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第3話 他人の中に入り込む人

前話よりも短いです。だいたい半分くらいですね。

今後はこれくらの分量で行こうかと考えています。

投稿ペース重視で行こうかと。


なお投稿ペースは…

 目が覚め、ティグは先程まで見ていたであろう夢に思いを巡らせる。

 故郷も仲間たちも、変わらず流れていた時間も、何もかもが懐かしくて。

 再び仰向けになってベッドに寝転がる。天井を見上げるその目から、光る雫が一粒流れた。


「懐かしい」


 ティグが起きた時には水の刻はとうに過ぎていたので、窓の外にはすでに昇ってきていた日が輝いている。


 今の今まですっかり忘れていたあの光景が、便に空いた穴へ蓋をするように、欠けた何かを満たすようにティグの心を埋めていく。

そもそも。


「なに忘れてるんだよ」


(もう、このことを覚えていられるのは俺だけなのに)


 故郷での思い出を忘れてしまっていた。

 このことがティグの心にひどく突き刺さる。さらに、いつか全てを忘れてしまうんじゃないかという考えが不安を煽ってくる。


 そもそもあんな夢を見たこと自体がティグにとっては初めてだった。


(今までは全部、斧男に追い回される夢しか見なかった)


 どうして今になってあのような夢を見るのだろうかと。


(それにさっきのはダ爺の、気持ち?いきなり色んなことが起きてて訳がわからない)


 やっとこれからというところで突然に襲いかかってくる旅への不安。

 今は思い出すことができたが、いつか忘れたことすら気付かずに、忘れたままになるのではないか、故郷を離れれば離れるほど薄れていくんじゃないか、そんな考えがティグを襲う。


「どうすればいいんだよ。教えてくれよ…」


「飯、食いにいくか」


 腹が減れば力も出ない。何より下向きな考えが止まらなくなりそうだという考えで、食堂になっている階下へといくことにした。


 そこへ降りると、昨日よりも騒がしく席を埋める人々も少し違っていた。

 昨日は身体をがっちりと鍛えた如何にもな、『冒険者』と呼ばれる者たちが多くを占めていたが、今は身が整っている者たちが多いように見える。


 丁度空いている席があったので、そこに座り辺りを見渡せば宿屋のオヤジが同じように客に声を掛けていた。

 向こうもティグに気付いたらしく、心配そうな顔でやってくる。


「おい、どうした。今日は随分寝坊すけじゃねぇか。昨日教えたんだから早速日の花採集に行くもんだと思ってたぞ」

「すいません。なかなか起きることができなくて」

「はっはっはっはっは!そうだろうさそうだろうさ。うちの寝心地は最高だろう!」

「え、えぇ」


(今日はやけに機嫌が良さそうだ。ま、早朝に弱いだけかもな)


「そんじゃあ、飯持ってくるぞ」

「ありがとうございます」

「いいってことよ」


 そう言うとオヤジは店の奥へ入っていった。


(そういやここって何人働いてんだ?オヤジ以外の従業員を見てないけど)


 そんなことを考えていると宿の外から見覚えのある人物が入ってきた。

 昨日森の入り口で会った旅人のテナだった。

 空いてる席を探しているようでこちらに目を止めると安心したように歩いてきた。


「そこにいるのは昨日オヤジさんといた君じゃないですか」

「はい。昨日ぶりですね。と言っても何も話してないですけど」


「隣空いてるので失礼しますねー」と言って座ってティグの隣に座ってきた。無警戒すぎないか心配になるほどである。


「よかったぁ。これだけ混んでると座る場所ないか心配になっちゃいますね。席が空くまで待ってるのも気まずいですし」


 先程からのやり取りといい、立ち居振る舞いといい、この旅人は些か人との距離が近い。

 ただ彼女が持つ独特の雰囲気は不思議と人に警戒心を抱かせない。そのことを知ってか知らずかティグに色々聞いてきた。


「その感じだとあなたも旅人さん?」

「え、えぇ。どうして分かったんでしょうか」

「そんなに畏まらなくていいですよ?私は癖で、いっつもこの喋り方ですけど。」


(な、なんかぐいぐいくる人だ)


「わ、わかった」

「それでさっきの質問の返答なんですが、そうですねー。体つきとか雰囲気ですね。主に雰囲気です」

「雰囲気の方、なのか」


 暗にティグが弱そうだと言っているようにも聞こえるが、発言した当の本人はそのことに気付いてないらしく、少し不満気な顔で文句を言う。


「なんか言い方が硬いです。大抵の人はここで、もっとこう、そっちかよ!みたいにくるんですが」

「ついさっきで、それはさすがに…」


 どうやらその言い分は納得できないらしく、こめかみを抑えながらうーんと唸っている。

 あまりにも人を信用しきっているその態度に誰もが、いつか悪い人に騙されるのではないかと心配になるのではないのだろうか。

 その事実、テナはそういった目に遭ったことがあるのだが人に憎まれづらいその体質で、騙す側が思わず自重してしまい実際に被害を受けたのは1割にも満たない。


「分かりました。一先ずはそれでいいです」


(一先ずも何も、今日の昼に出るんだから、そんなに時間ないんじゃない?)


 どうやら自分を納得させるのに成功したようで、生死を分ける選択を迫られた小動物のような先程までの様子は消えていた。


「ということでよろしくお願いします!」

「ああ、よろしくお願いします?」


 突然のよろしく宣言に戸惑いながらも返事を返すティグ。旅先でまた会った時はお互い助けいましょう、という意味合いの、旅人の挨拶なのだろうと考えた。


そうやって時間を過ごしていると奥からオヤジが料理を持ってやってきた。

ただ料理を持ってくると忙しそうにしてまた奥へと入っていく。


「忙しそうですねー」

「いつもこんなんなのかな」

「どうでしょう。私はそもそも、ここらに泊まっている訳でもないですしね」


 それは意外な発言だった。

 昨日の様子を見て、てっきりここの宿泊客なのだとティグは考えていたのだ。

 それを知ってか知らずかテナは話を続ける。


「ここの食堂ってこの町の中で結構有名なんですよ。オヤジさんの方もお喋り店主としてここの名物だったりします」

「へぇ。それは知らなかった」

「だから、食事なしの安い宿屋に泊まって、食事だけここで済ます、って私みたいな人は何人もいますよ」


 納得する部分がいくつかあった。

 まず、食堂に来ている人に対して、客室自体が少なかったのだ。


 そうやって、食事をしながらなんでもないような会話をしていると、だんだんと空気に慣れてきたのかティグの雰囲気も軽くなっていた。そんな中、話がこれからの旅のことへと移った。


「そういえばティグさんってこれからどこ行くんですか?」

「あー、特にそういうのは決めてないけど」

「やっぱりそうなんですね」

「やっぱりって」

「そんなあなたにここで提案があります!」


 勢いよく立ち上がるテナ。


「食事処だぞ」


 すいませんと言いながら座り直す。

 言質はとったぞ!と言わんばかりの勢いが台無しである。


「どうせなら私たちに付いてきません?」


 その提案は旅先を教えてくれるんだろうと勝手に期待していたティグの思惑を、斜め上に突っ切ってきた。


「え?」


 予想だにしないかったその提案にティグは思わず聞き返してしまうのであった。

私は『人間』ではなく『人』と表記することが多いですが、それは人間以外でも人として数えられている人種がいるからです。

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