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第11話 在りし日の記憶(3)

 その夜はやけに雨が降っていた。

 星の光によって夜の街を照らしてくれる空も、厚い雲によって覆われ、月の姿すら隠している。

 地上に届く光が全くないので、街中も真っ暗だ。

 灯として頼りになるのは人魂達だけ。

 まぁ、幽霊という存在は薄暗いところにいると相場が決まっている通り、ここの住人達は暗くても問題はないのだが。

 

「どうだ。見えたか?」

「んー、そこにいるってのは感覚でわかるし、何か見える気もするけど。見えるか見えないかって言われると、見えねぇよな」

「エデナはできたのに何で私達にはできないのよ」

 

 そう言うティグたちは目隠しをして座り

 今ティグたちが行なっているのは、相手の魂を視る修行だ。

 幽霊という存在は魂を感じ取る力を持っているのだが、それはあくまで何かがいると分かる程度のもの。魂を視てもそれが誰とか、どんな奴とかの判別はつかない。

 

 だが、修行次第ではそれが可能になる。

 極めれば感情までもを読み取ることができる、と言われるほど強力な力になる。

 

「何かコツとかないのー?これ以上進歩する気がしない…」

「よくある言葉だが、兎にも角にも修練あるのみ。それしかない」

「ダ爺。それじゃあエデナはどうなんだよ」

 

 他3人が懸命に、目を凝らすように練習する中、エデナはそれはあっさりと、こなしてしまった。

 訓練中、早々に「何か見える気がします!」とエデナが言ったのだ。

 そう言うのならと残る4人で壁越しに横並びで立ってみたり、縦に並んでみたりして並び順を判別できるかを試した結果ダ爺は、エデナが視えていると判断した。

 

「なんと言えばいいんでしょうね。私ってほら、魂剥き出しですよね?だから慣れてるというか」

「要するに、なんも考えずに見えてるってわけだ」

「それ反則だろ」

「その得意顔をやめなさい!」

 

 エデナの答えに不満を漏らす3人。もっとも、人魂の表情など無いので誰にも分からないのだが、今までの時を共にしてきた3人にとってそれを読み取るのは造作もないことだった。

 だからこそ、だからこそ。

 

「「「ムカつく(な)(わ)」」」

「ハハハハハ。なら頑張れ。お前らがエデナに追いつくにはそれしかないぞ」

「フフフ。私に追いつけるよう頑張ってください」

 

 ここまでくれば誰が聞いても得意気な様子がわかるだろう。

 

「エデナは認識距離を伸ばすのと、心の揺らぎを読み取る訓練だな。実際に視えるものは人によって変わってくる。勿論そうなれば、その解釈の仕方も変わってくるわけだ」

「うっ」

「0から1を生み出すと言っても良いだろうな」

「ぐっ」

「基礎が初めっからできてるんなら、なんの気兼ねもなく教えられそうだ」

「あ、あはは。……よろしくお願いします」

 

 ティグたち視えない組は必死に目を凝らし、試行錯誤しながらなんとかコツを掴もうとしている。

 エデナの方はと言うと、ダ爺に魔術による負荷を掛けられながら視る訓練をしていた。魂が剥き出しな分受ける影響は大きく、先ほどから「何でそんなに邪魔するんですかー!」と叫んでいる。

 結果的には3人よりも厳しい修行内容になっているようだ。

 

 一見エデナを除く3人は全くできていないように見えるが、ティグはその中でも一番進んでいる。先ほど言っていた「何か見える気もする」というのはその兆候で、本人は気づいていないかもしれないが、実際は視えている可能性だってある。

 

 そうやってティグが先導し、それに引っ張られていくようにトナイ、リーナ、エデナが成長してくれるのがダジにとっての理想の形だった。

 今回はエデナが飛び出る形になったし、ここ最近はティグが後ろから押されるという形だがそれはそれで良いと考えている。

 

 そうやって、引っ張り合い、押し合うように最終的には全員が登って行ければいい。

 

 それから30セン(この世界での約30分)程は経ったが、各々にそこまでの進歩は見られなかった。

 強いて言うならばティグの「何か見える気がする」が、より強まったくらいだろうか。

 トナイやリーナは目隠しを取り、眼鏡を掛けてみたり、鏡越しに視てみたりとあらゆる方法を試している。ヤケクソにも見える方法だが、的外れというわけでもない。

 

 相手の魂を直接視る『霊視』と呼ばれるこの術は、視る側の人間によって見方も見え方も変わってくるのだ。

 要はそれを視た本人がどう解釈するか、その術を『霊視』というのだ。

 勿論、『魂を見ることができる』というのが前提条件になってくるが、幽霊にとってそれは当たり前だった。

 

 確か遥か昔には『占星術』なんてものもあったらしい。

 

(『霊視』とそれは似ているのではないかという学者の意見も生前に聞いたが、もしかすると『霊視』とは『占星術』の前段階だというのも、間違いではないのかもしれん)

 

 魔法の暴走によって滅んだとされている古代の魔法文明。世界はその原因を調べた。

 しかし過去の文献や、遺跡と呼ばれるほど古い建造物などを調べてた。

 一体どんな魔法で滅んだのかが一切分からずじまいだった。

 

 唯一分かったのはその名前すら記すことも憚られるような魔法だった、ということだけだ。

 

 その時代では魔法は恐ろしく発展していたという。

 魔法として発展した占星術では、未来視とも呼べるものだったという調査結果だった。

 一人の魂を視て、そこから未来を視るという。

 

(私が()()見つけた資料は走り書きのようで、到底理解できない内容の文書だったな)

 

 魂を視る。

 つまり今で言う『霊視』だ。

 

 今では霊視が発展し、そこから更に発展させるとなると魔法の力が必要なのだろう。

 

「あ゛ー!もう無理だぁー」

 

 ティグは残りの3人の中でも進んでいた方なのだが、どうやら手詰まりになったらしい。

 むしろ、進んでいたからこそそのもどかしさに耐えられなくなったのだろう。

 

(そろそろ手を出すか)

 

「ティグ、お前はどんな風に魂が視えている?」

「んー。青色の靄がユラユラしてる感じ」

「それは全部の魂が青に視えるってことか?」

「ああ。少なくともここにいる全員はそう見えてる」

 

(なるほどな。色が全部同じだと見分けがつかなくなるか。説明する時に色を例にしたのも悪かったか)

 

 この訓練を始める前にダ爺は例として、自分はどんな風に魂を視ているか説明したのだが、その時に色で示したことが原因でそこを意識してしまったようだ。

 

「見分ける基準が色だけじゃないってのは、分かるんだけどさ。ユラユラが邪魔で形もわかんないんだよ」

 

(ほう。心の揺らぎが先に視えるのか)

 

「そうだな。お前が視えてるのは、心の揺らぎってやつだ」

「え!それって訓練次第で見えるってやつじゃないの⁉︎」

「もしかして俺ってすごい?」

 

 どうやら聞き耳を立てていたようで、リーナが話に入りそれに反応してティグが調子に乗る。

 

「お前らは幽霊なんだ。元々持っているもんが他の人とは違う。むしろ初めから視える方が多いかもしれないんだぞ」

「はぁ。なんだ」

「もしお前がそんなに才能溢れてるなら、ここまで苦労はしてないはずだ」

「ふふ。言われてる」

「リーナ。俺らもだ」

「むー」

 

 図星を突かれ何も言えなくなるリーナ。

 その原因であるトナイは疲れ切ったのか、放心状態で言葉を発するだけの存在になっている。

 

「さて、お前がそのユラユラに惑わされるという問題の解決策だが」

「お、何かあるの⁉︎」

「そうだなぁ。言えることは、お前が視てるユラユラは魂の形とは何にも関係ない。かな」

「何にも関係ない?」

「ああ、そうだ。関係がないとは言えないが、初めは、全くの別物だと考えた方がいいだろうな」

「全くの別物」

「一度、そのユラユラを視界から消して、その奥に隠れてるものと切り離せ」

 

 この『霊視』において一番重要なのは、術者の捉え方だ。「その目に映るものをどう視るか」この一点に限る。

 もし視界の共有ができるのなら、例え同じものがその目に映っていても違った風に視えるだろう。

 

「言えることはこれくらいだな。あとは自分で頑張れ」

 

 そこから『霊視』を習得するのに、ティグは5日程度、リーナは2週間とちょっと、トナイは1ヶ月半掛かった。

 その間、エデナは身動きが取れない状態でひたすらに目を凝らすことを強要される、地獄の日々を送っていた。

 

 トナイが遅れていた間中もそんな感じだったので、「早く終わってください〜」という叫び声が度々街に響いた。

 終いには流石に可哀想に思ったダ爺が、トナイに手取り足取り教えるという状況が出来上がっていた。

見る、視る、の違いは本人たちの意識の違いです

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