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第28話 秘密の話

「そんな安心しろって言われても…」


 任せなさいと自慢気な、姉ぶった様子で先を行くその光景に、どこか既視感を覚えるティグ。

 無視をして自分に割り当てられた部屋へと戻りたいが、住居スペースは全て薬屋の2階にある。ついて行かざるを得ない。


 すると2階に登った先にはニヤニヤ顔の男が立っていた。


「これはこれはティグさん。底なしの森へ行くんだってねぇ。いやー、おめでとう!昇進じゃないか!才能があるってのも考えものだねェ!」


 参った、とでも言いたそうに額に手をあて、嫌味ったらしく言う男。


「相変わらず元気そうね。まだ起きてて良かったー」

「ん?良かった?な、何か用でしょうか?依頼内容は満たしているはずでは?ま、まま、まさか一昨日のことをまだ根に持っていると⁉︎」

「さ、行くよ」

「ちょ、ちょっと髪はやめてっ!せめて耳じゃないかな⁉︎そこらへんが気になるお年頃なの!リラさん⁉︎やめてぇぇぇ!」


 ティグのことをすっかり置いてけぼりにして、バルタスの髪をがっしり掴んだままリラの自室へと引っ張ってく。

 見た目からは減っているようには到底思えないが、年齢的に気になって仕方がないのだろう。


(あの人って意外と年齢いってるんだよなー。心配するような感じじゃなさそうだけど)


 見れば、思いっきり引っ張られている。

 もし心配するような状態であれば、丸ごと持っていかれているはずだ。


「ほら、あなたも行くよ」

「はい」


◇ーーーー◆


 バルタスが連行され、ティグが呼ばれた部屋は、確かに女の子の部屋のはずだが、それらしさが全く漂わず、小瓶に保管された薬草やら鉱石やらが並べられ、名札の貼られた木箱で埋め尽くされていた。


「女っ気のない…」

「それは褒め言葉として受け取っておきましょう」

「あぁ、そう」

「それで、考えって何ですか?」


 ビシッとリラがバルタスに指をさす。

 いきなり指をさされ、話の流れが読めない当の本人は何のことか、とティグを見るが、ティグにだってそんなことは分からない。


 バルタスが指をさされたまま時間が過ぎる。


 男2人は、リラが何を言いたいのかが分からず、何と言えばいいかも分からずのまま。

一方リラの方はと言うと、


(調子乗って指差したりしたけど、なんか後に引けない感じになっちゃったし、これどうすればいいの⁉︎)


 とても、困っていた。


 普通に話しに入ればよかった。

 それなのに、先ほどから自分優位の状況が続いていたことをいいことに格好をつけた結果、収拾がつかなくなってしまった。

 普段は薬頭という圧倒的な上が存在しているために、こういった状況を扱い慣れていないのだ。


「それで、考えってなんですか?」


 単純に仕切り直しだ。


「おほん!明日ティグさんにはあの森へ行ってもらいます」

「…はい」

「お使いの内容は今まで扱ってきたものにしますが、初めての森なので、どこに何があるかなんて分かりません」

「そりゃそうだわな。さらに底なしの森だろ?」


 底なしの森に初見から一人で行け、なんて言えば、それは死んでこいと言っていることと同義である。


「ティグさん一人なら、浅いとこまで行って、帰ってくることはできると思いますが、薬の材料までは取れません。補助役が必要になります」


「そこで、その補助役にバルタスさんを指名します!おめでとう!あなたも昇進ね!」


 予想だにしなかった言葉に、バルタスの空気が凍りつく。

 既に森行きが確定しているティグは、へーそうなのか、程度の反応だ。


「いやいや!ちょって待て!冒険者組合が発表してる、底なしの森の推奨等級はいくつだと思ってんだ!」

「上等一級だけど?」

「俺は下等級だぞ!」

「でも二級ですよね」

「二級も十級も大差ねーよ!」


 冒険者というものには、その知識や実践的な実力を評価し、それを階級で分ける制度が存在する。

 主に、下等級、中等級、上等級と評価が上がっていき、特殊な例で特級が存在する。

 さらに細かく分けるのだが、数字が小さければそれだけ能力が高いことを示している。

 数字は十から一が用意されていて、組合が行う試験に参加したり、多くの依頼を正確にこなせているか、その他の功績を考慮し、決定される。


「二級、ですよね?」

「お、おお」


 やけに二級を強調するリラに、何故かバルタスが気圧される。しかも目を泳がせている。


「あなたがここに入ってくる原因って何だっけ?」

「え、えぇと。仕事が上手くいかず借金を作ってしまい、ここの話は前々から知ってたから、ここで稼いでその借金を返す…」


 そこでバルタスの言葉が止まる。

 リラの方を見ると、笑顔で無言の威圧を放っている。


「か、かえ……逃げてきました」

「そこに、奥さんに押し付けて、を加えれば100点でした」


 ぐうの音も出ないとはこのことだろう。

 呻き声すらも発せないほどにボコボコにされている。


「くっ。人の弱みに付け込んで、実力に見合わないところへ、強制的に送る気か!」

「あのね。うちの薬屋って大口の取引先があったりしてね、材料とかも優遇してくれるのよ」

「は、はい」

「あなた達がいなくてもこっちは回るのよね」

「結局これ、どうなるんです?」

「ティグさんは一回黙ってて」


 どう話が落ち着くのか気が気でない、というよりいつまで付き合わされるんだろう、という疑問からの言葉であったが、跳ね除けられる。


「私たちはね、それこそティグさんみたいな、深刻で切羽詰まった人たちに少しの間でも居場所を作ってあげたい、って考えでやってるのよ」

「…つまり?」

「あなたみたいな、よっわい理由で、しかもよっわい冒険者を入れるわけないのよ」

「……」

「まぁ、あの時はティグさんだけで、空きもちゃんとあったってのいうのもあるけどー」


 チラリとバルタスを見る。

 まるで、何となく察してるんじゃない?とでも言いたげな視線。

 バルタスはせめてもの抵抗で完全に目を逸らす。


「あなたみたいなのを招き入れたのには、訳、があるのよ」


「あなた、二級よね?」


 またしても、二級の話。

 バルタスが、その言葉に一瞬ビクッと反応したかのように見えた。


「二級ですが…」


 バルタスのその返事に、リラは満足げに頷いて一枚の紙を読み上げる。


 エコル登録冒険者。

 上等二級。

 ダン。

 

 バルタスとは全く違う名前だ。

 にも関わらずバルタスは目を見開く。

 見開いてしまった。


「あら?あなたと名前は全然違うのに、心当たりがあるのかな?」

「い、いいいいやぁ、よくある名前だなぁって」

「そうねぇ。でもこの人もう亡くなってるらしいのよ」

「ッ!そうだ!底なしの森に入って帰ってこなかったって…」


これ幸いにとリラの発言に乗っかる。


「あらら?こんなよくある名前の冒険者のことを随分と詳しく知ってるのね」

「はっ」


もう手遅れだ。

どう取り繕っても挽回の余地はないだろう。


「そう。このダンって人は、底なしの森に入って帰って来なかった」

「…」

「当時借金に追われていたし、組合の人も自殺と考えたの」

「……」

「せめて彼の形見になる物だけでもと、上等一級2人と特級1人で捜索に行かせたんだけどね」

「………」

「やっぱり、あの森で何かを探しながら進むって難しすぎたのね。結局見つかったのはこれだけ」

「はぁ!?あんたが何でそれを持ってんの!?」


 リラが掲げたその手から零れ落ちるように姿を見せたのは、ひし形に形作られた真紅の宝石がついているペンダントだった。


「あなたがそのダンでしょ?」

「………」

「当時、あなたの目的は攻略ではなく突破。借金から逃げるためだものね。そして帰らぬ人となったのは、魔神国領でその奥さんに出会ったから」

「はぁ…。参った参った。ここって本当に薬屋だよなぁ?」


 今度は本当に参った様子でその手を頭の上に置く。

 ポリポリと頭を掻くその姿は、正にお手上げ状態だ。


 本題とは外れていたために、誰も気にしていないが、借金から逃げた先で女を作り、またそこで作った借金から()()()()()()()とは、人として屑だ。


「私たちはね、例え国から指名手配されているような悪人でも、こっちの役に立ってくれるなら匿うのよ。でもね、ただの善意だけでそんな悪人、招き入れるわけないじゃない!」


「そんなことしてたら、国に目を付けられて、薬屋としても終わりよ」


 では何故薬屋としてやっていけているのか。

 ティグ本人だって、影の部隊を持てるほどの存在に追われている真っ最中だ。

 今までにも、様々な人がこの薬屋に世話になってきた。

 その足取りを辿ればここのことはすぐに知られるだろう。


 何故あそこまでの情報を手に入れることができるのか。

 さらに冒険者の遺品、行方不明者の形見になるような物を何故手に入れることができるのか。


「秘密」


 悪戯っぽく微笑む彼女を見て、人って怖いなぁ、と改めて思うティグであった。

あっれれー?

おっかしいぞー?

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