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#1:Departure vol.4

 巨大戦艦ヘルシャークナルの主砲によりレード星の大都市は焦土と化した。その事実はセイバース隊

全員を絶望の淵へと追いやった。

 故郷を破壊された者、ヘルシャークナルの強大さ、自分たちのせいで大都市が破壊された責任感、様々な

気持ちが隊員に駆け巡る。その中でも一番間近にいて止められなかったルースに走る衝撃は一番大きかった。


『……あ…あああ、ああああああああああああああああああああああ!!!』


 彼の中で“何か”が弾けた。それは怒り、悲しみ、悔しさ、様々な感情が混ざりあった

複雑で形容の出来ないモノ。


『なっ、何だあのスピニオン!』

『…スピニオンが輝いていやがる!』


 ルースの人間とは思えない咆哮と共にスピニオンが眩しく輝いた。本来、スピニオンに光り輝く機能は無い。

そもそもギアード自体、そのような機能は無い。しかし何の冗談かいきなりスピニオンは輝き出した。だが変化は

それだけではなかった。何とルースの髪が青から金色へと変色していく。


『許さねぇ……お前ら……お前らぁああああああああ!!』


 憎悪に満ちたルースの顔は今までの彼からは想像もつかない歪んだ形相だった。呪詛のように放たれる言葉は

目の前にいる敵達に、そしてその奥にいるヘルシャークナル、そしてそれに乗るレサティアに。


『……どけよ』

『へ、へへっ、どんな機能かは知らないが5機に囲まれて勝てる訳が――――』


 それは一瞬の出来事だった。

 スピニオンの前に出てきた一機のヘルムの胴体から拳が突き出た。その拳はスピニオン。周囲の者達には

スピニオンがいつ接近し、ヘルムの胴体を拳で突き破ったか分からなかった。知覚できなかった。深く

突き刺さった腕を引き抜き、既にパイロットのいないヘルムを滅多打ちにし、ビームを撃ち爆発させる。

 それは死者になろうとも殺し、消し去ろうという意味が取れた。レブドア隊のパイロット達は目の前にいる

理解不能の存在が理屈抜きで怖かった。

 神々しく光り輝くスピニオンを、レブドア隊のパイロット達は地獄に住む悪鬼にしか見えなかった。


『ち、ちくしょおおおおおおおおお!!』

『馬鹿、よせっ!!』


 恐怖で焦ったのかフライヤに乗る者がスピニオンに攻撃を仕掛ける。だが音速を超えるスピードを誇る

フライヤの接近には勝てないだろうと周囲は“期待”、いや、“望んで”いた。

 しかしその淡い想いは一瞬で打ち崩された。スピニオンと交錯したフライヤは数発の拳を叩き付けられ

爆発、宇宙へ散っていった。たった一瞬の内でどうやって音速のフライヤに攻撃できたのか? だがこれで

今のスピニオンが尋常ではない事をレブドア隊のパイロット達は確信した。だから一目散にその場から

逃げ出し始める。


『逃げるな』


 だが、逃げる事すら敵わなかった。

 スピニオンは逃げ惑う敵ギアードを次から次へと破壊していく。それは一方的な虐殺だった。

 普段のルースならばこんな事はしないだろう。命を命とも思わない常軌を逸した暴虐。あっという間に

5機のギアードはスピニオンによって無残に破壊され、散っていった。だがそれでもルースの怒りは

治まる事を知らない。


『死ね……死ね………許さない…絶対にぃ!! うおあああああああああああああああああ!!!』

 


「おいおい…何が起こってるんだ? ルースに…」


 ソードガッシュの格納庫。今は退却したジョンがモニターでスピニオンの謎の現象を見ていた。もちろん

ソードガッシュにいる誰もがこの異常な事態に驚きを隠せないでいた。


『一体…ターニア、スピニオンにあのような装置があったとは聞いてないぞ!?』

「しっ、知らないよ隊長。あんな機能付いてる訳がない!」


 整備班長のターニアでさえ、今スピニオンに何が起こっているのかわからなかった。



「通信は? マリエーヌ君!」

「それが…どうやっても繋がらないみたいなんです」


 オペレーターに聞く所、まるでスピニオンが通信妨害でもしているかのように一切通信が繋がらないの

だという。その間にも輝くスピニオンはその神々しさとは裏腹に鬼神の如く敵を一方的に殺していく。普段の

ルースを知るエオードは、スピニオンの戦いぶりが信じられなかった。


「ルース…お前は一体…?」



「大佐! レサティア大佐! このままではあの化け物がこちらに…!」


 ヘルシャークナルのブリッジでも、突然謎の変化を起こしたスピニオンを見て恐れる者が多数だった。しかし

ただ一人だけ光り輝くスピニオンを見て笑う女性がいた。もちろん、レサティア=ヴォルゲインである。


「大丈夫よ。ここは私が出るから、全機に撤退するように伝えて」

「まっ、まさか大佐自ら…!」

「フフフ」


 その笑みは女神のようで、悪魔のような二面性を帯びていた。



『ああああああああああああああああああああ!!』


 本能のままに狂い、レブドア隊のギアードを片っ端から破壊し尽くすルース。しかしどうやっても通信が

できないはずのコクピットに声が響き渡る。


『もう少し落ち着いたらどう? ルース・ドラッド君?』

『!!? その声…その声…その声えええええ!!』


 その声は先ほど聞こえた女性のものだった。美しく、それでいて身震いしてしまう艶のある声色。しかし今の

ルースには殺意を沸き立たせる声にしか聞こえない。彼の顔が、普段彼を知る者なら顔を背けたくなるほど憎悪に

歪んだ。大都市の、多くの命を奪った張本人がすぐ近くにいるのだから尚更であろう。


『どこにいやがるっ!!? 出て来い! 殺す…お前だけは絶対に殺すッ!!』

『…そんな事も気づかないの? 後ろにいるじゃない。さっきから』

『!!!?』


 彼が、スピニオンが振り返ったその先には一体のギアードがあった。白銀に煌き、後ろにある羽のような

パーツはまるで天使、いや、女神を思わせる神々しさと神秘さを兼ね備えていた。ルースは不覚にもその美しさ

に一瞬目を奪われた。それがとても屈辱だった。


『それでも本当に「青き一閃」と呼ばれているの? まだまだ坊やね』

(な…いつから後ろに!? レーダーにも出なかったし、それに機体の影すら見えなかった。あんな…あんな

目立つ機体なのに…)


 ルースはあと数年で成人とは言えまだまだ子供だ。だがそれでも「青き一閃」と呼ばれ並のパイロットなら

相手にもならない実力を持っている。それをあっさり後ろを取られたことによりルースは言い知れぬ恐怖を感じ

それが上手く作用して落ち着きを取り戻していた。それと同時にスピニオンのオーラのような輝きは消えていき

彼の髪の色も青に戻った。するとルースは辺りを見回す。


『………?? 何だ? 俺、今までどうしてたんだ…? それにあのギアード…』

『どうしたのかしら? ルース・ドラッド君』

『!! その声、お前は!!』


 ルースはまるで先ほどまでの記憶が無かったかのように振舞う。それは事実だった。ルースには大都市が

焼かれる所からここまでの記憶が無かった。ルースにしてみればいきなり目の前に謎のギアードが現れた

ように感じたのだろう。不思議な体験にルースは訳が分からなかった。



「何だあのギアード? あんなの見たこともない!」


 ソードガッシュの格納庫にまた衝撃が走る。レノスのギアードにも精通しているターニアでさえレサティアの

乗る「レンジェル」という機体は知らなかった。そしてその神々しさと共に感じる異様さは量産機では有り得ない

ことをターニアは悟った。予想されるのはあれが隊長機、それも特注品だということだ。


「スピニオン、元に戻ったみたいだぜ? あの謎の輝きも引っ込んだけどな」


 ターニアと共にモニターを見るジョンは嫌な予感がした。あの異常な強さを発揮したスピニオンですら

謎のギアードの接近を許してしまったのだ。只者ではないとジョンは感じていた。


「ルース、気を付けろよ……!」



 謎のギアードと対峙して、ルースはそれに乗るレサティアに怒りを含ませて尋ねた。


『どうして…どうして関係ない人達を! 自分が何をしたのか分かってるのか!!?』


 一般人をどんな理由であろうと殺すのは条例違反だ。銃殺刑は免れない。だというのにレサティアはそれを

いとも簡単にやってのけた。もみ消そうにも規模が大きすぎる。となるとレサティアはそれが許される

信じられない権限でも持っているのだろうか?

 だがそんなことルースにはどうでもよかった。人として、ルースは今の今まで平和に暮らしてきた人々の命を

あっさり奪ったレサティアがどうしても許せなかった。


『分かってるわ、あれで何人死んだのかしら? 1万…10万…100万?』

『ふざけるな!』


 まるでゲームでいい結果が出せたかのように言うレサティアにルースは怒りの声を上げる。レサティアは

それを聞いて心外そうな顔になる。


『あらあら。ねぇルース君、もしこれが君の為にやった事だとしたら……どうする?』

『なっ!? 俺の為だって!?』

『そう、君の為』


 ルースは呆然とするしかなかった。いくら冗談にしても行き過ぎている。あの大都市を、罪もない人々を

消し去ったのは、自分の為だと言う。何を言ってるんだこの女は。


『は、ははは! 何言ってるんだ、そんな馬鹿なことってあるかよ!』


 スピニオンが先に出た。拳の甲にあるエネルギージェネレート装置を稼動させると拳がエネルギーを凝縮した

膜に包まれる。重装甲のギアードですら突き破るスピニオンの武装エネルギージェネレートパンチ。スピニオンは

それをレンジェルに食らわせようとするが、レンジェルは紙一重で避ける。

 続けてスピニオンは左腕に付いている腕ほどのサイズであるビームシールド、それに内臓されたビームブラスタ―

を連射、しかしそれも避けられてしまう。


『中々の連撃。人型であるスピニオンでそれほどのスピードを出し続けるとGの負担が大きいでしょうに』

『くっ……』


 フライヤのような飛行形態ならば音速のスピードを出してもGの負担は少ない。しかし人型であるスピニオン

しかもルースのスピニオンは特別製。スピードもフライヤに迫るものがある。音速に近いスピードならばGの

負担が大きい。ルースはもう戦場に出て30分以上になる。身体の負担は限界に近づいている。ルースの息は荒い。


『くそっ…しかもこいつ……』


 それでもスピニオンの動きはそこまで落ちてはいなかった。にも関わらずレンジェルは紙一重…いや、紙一重に

見せかけて攻撃を避けていく。たった数撃でもルースはレサティアが、レンジェルがどれほどのものか解りはじめて

いた。


『でも、さっきの君の方が良かったわよ? 憎悪に満ちた、憎しみの塊のような…ね。フフフフ』

『?? 何の事だ!』

『…やはりね。憎しみによる「力」の発動は憶えていない事が多い…』

『だから、一体なんなんだ!?』


 ルースにはレサティアの言葉の意味が解らなかった。レサティアは光り輝いていた時のスピニオンのことを

言っているのだろうが、ルースには知りようがないから仕方が無い。だがその原因すらレサティアは知っている

ようだった。


『さっき私は大都市を消滅させたのは君の為だと言った。それは君の「力」を引き出す為に必要不可欠なこと

なのよ』

『俺の力…? でたらめなこと言って!』


 スピニオンの拳が遂にレンジェルに命中する…のだが、レンジェルには傷ひとつ付いていなかった。スピニオンの

拳はレンジェルの手前で見えない何かに阻まれていたからだ。


『なっ…バッ、バリアか!?』

『少し違うわね。このレンジェルにはどのような攻撃手段も寄せ付けないし、受け付けない。そんな

絶対的なフィールドを常に身に纏っているのよ』

『な……? なにを…言ってるんだ?』


 拳が阻まれたことへの説明を聞いたルースだったが、まるで理解できなかった。この女は一体何を言っている

のだろうと。未知の機体に未知の能力。そして、まるで得体の知れない存在にルースは思考をパンクしかけていた。


『フフフ……信じられないのも無理ないわ。信じられないついでにもう一ついいもの見せてあげる』

『!?』


 スピニオンは突然動きを止めた。いや、止められた。スピニオンの周囲に何かが浮かび上がった。それは

物語で見るような魔法陣のようなもの。


『なっ、何だこれっ!?』

『そうね…【結界】とでも言っておこうかしら。わかり易く言うと君のスピニオンは鎖でがんじがらめに

縛られたようになっているのよ。絶対に抜け出す事は出来ない』

『なんだって!? そんな事がギアードに…』


 彼女の言う通り、どんな事をしてもスピニオンは身動きが取れなかった。最早レンジェルのしている事は

ギアードの領域を逸脱している。そんな馬鹿げた事をするギアードなどルースは知らない。


『ルース君、今ここにある事が真実。この宇宙に説明できないことなんて幾らでもあるわ』

『…こんなデタラメ……くそっ、動け! 何で動かない!?』


 ルースには彼女の言う事が理解できなかった。彼の見る限りレンジェルはれっきとしたギアードそのもの。しかし

今、まさに目の前で信じられない事をやってのけているのだ。信じざるを得なかった。それがどれだけ滅茶苦茶な

事だとしても。


『くそっ……。……ハハッ…滅茶苦茶だよアンタ。…殺せよ』


 勝負は決した。ルースは死を覚悟した。しかしレサティアの口から予想外の言葉が飛び出した。


『殺さないわよ、君は』

『……は?』


 一瞬、ルースは何を言ったのか理解できなかった。しかし、これほど超常的な力を持ちながら今まで

殺されなかった事を考えると、自分は初めから遊ばれていたのだと勘付いた。だがそれでは彼女の意図が

解りかねる。


『アンタ…一体、何がしたいんだ……?』

『……君は私と同じ、【選定者】なのだから…』

『選定者…?』


 初めて聞く言葉にルースは首を傾げた。こんな馬鹿みたいに強い女が自分と同じ? ますますルースは

訳が分からなかった。


『その選定者ってのは何だ!? それに、俺はアンタなんかと同じじゃねぇ! …アンタみたいな悪魔とは!』

『フフ、今は分からなくてもいいわ。でもその内、嫌でも分かる事になるのよ…。君は大いなる渦の中心に

いるのだから…』

『…逃げるのか!?』


 意味ありげな言葉と共に、スピニオンに背を向けるレンジェル。羽ばたく翼は天使のように見えるはずなのに

ルースにはそれが悪魔の翼にしか見えなかった。


『ごめんなさいね。私、今からレード星にある君達の基地を全部制圧しなきゃならないの。もう少し君と遊んで

いたかったけど、これ以上は何も意味を成さない事が分かったから』

『…降下する時には無防備になるぞ。ソードガッシュの主砲で、アンタの戦艦を撃ちぬくぜ?』


 通信マイク越しでレサティアに言うのだが彼女は何故か笑う。それがルースの癇に障る。


『何がおかしい』

『ヘルシャークナルは今も君達の戦艦に照準を合わしているわ。私がいいと言えばいつでも撃つ事ができるのよ?』

『そんなハッタリ…』

『ハッタリじゃないんです』


 突然スピニオンのコクピットに響き渡るのはレサティアとは別の女性の声。それは出撃前に会ったあの女性の

もの。


『え? その声…マリアさんか?』


 ルースのコクピットに通信してきたのはマリア。準じてヴィジョンが浮かび上がった。彼女は先ほど見た笑顔と

違ってやや青白い表情をしていた。


『敵の戦艦からは、まだエネルギー反応があるんです。どうやら最初から2発分のエネルギーを充填していたん

です…』

『そ…そんな…』

『そういう事なのよルース君。もう、君達に出来る抵抗はなくなったのよ』


 レンジェルはスピニオンから離れていく。だがルースはそれを許さない。例え身動きがとれなくても。


『レサティアァッ!』

『そう、猛りなさい。そして、私を恨みなさい。君が私を殺せるだけの力を手に入れられるか…期待しているわ』


 やがてレンジェルの姿はヘルシャークナルへと消えていき、それと同時にヘルシャークナルはレード星へ

降下を始める。レンジェルが離れ、スピニオンを縛り付けていた陣は消えて動きがとれるようになった。しかし

ルースはもう追う事はしなかった。敵が自分達の惑星へ降りようとしているのを、ルース達は見ている事しか

出来なかった。


『目の前に…目の前に敵がいるのに、敵が俺達の星を消そうとしているのに、何もできないなんて…何も

できないなんて……!!』


 自分はまだ動けるのに、敵がこれから侵略をする所をただ見る事しか出来ないのである。これ以上の屈辱は無い。


 完全な敗北。ルース達セイバース隊はあっけなく負けてしまった。スピニオンはずっとその場で動かず

ルースは歯を食いしばりヘルシャークナルが降りていく所を見ていた。この敗北を忘れないように、あの敵を

心に刻みつけるように。


 しばらくして、スピニオンにソードガッシュが近づく。仲間達のヴィジョンが次々と現れ心配の声をかける。彼ら

の声を聞けたのが心の助けだった。


『……負けた…』


 ルースはぽつりと呟いた。ここまで圧倒的に負けたのは、青き一閃と呼ばれてから初めての事だった…


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「お、おいルース!」


 ソードガッシュの格納庫。回収されたスピニオンから、降りるとルースはいきなり壁を拳で殴りつける。何度も

何度も。それを見たターニアはすぐに腕を掴んだ。拳からは血が滲んでいた。


「馬鹿な事を…何やってんだお前!」


 怒鳴られても反応の無いルース。俯いて何かを呟いているのをターニアは注意深く聞いた。


「負けだ…」

「えっ?」

「俺達の負けだ…。何も、出来なかった…」

「…ルース」


 悔しさを顔に滲ませてルースは静かに格納庫を出て行く。彼を止める者は誰もいなかった……



「戦死者、10人。読み上げます…」


 ミーティングルームではマリアが戦死者を読み上げる。それを隅でルースとジョンは聞いていた。15人中10人

パイロットが死ぬ事は隊にとってかなり深刻な事だ。ルースに次ぐ実力の持ち主であるジョンも健闘したが

全員を守りきる事は出来なかった。ルースと同じく落ち込んでいるはずなのに、ジョンはルースを慰めようと

肩に手を置いた。


「まぁ落ち込むな。生きていればいつか奴らに一泡吹かせる事が出来る。死んだ大都市の人々やみんなの為にも

頑張ろうぜ?」

「……」


 精一杯の慰めも、ルースには気休めにもならなかった。普段、風のようにおちゃらけた感じのルースが

塞ぎこむように俯いている。ルースはヘルシャークナルの主砲を止められなかったのが自分の責任だと、自分が

弱かったから大勢の人を亡くしてしまったのだと、責任を感じているのだ。決してルースだけの責任では

ないというのに…。


「相当へこんでいるな…」


 ジョンの隣にいたターニアは、小声でジョンに言う。ルースの拳を見るとまだ手当てしていなかった。


「……ルースは、昔から背負い込みすぎる癖みたいなものがあるからな…。無理もない…」

「ルース、このまま潰れなければいいけど…」 



「諸君、聞いてくれ」


 マリアが戦死者を読み終えるとその次にエオードが口を開く。その口はいつになく重い。


「……たった今入った情報だが、レード星に残した第二部隊はレブドア隊によって壊滅させられたらしい…」


 ミーティングルームにはセイバース隊の隊員がほぼ集まっていた。だからどよめきは室内を覆った。これで

セイバース隊で生き残ったのはこのソードガッシュ一隻のみとなった。クルーは絶望感に打ちひしがれる。


「……もう我々が帰る場所は無くなった。…我々はこれからセンドラド本部へ赴き、これからの指示を仰ぐ」


 いくつもある惑星の内、センドラド軍本部に近いのはレード星だ。孤立してしまったソードガッシュはもう

本部へ向かうしかない。その場の全員が納得せざるを得ない中、一人だけ声をあげた。ルースだ。


「隊長……このまま、このままあいつ等を野放しにしていいのかよ!? 俺だけでも――」

「お前も戦って感じただろう!!! お前ほどの男をまるで相手にしないレサティア・ヴォルゲインの強さを!!」

「くっ…」


 ルースの叫びは、エオードの怒声にかき消された。彼の言う通り、今またあのレンジェルと戦ったとしても

満に一つとルースに勝ち目はないだろう。ルースもそれが分かっていたが、認めたくなかった。


「落ち着けルース! それじゃまるっきりガキだぞ!」

「…くそ…くそっ…」


 ジョンになだめられて、ルースは頭を掻き毟って机に突っ伏す。ルースの悲しい叫びはクルーの心を

締め付ける。誰だって、出来る事なら今すぐにでも飛び出していきたいと思っている。だが、あまりにも

敵は強すぎる。だから、顔を俯かせる。それがとても情けなかった。


「まだ諦めてはいかん。我々は生きている! 悲しむ暇はない、奴らの好きにさせる訳にはいかんっ!! 我々は

散っていった者達の為にも生きて、戦わなければならない…!! 戦わなければ……」

「隊長…」


 何度も机を叩くエオード。その叫びは鎮痛なものだった。それを見てルースは自分がどれだけ子供だったか

思い知る。エオードだって本当は今すぐにでも追撃に向かいたいはずなのだ。だがそれをしないのはそれが

無駄な事だからだ。そんなエオードの姿を見てしまったらもう短気を起こす気にはなれなかった。


「これより…セイバース隊はセンドラド軍本部へと向かう!」

「「了解!」」



 ソードガッシュは宇宙を駆ける…悲しむ暇さえなく。


 戦いは始まったばかり……


 ルースの悲しく空しい戦いは、まだ始まったばかりなのだ……



                                 TO BE CONTINUED…

第1話はこれで終了です。いかがだったでしょうか? 色々背景やらキャラの詳細やら何やらすっ飛ばしてしまった事は否めません。それはこれからやっていくにせよ、そこら辺はちょっと失敗してしまったかなぁと今頃反省してしまっています。駄目ですね、全く。なんか愚痴ばっかですみません。それではまた次回。

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