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1-4「パイロット候補生」

1-4「パイロット候補生」


 しかし、やはり、物事は簡単には進まなかった。


 幸いなことに、僕は、パイロットの適性有りと認められて、パイロット候補生として教育と訓練を受けられることになった。


 だが、本物の飛行機には、簡単には触らせてはもらえなかった。


 まず待ち受けていたのは、基礎体力作りのための厳しい訓練と、進学した場合に受けたであろう、高等教育相当の内容の教育だった。

 訓練自体は、元々牧場での仕事をこなしてきたため体力はあったからさほど問題では無かったが、勉強の方は大問題だった。


 僕の基礎教育課程での成績は、ちょうど真ん中あたりと言ったところで、勉強をすること、そしてみなのレベルについていくことは、本当に大変だった。


 つまらないのだ。


 だが、僕は、志願兵となる際にそれなりの覚悟はしていたつもりだった。

 この試練を乗り越えなければ、僕は飛行機には乗れないだろう。

 そのチャンスは、ただ1つしか、これしかない。


 その上、僕は国庫から給与までもらっているのだ。国には国の都合があるとはいえ、普通はお金を払って受けなければならない教育内容を学べるうえに、逆に給与が出るのだから、不真面目なことはできなかった。


 幸いなことに、同期で志願した仲間の内で、面倒見のいい、気のいい奴が1人いて、彼のおかげで僕はどうにか教育課程の突破に望みを持つことができた。


 彼と僕はいい友人になったが、彼のことはまた後で話そう。

 ここで簡単に済ませたくは無いからだ。


 素晴らしい友人のおかげで、僕はどうにか落第せずに済んだ。

 だが、それでも、僕はまだ、飛行機に触ることすら、できはしなかった。


 パイロットの訓練というものは、いきなり操縦桿を握れるものではなかったのだ。


 僕は簡単に考えていたのだが、パイロットになるためには長く、険しい道のりが待ち受けている。


 まず、僕の大嫌いな勉強がある。飛行機の仕組みや理論、エンジンについての知識や、飛行機の一般的な操作方法、計器類の見方や意味。諸々を頭の中に詰めこみ、その上、様々な計算も素早くできる様に習熟しなければならない。

 特に、航法に関する話は、僕には難しかった。落第しない水準を満たすだけでも精いっぱいだった。


 それから、いよいよ飛行機を飛ばせるのかと思えば、そうではない。

 機上訓練と言って、地上に置かれた機体で、機器の使いかたを訓練するのだ。

 ようやく本物の飛行機に触れたわけだが、ここで触ることができるのは、現役を引退したおんぼろの旧型機に過ぎない。

 実際にエンジンを回すことも無く、何の迫力も、爽快感も無かった。

 それでいて、少しでも間違った所作をすれば、教官からはこっぴどく怒られるのだ。


 次に待ち受けていたのは、教官の飛行機に搭乗しての訓練だった。


 最初に飛行機で空に浮かび上がったその瞬間は、待ちに待ったその時だった。

 僕はとても感動したし、あの瞬間のことは、一生忘れはしないだろう。


 だが、その後に待ち受けていたのは、生殺しの時間だった。

 本物の飛行機に乗ることができたのはいいが、操縦桿はなかなか触らせてもらえない。

 いわば、とんでもないとびきりのご馳走を1口味見させられた後、長いことお預けを食らってなかなか食事にありつけない様なもので、何とも苦痛だった。


 それでも、僕はここまで、様々な試練に打ち勝って来たのだ。

 ただ飛行機に乗りたい、自分の意思で空を飛びたいという一心で。

 だから、少々お預けを食らったところで、どうということは無い。

 ただ、逸る気持ちを抑えるのが大変だっただけだ。


 そして、そのお預けの時間は、そう長くは無かった。


 遂に、僕自身の手で操縦桿を握れる時が来たのだ。


 僕が初めて操縦桿を握り、自分の意思で飛行機を操作した時、後席には、何かあればすぐに操縦を代われる様に教官がいて、鋭い視線で僕を監視してはいた。

 それでも、ようやく僕は、長年の望みを叶えたのだ。


 あの、僕が幼かったあの日、偶然舞い降りた勇敢なパイロットたち。

 彼らが自身の命を賭けて目指した世界。

 僕が、あの日から見上げ続けて来た、遠く、遥かな世界。


 僕は、その、広大で、美しい世界の一員となった。


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