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13-9「強襲作戦」

12-9「強襲作戦」


 連邦軍が冬季攻勢を開始してから、4週間目に入った。

 前線はフォルス市の前面、50キロメートルほどにまで迫り、連邦軍はフォルス市を攻撃の射程にとらえようとしている。


 ラジオで盛んに放送され続けている連邦のプロパガンダ放送では、この快進撃を連日にわたって大々的に報じ続けていた。

 彼らの軍隊の司令部が実際にどのように現状を考えているかは分からなかったが、放送を聞く限りでは、連邦ではもう、王国との戦争に勝ったつもりでいるらしかった。


 実際のところ、王国にはもう、後が無かった。

 前線を後退させ続けてきたことで、フォルス市の周辺には、王国がこの戦争中でこれまで達成したことの無かった規模での兵力集中が行われていた。

 だが、これは王国の主力部隊であり、もし、この軍隊が失われてしまえば、王国はもう、敵の侵略に対してなすところが無くなるだろう。


 その上、フォルス市は王国の中部にある、重要な都市だった。フォルス市東部の鉱業地帯は王国の重工業産業の根幹こんかんで、それを失うことは、王国の兵器生産は元より、基本的な産業や経済そのものが崩壊するということでもあった。


 僕らはもう、1歩だって下がることはできない。


 これは、王立軍が反撃に転じる時が来たということでもあった。

 前線から後退させてきた兵力と、後方から増強し続けて来た兵力とを全力で叩きつけて、連邦軍の主力を一気に壊滅させ、今後のフィエリテ市の奪還だっかんや、占領された王国領への解放への道筋をつける。


 いよいよ、王立軍は、王国の命運をかけた反攻作戦の開始を決心した。


 僕ら王立空軍には、その反攻作戦の先駆けとしての任務が与えられた。

 それは、フォルス市周辺に集結した第1航空師団と第2航空師団の全力を持って連邦軍の空軍施設を集中的に攻撃し、その航空戦力を撃破して、前線上空の航空優勢こうくうゆうせいを確保するという、大事な任務だ。


 連邦軍の補給線はのびきり、前線に展開する連邦軍の部隊はその戦力を大きく低下させている。だが、王立軍の反撃の成功をより確実なものとするためには、僕ら王立空軍が戦場の上空で主導権をにぎる必要があった。

 王立空軍が戦場の上空で優位に立てば、連邦軍からの航空攻撃を心配せずに王立陸軍が前進することができる。もちろん、王立空軍によって地上部隊を支援することもできる。

 そして何よりも、王立軍側が偵察機を自由に飛ばすことができる様になれば、連邦軍の展開状況を知ることができ、その情報を元にして王立軍全体が効果的な作戦行動を実施できる様になる。


 全体的な戦力で見れば、未だに連邦軍に対して劣勢である王立軍が反撃を成功させるためには、僕ら、王立空軍が実施する航空撃滅戦こうくうげきめつせんの成功がその前提ぜんてい条件となっていた。


 僕ら301Aは、王立空軍が実施する航空撃滅戦こうくうげきめつせんの先鋒を任されることになった。

 連邦空軍が展開しているフィエリテ市近郊の空軍基地を強襲し、そこに配備されている航空機を撃破する。

 王立空軍の全力を持って実施される航空撃滅戦こうくうげきめつせんの先頭に立ち、敵機を空へと上げないままに撃破して、続いて突入して来る味方の攻撃を助けるというのが、僕らに与えられた役割だった。


 これは、僕らがこれまでに経験してきた任務の中で、最も重要な任務になるかもしれなかった。

 何故なら、僕らの任務の結果次第で、王国の将来が決まってしまうかもしれないからだ。


 敵飛行場への攻撃は、僕らと同じ第1航空師団の爆撃機部隊である、202Bが担当することになっている。僕らは202Bの攻撃を確実なものとするために、その護衛を実施し、可能であれば飛行場を射撃して少しでも戦果を拡大する。


 僕らは、南大陸横断鉄道の橋梁きょうりょうを破壊するという特殊作戦を僕らと一緒に戦った、あの、ベイカー大尉が率いる部隊と、再び協力することになった。

 僕らが再び一緒になって、この重要な任務を任されることになったのは、どうやら偶然ではない様子だった。

 南大陸横断鉄道の橋梁きょうりょうを破壊するという困難な作戦を成功させたという実績を評価されて、こうなったらしい。


 どうやら、僕らは前線の将兵からだけでなく、軍の上層部からも、実際以上の評価を得ている様だった。

 嬉しい様な、迷惑な様な。うまく言い表せない様な気分だ。


 この重要な作戦の実施に先立ち、僕ら301Aと、僕らの護衛対象となる202Bの指揮官と搭乗員全員を集めた作戦会議が実施されることになった。

 そこで僕は、以前一緒に戦ったことのある戦友たちの顔を、初めて知ることができた。


 30歳以上のベテランの顔もあれば、僕と同じ様に成人前の少年少女たちの顔もあった。

 僕らと彼らは互いに握手を交わし、1人ずつ、お互いの顔を確かめ合っていった。


 顔合わせを終えると、さっそく、作戦についての説明が開始された。

 全員から見える様に、会議室の壁に大きな作戦地図と、攻撃目標になっている飛行場を上空から撮影したものの拡大写真が貼りつけられ、作戦全体の指揮を一任されたハットン中佐が指揮棒を片手にして順に作戦内容を述べていく。


 僕らの攻撃目標となるのは、フィエリテ市の西側にある、かつてフィエリテ第1飛行場と呼ばれていた空軍基地だった。


 現在では、連邦によって「勝利記念飛行場」などと呼ばれているフィエリテ第1飛行場は、常設の大きな基地だ。

 双発の爆撃機などの運用も可能とする大きな滑走路2本を持ち、配備された機体を保護するバンカーがいくつも設置されている。

 連邦軍のフィエリテ市総攻撃に先立ち、大規模な攻撃を受けたことと、王立軍がそこを放棄ほうきする際に破壊工作を実施したために基地の設備は一度、壊滅かいめつ状態になっていた。だが、連邦軍はそこを占領して以来、その修復を進めて、今では連邦空軍の主要な拠点として機能するようになっている。


 僕らの攻撃目標は、連邦軍が使用しているその飛行場の中で最も大きなバンカーだった。

 僕らが開戦の日にいたフィエリテ第2飛行場にあった様な、盛り土をして上空から見ると自然の丘の様に見える、巨大なバンカーだ。

 フィエリテ第3飛行場に築かれたそのバンカーは、フィエリテ第2飛行場にあったものと同じ大きさで、1個飛行中隊の戦闘機部隊を、その予備機も含めて収容する規模を持っている。


 通常の爆撃によってそのバンカーを破壊することは困難で、王立軍が基地を放棄ほうきする際に実施した破壊工作も時間の不足から不十分なものとなり、十分なダメージを与えられなかった。

その結果、ほぼ無傷で連邦軍の手に渡ってしまっており、連邦軍はその強固なバンカーを効活用している。


 それを、空から攻撃して破壊し、そこに収容されている戦闘機の発進を阻止する。

 それが、僕らの作戦目標だった。


 攻撃の要量は、途中までは以前に実施した南大陸横断鉄道の橋梁きょうりょうへの攻撃任務と同じ内容だった。

 ベイカー大尉が直接指揮する機が運ぶ特殊爆弾を上空から投下し、バンカーの入り口から放り込んで、バンカーを内側から破壊する。


 それは、針の穴に糸を通す様な作戦だった。

 しかも、針から少し離れたところから糸を投げ、うまく針の穴に通さなければいけないという、無茶苦茶なことをやろうとしている。


 だが、僕らは、それが不可能であるとは思わなかった。

 ベイカー大尉は以前にも似た様なことをやって、完璧にそれを成功させているからだ。


 だから僕らは、どうやってベイカー大尉に攻撃に集中してもらうかという一点だけに注意することにした。

 ベイカー大尉が爆弾を投下するまでの間、敵機をよせつけさえしなければ、ベイカー大尉がきっと目標に攻撃を命中させてくれるだろう。


 202Bは以前の特殊作戦以来、こういった難しい任務に投じるための特別部隊として位置づけられ、訓練を続けて来ているとのことだった。

 保有機は、特殊爆弾を搭載するために改造された、王立軍の双発爆撃機のウルスが1機。そして、爆弾の搭載をあきらめる代わりに防御銃座を増設してガンシップ化されたウルスが3機。それを、僕ら301Aの、6機のベルランで護衛する。

 今の僕たちには、カルロス軍曹も加わっている。慢心まんしんすることはできないが、きっと、今回も任務を成功させられるはずだった。


 ハットン中佐の説明が終わり、任務を実施するのに当たって必要となる実務面での説明が、ベイカー大尉とレイチェル中尉から行われた。

 目標までの飛行経路や、攻撃目標への進入方向、その高度、速度、そして攻撃のタイミング。それに加え、連邦側の早期警戒網についての情報や、対空砲の配置状況、予想される連邦軍機の反撃の規模などについて説明され、作戦中のその都度の状況で取るべき僕らの隊形についても取り決められた。


 それから、僕らパイロットに対し、質疑が認められて、作戦の打ち合わせの最後のすり合わせが行われた。

 ベテランの搭乗員を中心にいくらかの質問が出され、それへの解答が済むと、作戦の打ち合わせが全て済んだとみなされ、僕らには解散が言い渡された。


 王国の将来を左右する様な重要な作戦を前に、僕らには半日だけだが休暇きゅうかが与えられている。

 重要な作戦を前にして、緊張のために休暇きゅうかどころでは無かったが、それでも、作戦を成功させるために少しでも鋭気を養っておかなければならない。


「頼んだぞ。我らの「守護天使」たち」


 僕らと別れ際に、ベイカー大尉はそう言って敬礼をしてくれた。

 ベイカー大尉は、僕らの部隊章がいつの間にか「アヒルの羽」ではなく「天使の羽」として広まり、王立軍の各所から「守護天使」と呼ばれ始めていることを知っているのだろう。

 僕らをそう呼んだのは、大尉が初めての人だった。僕らが大げさな名前で呼ばれるようになったきっかけを作ったのは、彼だった。


 ベイカー大尉は、僕らが現在、王立軍の中でどんな風に言われているのかも、当然、知っているはずだった。

 そして、恐らくは、その噂が真実であると、ベイカー大尉は信じてくれているのだろう。

 だからこそ彼は、僕らに対しての絶対の信頼を示すために、その言葉をもう一度使った。


 僕は、ベイカー大尉に敬礼を返しながら、必ず、この人たちと一緒に作戦を成功させ、そして、全員で生還しようと誓った。

 大尉から僕らへと向けられた信頼に、何としても応えたかった。


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