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第29話 獲物を待ち構える森

「いってらっしゃーい!」


 送り出される者達の気も知らずに呑気に手を振るリラ。

 送られる2人はそれを冷めた目で見ていた。


「申し訳ないです」

「気にすんなって、昨日のあれを考えりゃ近いうちに1人で行かされる羽目になってたかもしれないしな」


 あの後、バルタス改めダンが底なしの森への同行を了承した後、彼女がポツリととあることを呟いた。


「あーあ。でも残念だなー」

「どうしたんですか?」


 その時のリラは待ってましたと言わんばかりの顔だった。

 そもそも、聞いてくれと言わんばかりの空気を出していたため、聞くしか選択肢がなかった。


ーー本当ならね、明日あたりで頭がエコルの方に行くから、そのついでに冒険者組合に行って、ダンに関する情報を持ってきてもらおうと思ってたのにーー


 そう呟いていた。


 思い返せば、恐ろしい話だ。

 ついでにのノリで冒険者組合から情報を引き出せるとは、明らかに薬屋の範疇を超えている。


「まぁ、場所が場所だからな。底なしの森付近なら納得はできる」

「え、そうなんですか」

「悪人だとか危険人物を監視してるんじゃねぇかな。大口の取引先ってのも関係してそうだ」

「魔神国との境目だからですか?」

「森が邪魔で行き来するには首都を経由するしか、まともな手段がないのがな」


 そうなれば表立って街を歩けない者達はどうするか。

 そう、森を抜けて行くのだ。


 底なしの森は、一度踏み入れば帰ることができないと言われ続けている。

 だが、それは不確実な情報だ。

 現にティグの隣で歩いているダンは、森を抜けて魔神国へと逃げることに成功している。

 魔神国側に逃げているのがほとんどなのだから帰ってこないのは当然だ。

 そして、森を抜けた事実が残れば同じことをしようとする者達が続出するだろう。


 あの薬屋が、ひいてはこの街自体が監視役を担っているようだ。


「さ、ここからが底なしの森だぜ」

「暗っ」


 街から出れば、と言うより街の中から既に姿が見えているくらいに、ティグがいる街はこの森の間近にある。

 その奥を覗こうにも複雑に生えている木によって少し先が見えない。

 しかしながら、森と外との境目となる所には、()()()なほどに木々が横一直線に並んでいた。


「中は年中真夜中だ。空の天井の代わりに葉っぱの天井だから、星も見えないけどな」

「うわー。入りたくないなー」

「まぁ、薬草採取が目的なら深いとこまで行く必要はないし、暗い分、光が目立ってっから、出るのは楽だ」


 なるほど、とティグが納得したところに「ただし」と忠告を入れる。


「少し奥に入っちまうと、木で塞がれるせいで直ぐ見失う」


 ダンはそう言いながら背に背負ったリュックから何かを取り出した。


「これは?」


 木で作られた小さな円形の入れ物。

 その上部を開くと、紫がかった小さな石が入っている。

 カタカタと独りでに動いている様はなんとも不気味だ。


「え、何ですかこれ。怖いんですけど」

「ははは!こいつは魔素鉱石の欠片だ。なんでも魔素の濃いところに引き寄せられるらしくてな。使えるのはこの森くらいのもんだが、この森じゃ必需品だからな」


 世界にいくつも森と呼べる場所は存在するが、この石が道しるべとして機能するのは、どこを探しても底なしの森ただ一つ。


「ティグさんの分もあるから渡しとくぞ」

「ありがとうございます」


 と、ティグの手にそれが渡ったとき、欠片の動きが気持ち強くなった気がした。


「しっかし、普段はこんな浅いところでここまで反応することもないんだけどな。今日は奥の方は荒れてるかもしれねぇな」

「そんなに魔素があるんですか?」

「あるとか、ないとかの話じゃねぇ。森を中心に充満してるんだよ。森の中心に一直線だ。中心に行けば魔素の嵐だ。しかも腕の立つ魔術師ほど視界が悪くなるっていうオマケ付き」

「へー」


 森の中心では常に魔術が放たれているとでも思えるほど激しく、人にとっては一歩も進めないどころか弾き飛ばされる始末だ。

 嵐と言われれば風が吹き荒れていると考えられがちなのだが、何故だかその影響は個人差がある。

 一般的には魔法力が関係しているのでは、と考えられている。


「入る前に確認事項だ。この森じゃ歩きながらってわけにもいかないからな」

「はい」

「まず、今回集める素材の方だが『タシラジ』の葉だけだな」

「あ、それ石なんですか?」


 今回、出発にあたって何を集めればいいかのメモを渡された。

 しかしながら今回は一緒に仕事をするのだから、説明はこっちでやってくれ、と言われていた。名称は見たが、どんなものかは全く知らなかったのだ。


(お使いの内容は今までのものにするって、採集する材料の内容のことじゃなかったんだな)


 要は今までのような、地に生えた草花や鉱石の採集というだけだ。

 それでは、今までとは違う仕事とは一体どういうものなのか。


(考えない方が良さそう)


 森の奥地に連れて行かれそうだ。


「タシラジの葉は薬の材料ってよりそのまま使うことが多いな。ティグさんは魔術つかえるか?」

「えっと…」


 結局ユムには合格を貰っているわけではない。貰えないままになってしまった。

 人前で、魔術が使えます、とは言いづらい状態にある。


「一応、火の魔術だけ…」

「そうか、この葉はな、他のどの植物よりも魔素を含んでいていんだ。こいつを呑み込めば一時的に魔法力が上がるんだ」

「それ、すごいじゃないですか」

「まぁ、特別珍しいものじゃないけどな。でもな、この森に自生してるタシラジはな、そっりゃあ、濃い魔素を宿してる」

「え?それ、体に入れて大丈夫ですか?」

「体が破裂したー、なんて話はまだないかな。それだけに、それはそれはたっかく売れるらしい」


 最後の方は大袈裟にかつひっそりと告げられた。

 体が破裂とは恐ろしい。破裂した話()、というのが尚の事恐ろしい。


「まぁ、そんな事で、非常事態になれば採った葉を食え」

「了解です。そういや、ダンさんは魔術使えないんですか?」

「そりゃ、お前。使えるに決まってんだろ。使えない方が珍しいって」


 つい半年前まで魔術がまるで使えなかったのが、ここに1人。


「俺が常用してんのは風系の使い方だな。まぁ専門で習ってる訳じゃないから、基本は魔素操作だけだ。水はコップ一杯を集められる程度で、瞬時には出せないな」

「火の方は?」

「使えるには使えるけどなー」


 そう言って手のひらを差し出すと、そこには握りこぶし程度の火の玉が生まれていた。


「焚き火の火起こしに使えるし、ちょっとした明かりが欲しい時には便利だがなぁ。実用的であっても実践的じゃない。土魔術なんて言えばもっと無理だ。実用的ですらない」

「土なんてあるんですか」

「あぁ。あれを好んで使う魔術師はよっぽどの変態か、よっぽどの化け物だけだな」


 互いの手の内を知っておくのは重要である。

 何か異常事態が起こった際に、ああだこうだ話し合うなんて余裕はないので、何ができて何ができないかを互いに知る必要がある。

 もっとも、互いを信用した上での行動だが。


 ティグの場合は、ダンを信用していると言うより、薬屋を信用していると言った方が適切だろう。


「それじゃ、入りますか」


 緊張の面持ちでダンの後に続いていった。

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