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16-19「迎撃戦」

16-19「迎撃戦」


 敵機の編隊の先頭で起きた大きな爆発は、一瞬でグランドシタデルの巨体をバラバラに引き裂き、周囲にその破片をき散らした。

 落下していく残骸の中でひときわ大きなものが別のグランドシタデルにも直撃し、衝撃を受けたその機はコントロールを失って真っ逆さまに墜落していった。

 グランドシタデルがどれほどの操縦性を持っているかは分からなかったが、あれだけの大型機だ。巻き込まれてしまった不運な1機はもう、体勢を立て直すことはできないだろう。


 グランドシタデルは、少しでも防御火力を濃密なものとするために密集した編隊を組んでいた。

 それだけに編隊の中ほどで起こった大爆発の影響は大きく、多くの機体が飛散した破片を回避するために回避行動をとり、回避行動をとった機を避けるためにさらに周囲の機体も回避行動をとらざるを得ない状況となった。


 爆発を起こした機を攻撃した友軍機は、辛うじてその爆発を回避し、編隊の下方へと抜けて離脱に成功した様だった。

 だが、空中で破片の直撃を受けてしまったのか、2機の友軍機の内の1機は薄く煙を引いている。

 その2機はグランドシタデルからの反撃の防御射撃から逃れるため、眼下の雲の中へと突入して行って姿を消した。


 ダメージを受けた機がこの後どうなっていくのか気がかりではあったが、僕は自分の意識を切り替え、目前の任務に集中する。


 味方の戦闘機部隊の攻撃によって、整然と組まれていたグランドシタデルの編隊が乱れている。


 防御火力を集中するために組まれていた密集隊形は、バラバラになり、あっちにもこっちにも、分散して飛行している状態だ。

 敵機は再度合流して密集した編隊を組みなおそうとしている様子だったが、グランドシタデルは恐らくはその最高速度と思われる速度で飛行しているため、一度前の機体と距離が開いてしまうともう一度距離を詰め直すのが難しい様だった。


 無線越しに、レイチェル中尉の口笛の音が聞こえてくる。


《友軍機がやってくれたぞ! 絶好のチャンス到来だ! 各機、はぐれて孤立している集団を狙う、攻撃開始だ! 》


 僕らが無線で応答するのを待たず、レイチェル中尉は先頭をきって突進を開始した。

 僕らは少しも躊躇ちゅうちょすることなく、中尉の後に続いていく。


 隊形を崩されてしまったグランドシタデルは、ひとまず全機での密集隊形を取り直す前の応急処置として、近くに居る機体同士で集まりつつある様だった。

 レイチェル中尉が狙っているのは、そうやってできたグランドシタデルの集団の1つ、10機ほどの小さな集まりを作りつつある編隊だった。


《各機、あたしが先に突っ込んで防御射撃を引きつけるから、2機のロッテで確実に1機ずつ仕留めろ! 》

《《《《《《了解! 》》》》》》


 僕らはレイチェル中尉からの指示に答え、攻撃態勢に入った。


 レイチェル中尉が敵機からの防御射撃を引きつけるために先頭に出て、その後にカルロス軍曹とナタリアのロッテが、それに続いてジャックとアビゲイルのロッテ、そして最後尾にライカと僕のロッテが位置する。

 僕らは敵編隊と同高度で接近し、真正面に敵機の姿を捉えた。


 敵機と距離が縮まるのが早い。

 お互いに正面を向き合って突進を続けているから、その相対速度は優に時速1200キロメートルを超えているだろう。


 元々大きいとは思っていたが、昼の間に近くで見ると、その巨大さには本当に圧倒される。


 そして、その優れた設計。

 胴体は流線形で凹凸の少ない真っ直ぐでスリム、主翼は高速を発揮させるためか後退角がついていて、いかにも速そうだ。垂直尾翼は巨体を安定して飛行させるためか大きく、印象的なアクセントになっている。

 装備された4基のプロペラが力強く回り、戦闘機の様な速度で前へ、前へとグングン進んで行く。


 もし、これが戦争ではなく、あれが敵機ではなく、僕が戦闘機に乗っていなかったとしたら。

 僕は、小さな頃、空を見上げ続けていたあの頃と同じ純粋じゅんすいな気持ちで、その高性能に感銘かんめいし、はしゃいで、無邪気にあこがれたかもしれない。


 だが、僕にとってあの機体は敵機で、そして、撃墜しなければならない、危険で、恐ろしい存在だった。


 敵機に装備された銃塔が作動し、接近を続ける僕らへと銃口を向け、火を噴いた。

 元々100機以上あった編隊から切り離され、孤立した10機からの射撃だったが、それでもすさまじい弾量だ。


 その射撃は、レイチェル中尉の狙い通り、先頭を突っ込んでいく中尉の機体に集中した。

 中尉は敵機が正確に狙いをつけられない様に機体を巧みに操縦して回避運動を取りつつ、自身へと向けられる多数の銃口を気にもとめずに敵機へと接近を続けていく。

 中尉の機体の表面に火花が散り、被弾する様子がはっきりと見てとれたが、中尉は突進を止めなかった。


 僕らの隊長とは言え、レイチェル中尉の度胸にはいつも驚かされる。

 あるいは、自身の腕前と、ベルランD型の高性能に絶対の信頼を持っているのだろうか。


 いずれにしろ、中尉が身をていして僕らを守ってくれている。

 絶対に、攻撃を成功させなければならないだろう。


 レイチェル中尉の機体は回避運動で敵機からの反撃をかいくぐり、十分に敵機に接近した上で射撃まで行った。

 さすがに命中弾は少なかったが、それでも何発かは命中し、敵機の表面に着弾の火花が散る様子がはっきりと見てとれた。


 僕らの盾となるという役割を終えた中尉の機体はそのまま降下に移り、重力を利用して速度を稼ぎながら離脱していく。

 それに続いて、カルロス軍曹とナタリアの2機が攻撃を開始した。


 2人は僚機になってから日が浅く、お互いに連携するための訓練を十分に出来ていないはずだったが、2機の連携は訓練の不足をほとんど感じさせないものだった。


 それは、正確には、ナタリア機にカルロス軍曹がうまく合わせる、といった形のものだ。

 ナタリア機はセオリーよりも少し離れた前方を進み、回避運動も自由に取りながら接近し、彼女の判断で攻撃目標を定めて敵機へと攻撃を加えて行った。


 その腕前は、ベルランD型に機種転換してからの飛行時間が少ないにも関わらず、見事なものだと思わずにはいられない。

 ナタリアの射撃はグランドシタデルのエンジン部分を射抜き、左翼側の2基のエンジンが黒煙を噴き上げて停止した。

 少し奔放ほんぽうな印象のある飛び方ではあったが、彼女は自分の機体を乗りこなせている様に見える。


 そして、カルロス軍曹もナタリア機に少しも劣らず、それ以上に操縦が上手かった。

 普段からレイチェル中尉の2番機として、「僚機に合わせる」ということに慣れているためか、ナタリア機の飛び方にも問題なくついていくことができる様だ。


 軍曹はナタリア機が攻撃を加えた1機に攻撃を集中し、敵機の操縦席に射撃を集中してその操縦系統を奪った。

 それは、301Aが初めて記録したグランドシタデルの撃墜記録になる。


 レイチェル中尉と同じ様に降下して離脱していく2機に続いて、ジャックとアビゲイルが攻撃を開始した。


 ジャックは面白い奴だったが、こういう場面ではいつも基本に忠実で真面目だった。

 彼は敵機からの射撃を浴びながらも冷静に機体の姿勢を保ち、危なげない操縦で敵機へと接近し、正面から相対しているためにほんのわずかしか得られない短時間の間に正確な射撃を浴びせた。

 派手さはないが、堅実で、確実なやり方だった。


 ジャックから攻撃を受けた敵機は、右翼側のエンジンから薄く煙を引いた。

 どうやら内部で火災が生じた様だったが、残念ながらすぐに消火されてしまった様だ。


 だが、そこへアビゲイル機が追い打ちをかけた。

 彼女はジャックよりも積極的で、果敢に攻撃を加えた。

 敵機と空中で衝突するのではないかと思えるほどの距離まで射撃を加え続け、敵機のプロペラとアビゲイル機の垂直尾翼が擦れるのではないかと思えるほどに両機は接近した。


 アビゲイル機の果敢な攻撃によって、その敵機の右翼側のエンジンは完全に停止し、火災が生じた。

 すでに自動消火装置が作動した後で消火剤が不足しているのか、新たに生じたその火災は激しく燃え広がっていく。

 やがて、その熱で翼が溶けたのか、燃料タンクにまで火災が到達して誘爆したのか、グランドシタデルの巨大な翼が2つに折れた。

 当然、翼を失った敵機は墜落していく。


 次は、僕と、ライカの番だ。


《ミーレス、編隊の端の機を狙う! 私が右主翼のエンジンを、ミーレスは左主翼のエンジンを! 》

《了解、ついていく! 》


 僕は分隊長を務めるライカからの指示に答え、彼女の後を追った。

 ライカは、敵編隊の左端、僕らから見ると右端の1機に狙いを絞った様だ。


 僕らからの攻撃を受け、2機の僚機を失った敵機からは、激しい防御射撃が浴びせられてくる。

 ライカの機体の垂直尾翼を貫通していく弾が見えた。

 そして、僕の機体にも、無数の弾丸が飛んで来る。


 僕は、操縦席の周囲を駆け抜けていく曳光弾を横目にしながら、照準器越しに敵機への狙いを定めた。

 射撃距離に入り、敵機とすれ違うまでの時間は1秒か、2秒か。


 ライカは敵機の右主翼に射撃を集中し、すぐさま降下に入って離脱していく。

 僕は、彼女の攻撃の成果を確認する間もなく、自分も敵機に対して射撃を開始した。


 僕がトリガーを深く押し込むと、ベルランに装備された5門の20ミリ機関砲が一斉に咆哮ほうこうした。

 照準器越しに、発射された曳光弾が敵機の左主翼のエンジンへと吸い込まれていく様子がほんの一瞬だけ見える。


 敵機との衝突を避けるために僕は機首を下げ、戦果を満足に確認できないまま離脱に入った。


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