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3-4「ベルラン」

主役(予定)の機体の登場です

3-4「ベルラン」


 2機の新鋭機との対戦は、僕らの一方的な敗北で終わった。


 ジャック機を先頭に、編隊を組みなおした僕は、僕らの左上方に位置を取った2機の新鋭機を見上げる。


 大気を押しのけて飛んでいくような、力強い印象の空冷機とは異なり、大気を切り裂く様な、洗練された鋭利さを感じさせるその機影は、未だ試作の身ながらも、何とも頼もしそうに見えた。

 何しろ、つい今しがた、その高性能を目にしたばかりなのだ。


《よぉーし、者ども、聞こえてるかー? 》


 我らの教官殿、レイチェル中尉が無線越しに呼びかけてくる。


《さっきは、残念だったなァ? これが実戦じゃ無かったことに感謝しろよ? 》


 中尉の言い草に、僕は少しムッとした。

 今日、こういう訓練をするときちんと教えておいてくれたら、もっとやり様はあったはずなのだ。例え、相手が、自分たちの機体よりも1世代以上も新しい高性能機なのだとしても。


 僕らも、これまで努力を重ね、訓練を繰り返して来たのだ。

 未熟とはいえ、僕らなりの意地というものがある。


 だが、手も足も出せずに負けてしまったこともまた、事実だ。


 皆、僕と同じ様に、少なからず反論したいという気持ちがあったはずだったが、誰もそれを口には出さなかった。


《まーまー、そう不貞腐れるな。……あの山脈の向こうじゃ、あんな性能の戦闘機が毎日やり合っているんだ。優勢な敵に奇襲を受けるのも、訓練で済む内に体験しといた方がいいだろ? いつでも有事に備えて、実戦で生き残れるパイロットを育てるのがあたしらの仕事ってもんだからな》


 少し煽り過ぎたと反省したのか、それとも、本心がたまたま出たものなのか。

 中尉の言葉に、僕は、目の前に広がるアルシュ山脈の向こうでは、戦争がもう何年も、ずっと続いているのだということを思い起こす。


 自分たちよりも強力な相手と対峙した時、僕は、どの様に戦えばいいのだろうか?

 考えてみれば、今回の様な訓練は、僕らにとって必要なものなのかもしれない。

 中尉の言う通り、いきなり本番よりは、遥かにましだろう。


《それより、ひよっこども、よーく見とけよ? あれが我が王立空軍で試験中の次期主力戦闘機、「ベルラン」だ。まだ実戦配備はされていないが、お前らがパイロットコースを完了するころには配備になっているはずだ。お前らが任務に就く時には、アレに乗ることになるかもな》


「アレに、僕が? 」

 僕は、全身の血液が沸き立つような感覚と共に呟いた。

 それは、エメロードに初めて乗った時の感覚と似た感覚だった。


 エメロードは、素晴らしい飛行機だ。そう思うのには今でも変わりがない。

 だが、あの新鋭機、「ベルラン」は、このエメロードよりも遥かに速い。

 きっと、エメロードから見るのとは違った風に世界が見えるだろう。


 僕は、それを見てみたい!


《中尉殿、あんまりひよっこどもに期待させちゃぁ、かわいそうですぜ》


 無線越しに聞こえて来たその声に、僕は聞き覚えがあった。

 くだけた口調だが、長年の経験によって培われた技量に裏打ちされたベテランの余裕と、風格を併せ持つ声だ。


《その声……、マードック曹長ですか!? 》


 僕は、驚きと喜びの入り混じった声をあげた。


《おう。久しぶりだなァ、ミーレス候補生。あの一件以来、やんちゃはしてないだろうな? 》


 やはり、声の主は僕の知っている相手だった。彼もまた、僕のことを覚えていてくれた様で、懐かしそうな声を出す。


 もっとも、忘れようもないはずだ。

 僕とマードック曹長は、「あの一件」、すなわち、中等練習機で宙返りをしようとして、危うく空中分解事故を起こしかけた事件で強くかかわっている。


 あの時、教官役を務めていたパイロットの冷静な対応が無かったら、僕はそのまま中等練習機を空中分解させてしまっただろう。例え命が助かったとしても、二度と飛行機には乗れなくなっていたかもしれない。

 その時、教官として同乗していたのが、マードック曹長なのだ。


 僕が戦闘機パイロットの訓練コースに進んだのと同じ時期、マードック曹長は別の部署に転属となった。その転属先は、どうやら新型機のテストパイロットであったらしい。

 王立空軍の次期主力戦闘機というからには、その開発への注力は相当なものだろう。そんな機体のテストパイロットに選ばれるのだから、空軍の中でも選りすぐりが選ばれたはずだ。

 マードック曹長なら、僕は間違いないと思ったし、さすが曹長だと、感心せざるを得なかった。


《曹長、それがそうでも無いんだ。ミーレスの奴、しばらく大人しいと思っていたんだが、昨日、あたしが目を離した隙にまた、宙返りをやりやがった。それも、基地上空で3回も》

《さんかい? ……フフッ、フハハハハっ! 》


 心底呆れた様な口調で昨日の一件を報告した中尉に、マードック曹長は豪快な笑い声をあげた。


《やるじゃねぇか、ミーレス! ぜんぜん、懲りてねぇ! このワルめ! 》


 僕は、恥ずかしさと申し訳なさで、操縦席の中で首をすくめた。

 許可なく曲芸をしないというのは、中尉からの命令であり、曹長との約束でもあったのだ。


 だが、僕は、自身の欲望に耐えることができなかった。

 反省はしているが、後悔は一切していない。だが、約束を破ったことについては、何とも申し訳ない気持ちだった。


《笑いごとじゃないよ、曹長! あたしは苦労してるんだから! 》

《はッはッは、自分で引き受けたんじゃないか! ……っと、話を変えやしょう》


 中尉の抗議を笑い飛ばそうとした曹長だったが、どういう訳か、急に笑うのをやめて真面目な口調に戻った。

 僕は違和感を覚えたが、その点を深く考えたり、追及したりする間は無かった。


《この機体、出来はいいんですがね、なかなか難産でして、実戦配備はまた、少し伸びそうなんですよ》

《またか? 何が問題なんだ? 》

《まぁ、いくつかありやす。前言ってた不意自転ってのは、機体の尻尾を伸ばして水平尾翼と垂直尾翼を拡大したら直ったんですがね。相変わらず、エンジンがじゃじゃ馬でして》

《何だ? さっきの空戦じゃぁ、順調だったじゃないか? 》

《ええ、まぁ、そうなんですがね。……本当はあんなもんじゃないんですよ、コイツは。もっともっと、やれるはずなんです。それに、装備予定の兵装がまだまだ、未完成でして。連邦や帝国の主力機にゃぁどうにも見劣りします。おかげでこっちもテスト飛行をやりっぱなしですよ》


 僕は、率直に、新鋭機に乗ることができるマードック曹長を羨ましく思っていたが、曹長は曹長で苦労をしているらしい。


《まぁ、安心しときな、ひよっこども。マードックおじさんがしっかりとこの機体を仕上げてやるから。お前らが一人前になる頃には、連邦や帝国よりもいい飛行機に乗せてやるさ》


 新鋭機ベルランは、今でも十分な高性能機の様に思えるのだが、まだまだ満足のいく出来では無いらしい。


 それに、曹長の言葉に、僕は一抹の不安を覚えた。

 パイロットの技量に差があるとはいえ、エメロードではまるで太刀打ちできなかった高性能機であるベルランを、曹長は連邦や帝国の主力機に劣る、と評価しているのだ。


 王国は、アルシュ山脈の向こう側で繰り広げられる戦争に対し、依然として中立の立場を表明し、堅持している。

 僕らが実戦に出ることはないはずだった。


 だが、もし、もしも。王国が戦火に巻き込まれる様な事態になるとしたら。


 僕らは、この愛すべき王国の空を、守りきることができるのだろうか?


《曹長殿! もう一手、お相手願います! 》


 僕は、意味も無く湧き上がって来た不安を振り払う様に無線のスイッチを入れた。


 仲間たちが、僕に続いて次々に口を開く。

 みんな、僕と同じ様な、漠然とした不安を持ったのだろう。


《まだ燃料に余裕はあります! ぜひやらせてください》

《そうです! 今度はもっとうまくやって見せますって! 》

《私も! もう1度お願いします! 》


《よォしッ! ひよっこども、いい心がけだ! マードックおじさんがしっかり鍛えてやるからな! 》


 マードック曹長は快く僕らの挑戦を受けて立ってくれた。


「ベルラン」は「隼」という意味で、熊吉の妄想の産物ですが、現実のものと無理やりすり合わせるなら、「DB601系のエンジンを積んだスピットファイア」みたいな飛行機です。隼って名前だけど一式戦闘機ではありません

何でこんな飛行機になったかというと、Bf109は別で使う予定があったのと、「モーターカノン機がもしも成功したら、きっと性能いいだろな、かっこええだろな」という熊吉の個人的な願望によるものです


続きは鋭意作成中ですので、今後ともよろしくお願いいたします

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