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第7話 踏み出す旅の第2歩

 揺れる馬車の上で手持ち無沙汰になったティグは、何か手伝えないかとマタゴに頼み、荷物の分類分けをしていた。

 そうすると、あっ、という様な顔をして。

 

「急に予定外のことが起こってしまい、纏める時間があってもそれを分類分けする時間が無かったと、ビクルーさんが愚痴を言ってました」

「う、申し訳ない。…それぐらいなら俺でもできそうだ」

「じゃあ、やっちゃいましょうか」

 

 急ぐ道というわけでもなく、目的地まで遠いというわけでもないので荷馬車はゆっくり進んでいる。そのために荷馬車で動き回っても問題はない。

 馬車の周りではオルガ達冒険者組が荷馬車の前方を護衛し、身軽で弓を使うテナは後方での護衛、ビクルーは御者をしている。

 マタゴはと言うと見本の字をなぞって、字の勉強をしている。

 この状況で何もしていないのはティグだけだった。それが非常に居心地悪く感じていた。

 だからティグ本人が原因ではあれ、仕事があるのは気が楽になっていた。

 

「これ、小っちゃいのに妙に重いな」

「あー。それは魔水晶ですね。生物に宿る魔法力を測るための道具なんですよ。確か、エコルにある魔法屋に卸すために持ってきたやつですね」

「魔法屋?」

「はい。魔法に関する書物や、先程の魔水晶を使って魔法力を測ったり、後は魔術の訓練をしてくれたりします。まぁそこら辺の業務内容は店毎に変わったりするんですけどね」

 

(魔術の訓練…、ん?)

 

「魔術と魔法って何が違うんだ?」

「え、えっとー」

 

 まだ修行中のマタゴは魔法の知識はあまり無いようで、ティグの質問に思わず答えに戸惑ってしまうマタゴ。

 そこに、流石と言うべきか御者をしながらも、ティグたちの話を聞いていたビクルーが助けを出す。

 

「魔法ってゆうのは、魔術と精霊術の総称の様なものです。魔術というのは自分が持つ《魔法力》を使い、そこら中に存在する《魔素》を操ることで現象を起こすもの。精霊術は自分の《魔法力》を使うとこは変わらないのですが、精霊が《魔素》の操作を行い現象起こすものを言います」

「精霊術の方が楽そうですね」

「それもありますが、精霊術の強みはその多彩さにあります。単純に言うと魔術と精霊術ではその規模が違います。流石に世界をひっくり返す、なんてことはできませんが魔術使いからすると、何でもできると言っても過言ではありません。精霊術こそが真の《魔法》なのではないかと言われるほどです」

「真の魔法?それは今まで言ってた魔法と違うんですか?」

「僕もその話は初めて聞きます」

「ここで言う《魔法》は、かつて人が一般的に行使していたとされる失われた技術のことです。まぁこの話はここまでに、まずは魔術を知るとこからで…」

「ビクルーさん」

 

 もはや誰にも止められないかの様な勢いのビクルーにテナが声をかける。

 護衛関係の報告なら、護衛頭をしているオルガにまず話をするはずだが、何か別の話があるようだ。

 助けられらたと考えているティグに対し、マタゴは、自分の失態を恥じる様な、申し訳ないと言う顔をしている。

 

 その中に恐れや、緊張が混じっていることには、誰も気づいていない。

 

 ◇----◆

 

「何でしょうか、テナさん」

「いえ、あの件を把握しているか確認したいと思いまして」

 

 深緑の瞳にビクルーが映し出される。

 

「はあ。事情を察することはできますが、詳しい事情説明が直接為されていないので、こちらは何とも言えませんね」

「ではこれでその事情は察することができたと考えていいでしょうか。いちいち説明しなきゃならないのはめんどー何ですよー」

「私も商人の端くれです。これで分からないほどの鳥頭じゃないですよ」

「それは良かった!それでは後方護衛に戻りますね」

「はい。わざわざありがとうございました」

 

 前々からある程度の、概要の様なものは聞かされていたが、テナの明確な目的は聞かされていない。

 そういったこともあり、ビクルーはどこまで踏み込んでいいのか試したのだ。

 

「なるほど」

 

 側から見れば、これからのことに期待を膨らませる爽やかな笑顔だったが、彼のことをよく知る、この場ではマタゴの様な者から見ればとてつもなく悪い笑みに映っただろう。

 

 ◆----◇

 

「よし、これから森の側を通る。魔物が確認されたこともある森だ。気を引き締めていくぞ」

「「「「はい」」」」

 

 魔物と呼ばれるもの達は多くの人に危険生物の象徴として恐れられている。

 魔物であれば何でも強いと言う訳ではない。比べる種類によっては熊の方が強いなんてこともある。

 そんな魔物を相手にした時に一番脅威になるのは、その生命力だ。

 それは魔物と分類されるもの全てに共通していて、鼠の魔物に遭遇した旅人が、その生命力を侮り食い殺されたなんて話もあるほどだ。

 

 魔物が確認されているも森の側を通るということに、護衛隊の面々以外も自然と表情が引き締まる。

 とそこへ。

 

「そんなに緊張しなくても、この森で魔物が発見されたのは2年前で、討伐後に繁殖していないかなどの調査も十分にされているので大丈夫だと思いますよ」

「あ、もう討伐されてるんですね」

「えぇ。ですので魔物が現れるのだとしたら、まだ確認されていない未知の個体になります」

「「そっちの方が余計に心配です(よ)!」」

「オルガさん達は魔物討伐の実績があるので大丈夫ですよ」

 

 ビクルーの言葉に魔物だけには会いたくないと、心から思うティグ。

 マタゴも「未知」という言葉に不安になり、荷馬車の中だけ別空間の様にピリピリしていた。

 

 ただ、そんな心配を余所に順調に馬車は進んでいく。途中小休憩を挟みながらも順調と言えるものだった。

 森から離れる頃には日が沈み始めていて、流れる雲、その合間から見える空を赤紫に染めていた。

 ただ、当初はもっと先に進む予定だったようで、中途半端に夜を迎えるのなら森の出口付近で止まった方がいいという、オルガとビクルーの判断だった。

 

「ビクルーさん。明日からの進路について相談したい。テナとベルドは今のうちに、焚き火に使えそうな枝を持ってきてくれ」

「分かりました!」

「うちは3人だからテナさんが居てくれると助かるな!」

「そりゃあ、あたしに女が足りないって言ってんのかい?」

「違いますって!どうしていつもそうなるんですか」

 

 オルガ自身、自分が筋肉だということはそれなりに気にしていた。

 冒険者という職業柄、オシャレという言葉には縁遠く、冒険者の癖してそんなことを気にする女が嫌いだった。

 そのため本人はそこまで気にしてはいない。

 いないのだが、そんな自分をコンプレックスに思い、それに反していつか自分も、と考えてはいた。

 

 というよりめちゃくちゃ気にしていた。

 

「姉さんは気にし過ぎですよ。エコルの大熊の方がよっぽどひでぇよ」

「あんな女と比べるな!お前ら、いい加減仕事しな」

「「へ〜い」」

「ふふっ」

 

 暖かいその雰囲気に思わず笑ってしまうテナ。

 一方ティグは、からかい合うようなオルガたちの空気を、どこか懐かしく感じていた。

オルガさんは筋肉ではあってもゴリラではありません。

実は少数派だけども、冒険者の中にはオルガ派がいたり。

エコルの町にはもっと筋肉ゴリラな人がいるようです

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