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第5話 終わる旅の第1歩

 テナの協力もあっって旅を続けこの先へと進むと決意したティグは、そのテナに連れられ今泊まってる宿とは別の宿に来ていた。

 案内された宿は通りを10分ほど歩いた先にあり、白を中心としたレンガ造りの2階建でそのすぐ隣には馬宿が併設されていた。

 

「随分と大きな宿だなぁ」

「えぇ。部屋の造りも大き目です。馬宿も経営しているので商人にとっては非常に便利な宿らしいですよ」

 

 ここに泊まる商人は余程儲けていてさぞかし大きな店の者なんだろう、なんてことをティグが考えていると、それを読んでか得意げのテナが話を続ける。

 

「こんなに立派だとさぞかし高いだろう、とお思いのそこのあなた!中に入れば分かることなんですが、この宿は食事が出ないんですよ。食堂を無くして客室を増やして、お客さんが沢山入れるようにしたらしいです」

「その代わりに料金は安めって話?」

「はい。まぁ、この宿の割にしては、って程度ですけどね」

 

 そんなことを話しながら2人は宿の中に入っていく。

 商人の宿と呼ばれるのにふ相応しく、商人らしき身なりの整った者が絶え間なく出入りしている。中には手紙やら書類やらを運んでる子供の姿も見えた。

 宿の中には話の通り食堂が無く、ただし幾つもの丸机が置いてあったり、衝立に仕切られている場所があったりと、ティグが想像していたよりもずっと広い空間が広がっていた。

 

「元々はここも食堂があったらしいですよ。少し前、建て直しをする時に厨房だったり食料を保存してた場所を部屋にしちゃったみたいです」

「そんなに泊まる部屋を増やしたかったんなら、ここもそうすりゃいいのに」

「そこはご安心を!この机たちは商人さんが商談などに使うんですよ。丸机は空いていれば自由に使ってもいいけど、衝立付きの机は使用料が必要で、そりゃもう儲けてるとこの宿のご主人が言ってました」

 

 そもそもこの宿の主人ともそんな話をしてるテナに驚くティグ。

 才能と呼ぶべきものをテナは持っているのかもしれない。

 

(情報屋でも食っていけそうだ)

 

 そういう方向にその能力を利用してる様子はないが、何気ない会話の中で大切な情報を抜かれていたり、知らないうちに知らないところで何かされている可能性もあると考えると恐ろしくなる。

 実際ティグも今朝の宿で色々あったが、結局テナが望んだ通りの結果になっている。

 その張本人はと言うと自分がどう思われているかも知らずに目的の部屋を探しているようだ。

 

「えーと。2階、2階だったのは覚えるんですが…」

「もしかして宿まで来たのに迷子?」

「うー、からかわないでください〜。おんなじ景色か続くとことか宿の部屋とか苦手なんですよ。私、人生には常に変化を求める気性なんです!」

「……」

 

 あまりにもの弱さに呆れるティグ。

「要領はいい方なんで」と言いながら2階をあっちこっちにウロウロしている。普段はそうなのかもしれないが、今の状況では説得力が全く無い。

 宿の職員らしき人達が段々と不審人物を見るような目になっているのだが、部屋探しに集中しているテナはそれに気付いていないようだ。

 

「なぁ。この宿で働いてるっぽい人がいるんだけど、その人に聞けばいいんじゃない?」

「んー、それは最終手段ですね。宿泊客の情報を漏らすのは、宿としてどうなのか、って話ですから」

 

 そんなやりとりを二人がしていると、不意に後ろからため息とともに声がかけられた。

 

「ハァ。全く出発の打ち合わせのために集まるって言ったのに来ないと思えば、男を連れて一緒に迷子ですか」

「ち、ち、ち、違いますよぉ!」

「まさか迷子じゃないと言い張るおつもりで?」

「わ た し が 否定したのは、色恋を連想させる、その的外れなあなたの発言です!」

「貴女が勝手に連想したのでは?」

 

 いきなりの展開に完全に置いていかれるティグ。

 服装は旅人らしい簡素なものでも清潔感のあるその風貌からは、やはり商人らしさが感じられる。おそらくテナが乗せてもらうという商人だろう。

 男はもう一度ため息を吐くと「迷子なのは否定しないのですね」と呆れたように呟いた。

 二人が知り合ったのは昨日今日のはずだが、既に振り回されているようだ。

 

「だから私は言ったんです。一度来たくらいじゃ覚えるなんて無理だって」

「そのことを自覚しているのなら、どうして宿から出たんですか」

「う…」

 

(いきなりの相談に乗ってくれるような人だし、元々知り合いなのかもな。これからもっといきなりな相談をするんだけど)

 

「この状況に至るまでの経緯は大体分かりましたが、そこの彼は結局誰なんですか?」

「えーっと…」

「私達の旅の同行者です!」

 

 笑顔のままテナを見つめる商人の男。

 その顔からは怒っているのか、困惑しているのかは窺い知れないが、どちらにせよ振り回されているのだということは容易に分かる。

 街への移動に乗せてもらう為、これからその交渉をするティグにとっては悪い印象を持たれたくないのだが、テナはおかまいなしのようだ。

 

 案の定男は、「また面倒事を」とでも言いたそうな顔をしている。

 

「私達、ということは同行者が増えるということですか?人手が増える事だけ見れば助かりますが食料の用意や、馬等の移動手段の準備はできるんですか?まさか商人の馬車に乗せてもらえるなんて甘い考えで来たんじゃないでしょうね?」

「商人の馬車って言ったってビクルーさんの荷馬車、スッカスカじゃないですか」

「ハァ。今回の仕事は書類上での取引だけで、仕入れをしてないからですよ。まるで売るだけで精一杯な貧乏商人みたいな言い方はやめてください」

「すいません。食料の準備とかそこまで考えていませんでした」

「気に病む必要はないですよ。どうせ、この人が後先考えずにやったことだというのは想像に容易いです」

 

 今にもため息を吐きそうな様子のビクルーは「わかりました」と話を続ける。

 

「話だけでも聞きましょう。乗せるか乗せないかはその後に」

「さすが商人さんは話の分かる人たちばかりですね」

「誰かのおかげでそうせざる負えない状況になってますからね。私の部屋はすぐそこです。出発のための準備は済ませてあるので存分に話し合いをしましょう」

 

 そう言ったビクルーの顔には爽やかで真っ黒な笑顔があった。

 

 ビクルーの部屋に入ると、出発準備のためかまとめられた荷物が隅に置かれているだけで、きれいな部屋になっていた。

 その部屋の中には背の低い長机と綿の入ったいくつかの椅子が置かれていた。商人の宿と言われるだけあって商談をするための場所である。

 

「廊下じゃわからなかったけど、意外と広いんですね」

「どこまでの商人のためを考えて作られてますよこの宿は。一見無駄に広く見える窓際も、商談のための空間だと認識してもらうためでしょう」

「部屋がこんな寂しい状態なのでお茶も何も出せませんが、どうぞお掛けになってください」

「あなたは、もうすぐ出発だということと、それにも関わらず厄介ごとを持ってきたという自覚を持ちましょうか」

 

 部屋の主ではないテナに勧められた席へと腰を掛けるティグ。もはや訂正する気もない様子のビクルー。何故か満足げなテナの三者が席へとついている。

 ティグを連れてきた張本人であるテナは、どういうわけかビクルーの隣に座っている。面接官気分を楽しみたいようだ。

 ビクルーは気にも留めてない様子だ。実を言うとこの二人が知り合ったのは、僅か三日前であるのだがその順応力はさすが商人と言うべきか、はたまたそうせざる負えなかったのか。

 

「さて、話を聞きましょう」

「俺は旅を始めたばかりの者なんですが、次の町への移動手段を持っていません。そこについては気長に考えようと思っていたところにテナさんがきて、一緒に来るような提案をもらいました。これはいい機会だと考えて同行させてもらおうと、ここまでやって来ました」

「テナさんが事情も聞かずに誘拐してきた線を心配しましたが、そうでなくてほっとしました」

「私はそんな節操なしじゃありません」

 

 真剣な顔でそう言うテナだがそれはビクルーによって流される。

 

「実際その判断は間違ってはいないと思います。この町には商人が多いように見えます。実際その瞬間を見ると多いのですが、出入りが激しいんですよ。日の花の取引が多くではありますが、組合の方で大方の取引量は制限されているので交渉の余地はありません」

 

「ですのでここに長くいても一旅人のあなたには関係作りができないと思われます」

「さっすが私!」

「商人は損得勘定抜きには生きていけない生き物です。ただ、まぁ思わないところがないわけではないんですよ」

「でも俺は食料調達もまともにできなければ、護衛なんて尚更ですよ?」

 

 テナは護衛としての役割を持つことで隣町までの同行を許可されている。

 その話を聞いていたティグは、果たして自分が受け入れられるのだろうかと不安に思っていた。ここでダメならば、それはそれで離れる必要がなくなり都合がいいとも。

 ビクルーがため息を吐く。今度はティグの言葉に対してだ。

 

「貴方は…。ハァ、今は交渉の場なんですよ。貴方の今後の生活方針が掛かった交渉中なんですが、そんな中で下手に出るなんて以ての外です」

 

 テナが隣でウンウン頷いている。

 

「守る対象が増えてしまうと護衛に負担がかかったりしますが、今回は臨時で、しかも無料で護衛が手に入ったので、2人まではギリギリ許容できそうだ、と昨日から考えてはいたんです。」

 

「貴方は無料で乗せてもらえるだけの価値を提示できますか?」

「それは無理です」

「少しは考えて欲しいですが、よろしい。今回は乗合馬車のようにお金を払ってもらいましょう。そうなると小銀貨3枚、3000ネールでよろしいでしょうか」

「そうですね、それ…」

 

 その時バンッと机を叩きテナが立ち上がった。

 変な気を起こしたのかと他2人は疑ったが、彼女の表情は真剣だった。

 

「2枚です」

「一応聞きますがその根拠は?」

「只の乗車客としてじゃなく、お手伝いとして乗せればそれくらいでいいと思います」

「それにしても小銀貨2枚は低すぎる」

「旅人が路銀稼ぎによくやる、商人の事務手伝いとか大体こんな感じですよ?ここは臨時収入だと思って甘く見てくれてもいいじゃないですか!そもそも、ティグさんもティグさんです。この人は、あなたなら善意で手伝いくらいやるって分かってるんですよ⁉︎」

「う…」

「分かりました。2300ネールです。間を取らず、貴方たちに寄せました。時間もありませんし、どうせ準備もさせずに連れてきたんでしょう?」

「そういやそうでしたね」

「ハァ。そういうことで一旦解散しましょう。ただし、テナさんは残って下さい。また面倒ごとを持ってきそうで怖いですから」

 

 そんなこんなで出発のための交渉は終わり、ティグの旅の第1歩は何とも言えない感じで終わりを迎えた。

新キャラ、ビクルーさんが出てきました。ただ、名前が……。


さて、今回初めて厳密な金額が出て来ました。価格とかこれでいいかなーって不安はありますけど。

異世界転生、転移ものってわけでもないんで、日本円に置き換えないで考えていただけると幸いです。


お金の管理ってリアルでも、設定だけでも難しい

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