまたおかしいほどあからさまに態度に出ていて、すぐにわかった。

憐れセシル、失恋決定。

ところがセシルは、ソフィア嬢の気持ちをわかった上で、ぐいぐいアプローチをかけているようだった。


正直、ソフィア嬢ってそんなに良いか? というのが、俺の本音である。

見た目はまあ可愛い部類の少女だとは思うが、美形というほどでもない。容姿だけで言ったら、セシルの方がよっぽど綺麗な顔立ちをしている。

ソフィア嬢の何が良くて、あんなに執着しているんだ? それが知りたくて俺も彼女と接触を図ってみた。

アランの小さい頃の話なんかをすると、ソフィア嬢はとても喜んでもっと聞きたいとせがみ、すぐに打ち解けた。何度か話すうちに、なんとなくわかってきた。

王宮でのいざこざとは関係なく付き合える相手。自分に媚びてこない、屈託のない笑顔を見せてくれる相手。今まで周りにいなかったタイプだから、セシルには新鮮に感じられたのかもしれない。


やがて数年経ち、セシルとソフィーの不毛な片思いはどちらも成就することのないまま、アランが寄宿学校に入ることになった。2年もの間、学生寮に入って帰ってこない予定だという。

落ち込むソフィーのもとに、セシルが毎日、ソフィーの好物を手土産に、せっせと通い始めた。

両手に抱えきれないほどの手土産を楽しそうに馬車に詰め込むセシルを、思わず引き止めた。


「それ全部ソフィーに食べさせる気か。豚になるぞ」

「まさか。せっかく行くんだから、屋敷のみんなに渡してるんだよ。伯父さんとマリア様にも、侍女のクレアにも普段からお世話になってるからね」


それでぴんときた。

近々王宮で開かれる夜会で、ソフィーは社交界デビューすることになっている。そのエスコート役を買って出るつもりなんだな。

通常は、初めて参加する令嬢は家族や近しい親族にエスコートしてもらうことが多い。ソフィーの場合は、兄であるアランが最も適任だが、そのアランがいない。そこをセシルは攻めるつもりなんだな。従兄妹という立場を最大限に利用して、ソフィーに一歩近づこうとしている。そのためにあの屋敷のみんなに自分を印象付けて、外堀から埋めようというわけか。


果たしてセシルの策略は、見事に失敗に終わる。

なぜなら、ソフィーのエスコート役に抜擢されたのは、この俺だったからだ。


「セシルは、どうしても色々あるじゃない? 立場上さ」


母上に呼び出され、そんなことを告げられる。

母上は、ソフィーのことをとても気に入っており、義理の叔母としてそれはもうものすごく溺愛している。

王宮でのセシルをめぐる争いは相変わらず絶えなかったし、歳を重ねるごとにむしろ酷くなってきている。セシルは何も悪くないが、そういった揉め事にソフィーを巻き込みたくないと、母上が伯父に伝えたようだ。


「セシルには可哀想だけど、公の場でセシルがあんな態度とったら、嫉妬した女の子達にソフィーちゃんがどんな目に遭わされるか…想像しただけでぞっとするわ」


セシルの恋心は当然のごとく母上も承知している。はっきり言ってだだ漏れだ。あんなに甘ったるい目線をソフィーに送っていたら、誰でも気付く。


「その点、クリスだったら公私ともに安全だって、アンドリュー兄さんも納得していたわ。当日はしっかりソフィーちゃんを守りなさい。任せたわよ」



そして夜会当日。

ソフィーと腕を組んで歩きながら、いつセシルにど突かれるかと内心ビクビクしていたが、美しく着飾った令嬢の群れに囲まれて、セシルはそれどころではないようだった。

あの集団の中にソフィーがいたかもしれないと思うと、母上の判断は正しかったとしか言いようがない。


「セシルはモテるのね。噂には聞いていたけど、あんなに…大変そうね」


のほほんとした口調でそう言い放つと、もう後は興味がないというように、ソフィーは食事の並んだテーブルへとつかつか歩いていった。

セシルがあれだけ足繁く通い詰めたというのに、相変わらずソフィーにはアランのことしか見えていないようだ。





アランはソフィーのことを、妹としか思っていない。

これはセシルとソフィーの共通認識だが、俺はちょっと怪しいと思っている。


夜会に先立ち、俺がソフィーのエスコートすることになったと、アランに手紙を書いた。寄宿学校に行く直前、夜会デビューについていく約束をすっぽかしてしまう、それだけがソフィーに申し訳ないと、アランが言っていたからだ。

クリスがついているなら安心だ、よろしく頼む。そんなような内容の返事が来るとばかり思っていたのに、返ってきたのは予想とは少し外れた内容の手紙だった。

この手紙を、セシルに見せるべきか。

はたまたソフィーに伝えるべきか。

俺にしては珍しく何日か悩んだ末、どちらにも何も伝えていない。


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