授業の日
「では、門脇さん。さっき私の言ったことをもう一度繰り返して下さい」
数学の先生がいきなり声を張り上げた。
さっきまで相川の事で頭がいっぱいだった奈々は授業を一言も聞いていなかった。困惑するが、先生とクラスメートたちの眼差しが一斉に向けられ逃げ場は無い。
「ほら早く立ちなさい」
言われるがままに立つが、言うことがわからない。全身に冷や汗をかき、悪寒を感じながら一分が経過する。どうしよう、どうしようと心の中で叫ぶが何も思いつかず、ただ時間が過ぎていく。
「はい、もういい。あなたさっきまで何聞いてたの?」
「その…」
言い訳しようとするも、頭の中は真っ白だ。
「すみません…」
「すみませんじゃないわよ!さっきからずっと何も聞いてなかったの⁉︎」
「え、あ、はい」
怒られて頭が混乱し尚更何も思い出せなくなった。
「えっと、あの…すみません。つい前日相川さんが他界したばかりなので…た、多分奈々さんはそれを気にして授業集中できなかったと思いますよ…」
なんとエゴールが手を挙げて言った。奈々は驚いてエゴールを見つめる。こんなことが言える人などなかなかいないはずだ。
「あなたは黙ってなさい、エゴール。確かに相川さんが他界なさったことは悲しいことですが、授業は真面目に聞くべきことですよ」
「は、はい」
エゴールは慌てて座った。
「門脇さん、もういいです。座って下さい」
奈々は椅子に崩れるように座った。やっと安心したが、みんなの視線がまだ感じる。参った、と心の中で思った。
下校のチャイムが鳴ると、みんなは一斉に教室から飛び出し、部活に行く人もいればそのまま下校する人もいた。階段を降りて正門の前に行くと、雨が降っていた。今月は雨の日が多く、ここ最近は連日で雨が降るので傘は手放せない。
「奈々さんさようなら!」
「さようなら〜」
声をかけてきたのはエゴールと王だった。王は傘を忘れたらしく、エゴールと一緒に帰宅するようだ。
「バイバイ〜」
奈々は手を振って見送った。これからはチア部の練習があるが、今日は体育館でやることとなった。