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プロローグ シイレアセンの花 在りし日の記憶(夢)

2018/9/10

プロローグと第1話を統合し、全ての話をずらしました。

当時の最新話は新しい話に差し替えてあります。


2021/12/7

文章全体の修正をしました。内容の変更はありません。



これが初めての作品になる、ありしひとしです。

投稿ペースはゆっくりになると思いますが、よろしくお願いします。


「私さ、そろそろここを出ないといけないんだよね」

「あー。あの時言ってたやつ?」

「そう。懐かしいねー。みんなに助けられて、結局2年も居着いちゃった」


 少女がこの街に来た時、いつか必ず出て行かなきゃいけなくなると言っていた。

 ただ、時間が経つほど彼女はずっとこの街にいるんじゃないかという幻想を抱くようになっていた。


「お前まだ5歳なんだろ?ここに来たときだって死にかけてたじゃん」

「心配してくれるのは嬉しいけど。残念、竜人族を普通の人と比べても無駄なんだ〜」


 本人が言うには、彼女はまだ5歳らしい。しかし、その見た目は確かに子供と言えるが、それでも成人前くらいだ。たとえ本人がそう言ったのだとしても、それを信じる人の方が少ないだろう。


「なぁ。5歳ってことは5年しか生きてないんだよな」

「そりゃ5歳だし」

「それにしてはこう、中身が年相応じゃないような」


 仮に5歳が本当だとしても、それにしてはやけに大人びている。精神年齢とでも言うのだろうか。ともかく、実年齢と精神年齢が合っていないのだ。そこに関しては見た目通りに成長している。

 だが、そうなると成長の速度がおかしい。身体に関してはそういう種族である、と片付けることができるかもしれないが、はたして精神的な成熟も同じように言えるのだろうか。


「母さん曰く「そういうもんよ」らしい」

「納得いかないなあ」

「そう言うティグも私と同じようなもんでしょ?」


 これを言われると言い返すことができない。


「そりゃだって、俺は幽霊だし」

「私だって竜人族だし」


 こうなるからだ。

 生きている者と、死んでいる者では話が変わるだろうと言うことはできるが、ティグの場合はそもそも死者かどうかも疑わしい。起源のない自然発生した幽霊など本来ありえないはずなのだが、それを否定することも難しい。


「そういう、もん、かぁ」

「強、情」


 ティルグレッドは自分が生まれた瞬間を知らない。

 大抵の人は自分が生まれた瞬間など覚えていないだろう。しかし、ティルグレッドは幽霊だ。多くの幽霊は、幽霊としての覚醒の瞬間を自覚し、生前の自分というものを知覚する。それが幽霊だ。

 しかし、ティルグレッドの場合は瞬きした時には存在していた。突然として、何も準備のされていない舞台に紛れ込んだかのような。幕が明ける頃には、本来いるはずのない者が、存在していることになっていた。

 幽霊とも言い切れない。異質な存在だった。


「………」

「………」


 しばらく続いた沈黙。


 その間、お互いは今までのことを思い出す。

 初めの出会いは、こんな子供が1人で旅をしていると聞いて、「こんな人もいるんだな」程度に考えていた。

 少女の方も、「こんなゴーストタウンもあるんだ」くらいに考えていた。

 お互いに子供だったのだ。


 着いて行きたい。そう言えればどれだけ楽だろうか。

 だがそれを選択してしまえば、多くの仲間を裏切ることになるかもしれない。この街にいる他の幽霊のことを。

 それに今ダジにやってもらってることは、いずれティグが外に出て行く時のためのものだ。それを無碍にはできない。そんな中途半端な状態で出ていっても、中途半端な結果と後悔しか残らないんだと、そう言い聞かせた。


「いつか迎えに行く」

「うん」

「今はまだ、着いて行ったところで足手まといだし、何よりここでやることがあるし、こう、相応しくないから」

「う、うん」

「だから旅に出る許しが出たら、必ず迎えに行くから」


 こんな話の中、彼女なら笑うのだろう。ティグはそう考えていた。

 照れ隠しの時でも、見当違いだと馬鹿にする時でも、大抵彼女は笑う。

 その笑顔に対して、ティグが引かれて居るのを彼自身まだ自覚できていない。

 何か、格好の良いことを言えば彼女は笑ってくれるのではないかと、笑顔で旅に出られるのではないかと、そんな考えがあったような気もする。


「ほんとうに、本当に迎えに来てくれるの?」

「あ、うん」


 それは予想外の反応だった。

 期待するようなその目には、ティグの言葉に縋るような色があったのかもしれない。


「なにその反応。もしかして冗談とか…」

「違う違う!本気だから!」


 唐突に不安そうに俯く少女。彼女のこんな姿を見たことはあったか、なかったか。


「…あのね、最初は大丈夫だったんだ。一人ぼっちなのも、しょうがないって納得できて」

「……」

「でも、そう納得し始めてたら、こんなとこに来ちゃったからさ。そんなの、…ここから離れられるわけないじゃん」


 ずっと1人で旅をしてきた彼女にとって、この場所は居心地のいいものだったらしい。

 幽霊だらけの街が、居心地のいい場所とは変わっている。


「必ず会いに行く。理由とかさ、その、色々。話せないのかもしれないけど、それでもーーのとこに行くよ」


 いつも快活な笑顔と共に毎日を輝いて生きていた彼女。ただその輝きは、今は弱々しく感じられた気がする。


「ありがとう」

「約束ね」


 そう言って両の手を差し出す。


「手、乗せて」

「手?」


 手のひらを上に向け差し出された少女の手に、上から自分の手を重ねるティグ。

 重ねられた手が少し光ったと思えば、ティグに変化が起きた。ティグの中で、魂とも呼べるほど深い場所で、何かが起こったのを今でも覚えている。


「ビックリした?」

「なんだろう。なんか、変?」

「言い方が、納得いかないけど…。これがあれば私の存在を感じ取れると思うの。多分、今はまだ馴染んでないだけ。私が使いこなせてないっていうのもあるのかな」

「すごい。そんなこともできるのか」

「迎えてもらう立場の私にできるのはこんなものだし。それに、何かを、残したかったから……うん」


 それは魂への干渉だったような気がする。魔術にも、精霊術にもこんなことはできない。

 ダジによって教えられているティグにはそのことを知っている。どれだけ弱くとも、ありえない力だと言うことを。

 少女がここにいられない理由には、この力が関係あるのだろう。なんとなくだが、あの時の俺はそう感じ取っていたような…。


「ありがとう。私も頑張るから」

「あぁ。また会おう」

「うん!」


 最後の彼女の笑顔は、今まで見せたどんな笑顔よりも眩しかった。


 たとえこれがただの夢であったとしても、それだけは忘れたくなかった。



 ◇――――◆



「何だよあいつは!」

「幽霊狩りだッ」


 視界に入る限りの街は炎に包まれている。

 ゴーストタウンと化したこの街は幽霊たちの手によって管理されていたため、人の気配も灯りも無く、廃墟同然だろうが、それにしても綺麗に保たれていた。

 それが、ほとんどの建物は崩れ、もはやどれだけの幽霊が残っているのかも分からない。居たとしても運よく逃げられた者たちで、この街にはもう、ティグとダ爺しかいないだろう。


 ティグたちは既に燃えている建物へと身を隠す。

 幽霊である自分らは呼吸を必要としないし、生身で人間である向こう側は火を避けるだろう。それにこんなとこに隠れているとは思わないだろう、というダ爺の考えだった。ただの願望だったかもしれない。


「ダ爺、あいつが誰なんだよ、何か知っているんだろ?」

「む」


 たった1人でここまでの損害を、この街に与えた人物。それとの邂逅にダジは戸惑い、向こうもまた何かの反応を見せていた。


「もはや関係ない。関係ないと勝手に思っていた。もう、終わった話だと思っていたんだよ。だからこそ、お前たちを正しく導くことで、自分勝手な償いをしようとしてたんだ」


 ダ爺の言う「お前たち」というのはティグ、それに加えトナイ、レーナ、エデナのことだろう。

 エデナは人魂だったが、全員この街に来る前にダ爺に拾われた幽霊だった。

 そして彼らはティグの盾になるべく、幽霊狩りへと向かって行った。幽霊狩りが健在なのと、誰も戻ってこない様子から、そういうことなのだろう。


「許されないか……」

「ダ爺。なに考えてんのか知らないけど、とにかくこの状況をどうにかしないと」


 もうここにいてもしょうがない。もう、自分たち意外に残っている者はいなのだから。

 だから、早く逃げようと、


「ティグ。もう道は残されていない。お前が受け入れられるかどうかわからないが、この状況をどうにかできる」

「俺にできることなら」

「奴を倒す」


 ティグは一瞬だけ体の強張りを覚えた。あんな化け物を倒すことなど可能なのだろうか。


「それしか方法がないからそうなるが、それに拘るな。逃げればいい」

「いや、だから最初からそう言って…」


 取り返しようのない日常。

 それを奪った相手を、ティグは許すことができなかった。

 許さないという感情を抱くことだけなら簡単なのかもしれない。だが、それを実行に移すには力が必要だった。

 そして、ティグにはその力がない。もし、もし太刀打ちできるような力を手に入れることができるのなら。


「目を瞑りなさい」

「え?」

「もうここに幽霊たちの居場所は無い。追い出されるような形になってしまうのが惜しいが、外の世界を見てくるんだ霊人という新しい種族として、外の世界で生きなさい」

「……ダジ?」

「魂の強さは心の強さだ。量ばかりが全てでは無い」


 その眼差しに引き込まれる。


「この先の世界で己を育て、お前の役目を、約束を果たしなさい」


「ティルグレッド。お前なら彼女を救えるかもしれない。そのためには人を信じることだ。騙されても、裏切られても、人という存在を信頼しなさい」


 そうして、ティグの中に何かが流れ込んでくる。

 とても大きく、抱えきれないようなそれは、やがて溶け、混ざり合う。

 一瞬だけ感じた異物感は消え失せ、暖かく懐かしい空気に包まれる。


 ーー私たちには繋がりがある。それを忘れるなーー


 ティグは自分の中に、今までになかったとてつもない大きな力があるのを感じた。

 それは、身体能力だとか、魔法力だとかでは片付けられない何か。


 知識であったり感情であったり。


「魂の強さ…」


 湧き上がる力。この力があればあいつを殺せる。ティグの中で憎しみが広がっていった。 

 それでもティグの中は不思議と冷静だった。


「忘れちゃダメだ」


 そう自分に言い聞かせる。

 そして何となく後ろを振り返った。そこに何かがあると確証を持った訳ではない。本当に何となくだ。

 ただ、ティグにとってはそれが必要なことだと思えた。


「行ってくるよ。みんな」


 ーーいってらっしゃいーー


 そう言ってくれる仲間はもういない。

 隠れていた建物が吹き飛び、そこから1つの人影が現れる。

「旅の第一歩だ。こんなところで止まってられない」



 ◆――――◇



 ーーティルグレッド。お前ならあの子を救えるかもしれないーー


(その話はもう聞いたって)


 ーーすまないな。もう、君に託すしか手段はないんだ。後を頼んだーー


(すまないって、一体何を…)


 やがて霧から抜け出すように意識が曖昧になって、やがてそれが鮮明になっていく


(あれ、この声って誰だ?)


 そうして、夢から覚めた。


◇ーーーー◆


『シイレアセン』



 この花は雄花と雌花が1つの株に咲く。大体の場合、雄花と雌花は逆方向に咲いている。

 一見して仲が悪いかの様に見えるこの花だが、お互いが居なければ生きていけないというよく分からない生態をしている。

 雄花が枯れば忽ちに雌花が枯れてしまい、雌花が枯れると雄花も枯れる。しかも、殆どの場合で、同じ株になっている花同士でないと受粉しないという。

 何故このようなことになるのか研究者も未だ解明出来ていないという。発見した身でなんだが、研究者というものも実に大変な生き物だ。


 このような生態から花言葉は「死ぬ時も一緒」。曲解して「死んでも離れない」「道連れ」など重い花として、一部では有名になっている。しかし必ず結ばれる運命の2人、と見えることから「運命」という花言葉も持っている。

結局どっちなんだよと言いたくもなるが、物は言いよう。私はこの花を発見し、(念のために今のと書いておくが)今の妻に出会った事を正に「運命」だと言いたい。



 著:世界一の冒険家 シイバル・ナウセン

 「私が発見した新発見」より

『発見』という言葉自体に、「今まで知られていなかった物事を見つけ出す」という意味があるようです。

頭痛が痛い。

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