榊、本能に刻まれた欲望を発する
あっさりと。
告げられた言葉のあまりの不条理さに、反応はすぐに返らなかった。
山賊が。ブラッディリンクスが。現行犯で危険物を取り扱った明白な犯罪者が。
「釈放されただと?」
フランが目を剥く。
煮えたぎる憤りに、彼女の羽織るマントが熱をはらんで揺れた。
逆に冷静になったセナは顎に指を添える。
「どう考えてもおかしいわね、それ。あのクソ野郎保安官はどこ? 管轄してたのあいつでしょ。調書を書いてるの見たわよ」
調べて回る間でもなかった。
領主から直々に命令を受けてカテナを釈放しに来た内務官が、困惑顔で今まさにその男の痕跡を探していたからだ。
勤務していた男の影は、署内に一切残されていない。
ロッカーも空、デスクも書類ボックスも空。指紋のひとつ、足跡ひとつさえ偏執的に拭い去られて消えていた。
どこにもいない。
「おかしいぞ。もう、なにがどうおかしいとか言えんくらいおかしい」
環が思わず吐露するほど、露骨に不自然だった。
フランはちょろちょろ動き回るモモカを見下ろす。
「モモカ。死刑なんて命令を出したのは初めてなんだよな」
「もちろんよ! 本気にされるなんて思わなかったわ!」
「ならば、カテナを狙い撃ちしたのかもしれんな」
フランの推測に、セナが嫌そうに唇を曲げる。
誰が、なぜ、とは言うまでもない。
フランとカテナに苦渋を舐めさせられたばかりの集団が、彼女のすぐ隣で悠々と逃げていった。
ブラッディリンクスだ。
「そもそもさ」
普段の軽鎧に青いヘルムをかぶるカテナがモモカを振り返る。
「なんで急に婿騒動なんて話になったの? まだ焦る年齢でもないでしょ」
「十六歳よ! お父様は穴リス? にアドバイスされたって仰っていたわ!」
「ああ」と榊も追認。「分析官が、これから情勢が不安定になるから今のうちに、と言ったそうだ」
ひくっと頬を引きつらせるセナ。
「それってさ……全部つながってるんじゃないの?」
セナはひらひらと手でジェスチャーを交えながら説明する。
「つまりさ。領主を言いくるめて外回りさせる。モモカをそそのかして不安を煽る。街中で治安工作する。警察を忍び込ませる」
「想像力がたくましいのね! そんな大袈裟なことをしてなんになるの?」
胸を張るモモカに、カテナが示す。
「少なくとも、ブラッディリンクスが大手を振って釈放された」
「…………」
モモカが口を閉じる。しばらく黙りこくって考え込んで、あっと顔を上げた。
「ヤバイわ!!」
ヤバかった。
フランが腕を組んで、そのモモカを見る。
「だが大袈裟すぎるのも確かだ。仲間を逃がす口利きができるのはいいかもしれんが、そのために領主に直接コンタクトを取るのはリスクが高いだろう」
「さあね? なんにせよ、わざわざ仕込んだのに急に表立って動いたんだから、連中がよからぬ企みを持っているのは間違いないわね」
セナは推測をまとめて、ハアっとため息をつく。気が重そうだ。
話し合っているところ、ふと環はかたわらの榊を見た。
榊は明後日の方向を見つめている。
「どうした榊?」
「聞こえた」
榊はつぶやく。
耳に隈取りのような燐光が浮いていた。環の加護、音聞きの加護だ。
「あちらです、環様」
「お? なんじゃ、どうした?」
環の手を引いて榊は早足に歩きだす。
周囲の女性たちは突然歩き出した榊にギョッとして追いかけた。
「待て榊! どうしたんだ」
フランの問いに、榊は振り返りもしない。
「聞こえたんだ。向こうから。遠い、かすかな声だったが――確かに聞こえた」
「なにが聞こえたの!」
セナの詰問に、榊は振り返る。
「妾、と言う声が」
好きなもの!
好きなものに関して異常な嗅覚を発揮するキャラ。なんなら突然の第六感とかも好きw




