第19話 簡単なお仕事
ブックマークに評価を下さりありがとうございます!
18話を投稿した時に気づいてはいたのですが、こっちに書くのを忘れてました。
皆様に見ていただいていたのは、知っていたのですが、好評は愚か悪評すらない状態で執筆作業をしていたのでモチベーションがいまいち維持できない、なんてことが多々ありました。
めちゃくちゃ励みになります!これからもよろしくお願いします!
こういうのって活動報告に書けばよかった?
言われた通りの部屋に来ると、そこにはいくつもの木箱が置かれていて、中には『魔水晶』と書かれた箱もあった。
きっと馬車で見た物だろうと思い、他の箱に目を向けるも、その内の多くが『魔水晶』と書かれた箱であった。
魔水晶とは他者の魔法力を測ることができ、その対象が魔獣であれば、相手の魔素保有量を調べることができる道具だ。
「単に調べるだけって道具だろ?こんな数、使うもんなのか?」
使う度に消耗していくものであれば納得ができる。それならば需要もあるのだろう。
しかしながら、ティグが今まで訓練場にて魔術訓練を行なっている間に客がきたという様子はなく、ユムもまた、客が来ることなど気にしてないように見えた。
やはり、売り物としてではなくこの店の備品として買ったのだろうか。
「そういえば、魔法力ってなんなんだ?魔術を教えてもらう時にも言われなかったし、魔法の方に関係あんのか?」
安易な考えだが、名称に『魔法』と付くくらいだから魔術とは別のものなんだろう。とティグは考えていた。
「あれ、でも魔法ってもう使えないし、失われた技術っぽく言ってたはず。ん?でも魔法が使えないのに、魔法力を測るってどうなんだ?」
「おやぁ、魔法に興味がおありのようで」
音もなくティグの背後にユムが現れる。
「え、えっと……。魔法力って結局何なんですか?」
「ははは、随分と直接的に聞くねぇ」
顎に手をあて、「どう説明したもんか」と唸るユム。
「まず、一番初めの疑問、『魔法力は魔術と魔法どっちと関係があるのか』について話そうか
魔法やら魔術やら、知識を持ち合わせていない者からすれば、その違いがさっぱり分からない。
違いが分かったところで名前を初めて聞けば、魔法に関係したものとしか思わないだろう。
「答えを言うと、どっちもだな」
「へ?」
「あっははぁ、ははは!いやいや、思わず笑ってしまったじゃないか。」
そんなことを言われても、勝手に笑ったのはそっちだろう、と言いかける。
「そう、どっちもなんだよ。『魔法力』ってのはねぇ、どれだけ魔素を操作できる範囲か、その影響力を示すものさ。ま、あくまで『魔法力』に比例して魔素の操作範囲が広がってるからってだけで、何故そんなものが人に備わってるかってのは不明だけどね」
そう言って肩をすくめる。
今現在では、魔物や魔獣に及ばずとも、人は魔素を保有していて魔法力とはそこからきているのではないかと考えられている。
「それなら魔物の保有魔素量が確認できるってのにも道理が通るんだがぁ」
いくつもの木箱の中から、指で挟めるほどの大きさの魔水晶を取り出す。そのまま片目を通してティグにかざす。
しかし、体は依然として魔素でできていること目に映るのだが、それとは別に、魔法力を表す色で靄が映っている。これは間違いなく魔法力である。
(ふぅん。体は魔素でできてるはずなのに魔法力は別に持ってるってかい。んー、そんじゃ、今まで散々言われてきたぁ、魔法力は保有魔素量を表しているってのも間違いかもしれんなぁ)
もし、魔素保有量で魔法力が決まるのなら、こんなもので済むはずがない。
「普通だね。期待したのにつまらないなぁ」
「え〜」
ティグ自身も、特殊な自分は魔法力も特殊なのでは?という期待があったが期待はずれだったようだ。
「そ れ で だ。この魔法力なんだが魔法時代と何らかの関係があるのではないかと言われている」
「言われているだけですか」
「そうなんだよ。要は願望だね。『魔法力』なんて名称にしたのは、身近な発見が古代の魔法への手がかりになって欲しいっていう、学者供の願望だよ」
『魔法』、そして『失われた大昔の技術』。それらは心を躍らせる言葉だが、事実は何も分かっていないことに落胆するティグであった。
「魔法力のことは分かったんですけど、これだけの魔水晶、何に使うんですか?」
「実験だよ実験。この黄色い札の付いた箱は店の中に運んどいてくれ」
ユムの言った黄色い札の貼られた木箱が3箱程度で、残る10個あまりの木箱には白い札が貼られている。この白い札の方が、実験用だろう。
「ごく一般的な使い方ならぁ8年くらいは持つんだけどねぇ。私のは過激すぎて、一発で弾け飛んじまう」
「これが弾け飛ぶ⁉︎」
先ほど見せられたものは簡単に握れる大きさだったが、旅の道中に見せてもらった物でも、いざ弾け飛ぶとなると恐ろしい凶器になる。
その様子を想像し、あまりにも危険な環境に戦慄するティグ。
黄札の箱を運び終われば、白札の箱を先ほどまで使っていた訓練場へと運び、今日の仕事はそれで終了した。
「まぁ、こんなもんだろうねぇ。正直今日の仕事は終わりだよ。客も来ないだろうしね」
「店長が自分で言っちゃっていんですか、それ」
「ははは!年寄りの道楽だからねぇ。本格的な訓練は明日からだが、訓練場くらいは貸してやるよ。火遊びするならそこでやりなよ」
「はい」
特に持ち物も無かったのでそのままの足で帰路につく。
訓練場に行っても良かったのだが、ユムが言っていたように出すか出さないかしかできない為に、あまり意味がないだろうと判断した。
(本格的な訓練は明日って言ってたし、今日は休もう)
◇――――◆
そうして帰路につくティグを大通りの人だかりから、ジッと見つめる者が1人。
比較的に大柄なはずのそれは、誰に感づかれるまでもなく、不審がられることもなく人混みの中に溶けて、消えていった。
◆――――◇
カラン
古びた扉が開かれ、かけられたベルが来客の知らせを店内へと告げる。
「おや、今日はやっておらんのか」
客はしゃがれた声で呟いた。
「はいはい、すまないねぇ。客も来ないだろうと踏んで奥に引っ込んでたもんでねぇ」
「いやいや、こんな時間に来てしまったこちらにも落ち度はあるだろうて。それにこの店に新しい働き手が入ったと、風の噂を耳にしてのぅ。気になってしまってな」
ユムが訝しげな目を、その老人に向ける。
それもそうだろう。本人の口からでない限り、このことが他者に知られる可能性は限りなく少ない。
それこそ提案者であるビクルーは職業柄、個人情報の扱いには常に気を配っているはずだ。
その情報を差し出すことが利益につながると、そう考えた場合の躊躇の無さも人一倍だが。
「まぁまぁまぁ。そう怪しむこたぁない。風の噂を、精霊たちの噂を耳に挟んだだけじゃって」
「あぁ、そっちの方だったとは。あいつら、普段近寄らない癖に何か起こる度に噂にするもんだから困っちまうよぉ」
「はっはっはっ。新しい従業員と言やぁ、当然魔術の稽古はするのだろう?一月前のは2日で根をあげたそうじゃが、今回のはどうなのかの。才能はありそうかい?」
「才能ぉ⁉︎あれは永久に魔術が使えないんじゃないかねぇ。根本的な部分に問題があるらしい」
(ふん。何を知りたいかは知らないが、嘘はいってないよ。あれを魔術だなんて認めるのは、私のプライドが許さない)
この町には多くの人が出入りし、魔法屋は特に外からの客に需要がある。それでも、来る客が少ない分店に来た客は覚えるようにしている。
そんなユムでもこの老人には見覚えがなく、にも関わらず向こうは一月前のことまでも知っているとなれば怪しいことこの上ない。むしろ怪しいと思わせたいのではないだろうか。
(これ以上手を出すなってかい?冗談じゃない。あんな面白そうなのを人様にそう簡単に渡せるもんか)
「ほうほうほう。今時珍しいのもいるもんだ」
「本当にねぇ。今時どこで生きていくにも魔術の能力は求められるのに。ま、できる限りは教えるさ。それで効果があるかはあっち次第だけどねぇ」
「効果が出るといいが、そうそうそう。これを買いに来たんじゃった」
そう言って老人は小瓶に入った2枚の葉を差し出す。
「へぇ。キイレナとはいい趣味してるじゃないか」
「はっはっはっ。年寄りの道楽じゃよ。お互いに老い先短い人生を楽しまなくてはな」
今、この老人は「お互いに」と言った。
それはつまり、ユムの寿命が短いことを分かっての発言だろう。
精霊との関わりがあるらしいので、単に『そういうものが見える人』なだけの可能性もある。
しかし、
「はは。そんなまで生きられるんだぁ。…あーあ。もっと若い時にあんたと会いたかったよ」
ユムには分かった。
乾いた笑い声を上げるユムに、老人は黙り込んでしまう。
そうして、ほんの少しの沈黙が流れた後、老人が口を開けた。
「……こればっかりはな。…仕様がないことじゃなぁ。剪定のようなものだ。そう自分を呪うこともなかろうて」
互いが互いのことを理解したが故の沈黙。
そこには、懐かしさもあれば、寂しさもあった。
考え込んでしまったユムに「ほいじゃ、世話になったわい」と声をかけ老人は、すっかり暗くなった店外へと消えて行った。
「剪定のようなもの、かぁ」
ユム自身、寿命のことは諦めていた。
種族柄、どうしようもないことだと。
鼠の寿命と、鯨の寿命は違う。
自分の寿命と、他人の寿命は違う。
それでも同じ『一生』なんだと。
結局、生まれてから死ぬまで、それぞれの中に流れる時間は変わらないのだと。
「諦めて、諦めた上で、自分ができることをやろうと、それでも、少しだけでも力になろうと考えた結果なんだけどねぇ…」
「もし、あの時諦めなければ…。ちゃぁんとあの子達の力に、なってあげられたのかねぇ」
ユム自身で、答えの出ている問いに、答えてくれる者は店の中にはいなかった。
◇――――◆
店を出てきた老人は、そのまま入り組んだ小道を進み、空き家の隅にある路地裏へと入って行く。
すると、老人が消えた路地裏から、メキメキという何かが軋むような音が響く。
音が止み。次に姿を現したのは灰色の髪を持つ中年の男だった。
中年と言えど、纏う雰囲気にはまだ若さが見受けられる。
「悲しいもんだよ。世の中ってのは。まったくまったくまったく」
男が空を仰げば分厚い雲に覆われた空。
昼間の晴れ空が嘘のように、何かを隠すような雲が広がっている。
「知らない方が幸せってのはよく言ったもんだ。難しいね。人生って」
そう言って、辿って来た道を振り返る。懐かしさを帯びた眼差しで。
「あんなに若いのに。…でも、立ち止まっても前を向けるんなら大丈夫そうだ」
呑気な欠伸をしながら、反対側の道を行く。
「いやいやいや。しかしながら同族にも久々に出会ったなー。今はもう数を減らしてるって言うし。それでも、彼女は逃れる術を知らなかったのかぁ」
「んー。時代が時代だとしょうがないのかね。そういう意味での同族は、もう俺しか残ってないかもしれないなぁ……」
「あぁ、あぁ、あぁ。仕事中に余計なことを考えてしまった。今回は簡単なお仕事の割に、面倒なお仕事だ」
「こりゃ、5番に奢ってもらわないと割に合わないなぁ」
そうして、てくてくと街の闇へと消えて行った。
今回ちょっと長くなってしまった。
でもここで分けるわけにもいかず、序章にしようか一章にしようか迷っていたくらいなのに、予想以上に長くなっていて困惑気味です。




