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2年ぶりの再会

第1話入れ替えました。

「アラン、帰ってくるらしいじゃん」


突然ノックもなく飛び込んできた声に、私は大きく溜息をついた。


「それが何か?」

「どうするの? 何か策はあるわけ?」


無表情の私を気にすることなく、部屋の真ん中にあるソファにどさっと座り込む、黒髪の少年。

この国の王子であり、幼馴染でもあるクリスだ。


「策だなんて、物騒なこと言わないでくれる?

私が何か良からぬことを考えてるみたいじゃない」

「いやー良からぬことなんじゃないの、アランにとっては」

「失礼ね。アランは貴方と違って、私がすることにいつも優しく微笑んでくれる素晴らしい人よ。私が何をしたって、迷惑になんて思われるはずないわ」

「その自信はどこからくるわけ」

「アランは私のこと大好きですもの。妹としては」


義理の兄であるアランは、幼い頃から私の憧れであり、ただ一人心ときめく相手。目の前にいる本物の王子様であるクリスよりずっと、優しくて頼もしい、私にとってのたった一人の素敵な王子様なのだ。


でもアランは、私のことは可愛い妹としか思っていない。いつも私の気持ちを思いやって世話を焼いてくれたり、心配して怒ったりしてくれるけれど、それだけ。たくさん甘やかして可愛がってくれるけれど、アランに一人の女の子として見てもらえたことは一度もない。


そのアランは17歳の時、騎士を養成する寄宿学校に入り、以来2年間、手紙のやり取りだけで直接会う機会はまったくないまま。今日やっと、めでたく主席で卒業し、この家に帰ってくる予定だ。


「ますます素敵になってるかしら。楽しみだわ」


私はうっとりと目を細める。

記憶の中のアランは、まだ少し幼さが残るものの、綺麗な金髪をふわりとなびかせて優しく微笑む。


「ソフィー」


と私の愛称を呼ぶ少し甘い声が耳元をくすぐる。


「ソフィー入るよー」


と、想像とはかけ離れた無遠慮な声がして、やはりノックもなくドアが開いた。


「アランが帰ってくるんだってね。ソフィア嬢これから何する気? あ、クリス来てたんだ」

「よぉセシル。俺もついさっき着いたところ」


肩まで伸びた金髪をさらさらと手で弄びながら入ってきたのは、クリスの双子の弟、セシル。当然のことながら彼もこの国の王子であり、私の幼馴染でもある。

セシルはクリスの横に座ると、優雅に足を組んでにやにやとこちらに目を向けた。


「何する気って…別に何もしないわよ」

「そう? だってアランに会うのは2年ぶりでしょ。感動の再会なんだから、きっと何か行動を起こすんじゃないかなーと期待して来てみたんだけど」


そうだそうだと大きく頷き、クリスも私を見つめる。

この兄弟は・・・。


けれど2人がそう思うのも無理もない。

アランと離れて生活することになったこの2年間、私がどれだけアランを想っているのか、そばで見てきたのは他でもないこの2人。


最初の数週間はただただ寂しくて部屋に引きこもって泣き暮らした。そのうちに「でも寄宿学校は男子のみと聞いているから、離れてる間にアランに恋人ができることはないはず」と気持ちが落ち着いてくると、せっせと手紙を書いたり、アランが興味のありそうな本を届けたり、習ったばかりの刺繍を施したハンカチを贈ったり、思いつくことは何でもやった。

アランからの返事は何通かに一回だったけれど、それはそれは流暢な文字で、あくまでも妹の私を思い遣る手紙が届いた。時にはその中にアランの友人らしき人達の名前が出てくることもあって、その人達が一体どういう素性の人なのか調べたりもした。

そのうちの数人とは、アランには内緒で何度か手紙のやり取りもした。もちろん、普段のアランの様子がどんな感じなのか知りたくて。


一方で、自分磨きも怠らずに頑張ってきた。

スキンケアやスタイルアップのエクササイズで外見を整えることはもちろん、淑女としての振る舞いや知識の習得、できることは何でもやってきた。

元々は小さな田舎町の娘だった私も、今では立派な公爵令嬢として、巷に名を馳せている。


子供の頃からちょくちょくと城を抜け出して遊びに来ていたクリスとセシルは、そんな私の努力やあれやこれやを、よく知っている。


「ソフィーは本当見事に化けたよな。小さい頃はいかにも田舎娘だったのに」

「ねえ、まさかこんなに変わるとはねえ。見た目も中身もすっかり大人になっちゃって、アランが帰ってきたらびっくりするよきっと。その顔もまた見ものだよね」

「そこから、ソフィーがどう動くかもまた面白そうだよな」

「わくわくするね」


歌劇の続きでも待ちわびているかのような2人のやりとりに、私は溜息をつく。


大好きなアラン。

2年ぶりにようやく会える。

彼を振り向かせるために、今日までできることは全てやってきたつもり。

だけど。


「2人の期待を裏切るようで申し訳ないけれど、この後の作戦は本当に何もないのよ」


独り言のようにぽつりと漏らすと、双子王子はきょとんとして顔を見合わせた。


そう、本当に今、私の頭の中は真っ白。

できる限りアランの情報は集めた。

できる限り自分を磨いてきた。

でもその後は?

どうしたらアランは私を好きになってくれるの?


色仕掛け?

そんなことであの頭の切れるアランが揺らぐとは思えない。

可愛く甘える?

妹として甘やかしてくれるに違いない。

そっけなくして気をひく?

優しいアランは強引に追いかけるなんて真似はしない。そのまま距離が開いてしまうかも。


恋って何?

人を好きにさせるってどうしたらできるの?


肝心な部分がぽかーんとクエスチョンマークのまま、もうすぐアランが帰ってきてしまう。


「ソフィア嬢いつもの勢いはどうしたんだろう」

「いざ本物が現れるとなると流石のソフィーも萎縮するんじゃないか」

「それにしても・・・」


よく聞こえる声でこそこそ話す2人。

私はその2人の前に一歩進み出ると、膝をついた。

王子ではなく幼馴染として気安く接する私は、2人に対してまずこんなことはしない。

それをよく知っている2人がはっと押し黙った。


何だかんだ、会う度にからかってくるけれど世話焼きでもある幼馴染達は、私を助けてくれる。

拙い手紙しか書けなかった私に、名作と呼ばれる恋愛小説を薦めてくれたのはセシルだし、クラスの友人の素性をそれとなく教えてくれたのはクリスだ。


「お2人にお願いがございます」


ゆっくりと顔を上げると、黒髪に紺色の瞳の青年と、金髪に碧色の青年、どちらもが私をまっすぐに見つめていた。


「どうか私のこの想い、応援してくださいませんか」

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