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#1:Departure vol.3

 セイバース基地・格納庫。そこにはセイバース隊のギアードの全てが置かれている。

 緊急なのでその忙しさは半端でない。整備士班長であるターニアは整備士達に指示を出す事で

忙しさを増していた。


「ほら――!! 早くしないとビームで灰になるよ! 急いでギアードを収納!」


 セイバース隊の戦艦、「ソードガッシュ」に、次々とギアードが搬入されていく。名前の通り剣に

似た戦艦は約400m。赤く塗られたその船体は敵を切り裂き、血を吸ったような猛々しさがあった。


「はやくしろー!」

「急げぇ!」

「合点!」


 整備士達の声は、格納庫全体に響くほどだった。



―ソードガッシュ・ブリッジ―


 ブリッジはエオードの座る指令席があり、一つ下の段差にオペレーター、通信士、操舵士の席が

ある。更にその一つ下の段差には対空砲火などを操る者の席が5つある。どの席にも専用のテーブルがあり

そこにはヴィジョンを使った電子モニターが浮かび上がっている。前には180度の大きなメインカメラが

あり、それで外の状況を肉眼で見る事が出来る。


「この人はセンドラド本部から派遣されたマリエーヌ・プラティカさんだ。今日から副司令兼

オペレーターをやるそうだ」


 ジョンは黒髪の女性、マリエ―ヌをルースに紹介する。


「よろしく、ルース君」


 微笑んでマリエーヌはルースに右手を差し出す。ルースは新たな仲間に喜んで握手をした。


「あぁ、よろしくな! マリエーヌさん」

「フフ、「マリア」でいいわよ。“ルー君”」

「ルー君?」


 マリエーヌもといマリアは自分をあだ名で呼ぶようにするだけでなく、自己紹介でいきなり

ルースにあだ名をつけた。

 

「ルー君って、俺の事っスか?」


 ルースは何故自分にあだ名をつけたのか、その訳を聞きたがった。そうするとマリアはその名に

相応しい微笑みで答える。


「ルースって聞いた時から決めてたの。ルー君って呼ぼうって」

「ハハッ、面白い人だなマリアさんって。うん、それでいいっスよ」


 大人びた容姿とは裏腹にその無邪気さは可愛らしく思える。はにかみ合う二人を見て、端では

楽しく話しているのを恨めしく思うジョンの姿があった。


「話はそれぐらいにしておけ」

「ういっス」


 指令席に座っているエオードがルース達の方を見ないで注意をかけた。その一声ですぐに

ルースもマリアもスイッチを切り替えたように表情を変える。


「よし、現状報告!」


 隊長席の下方にある席にいたオペレーターは、エオードの掛け声で手馴れた感じで浮かんだ

パネルを押して情報のあるファイルを開く。すると様々な文字の羅列が浮かび上がった。オペレーターは

それを読み上げていく。


「現在、敵のものと思われる巨大戦艦がレード星宙域に留まっている模様。主砲を大都市へ向けて

チャージ中、恐らく後20分程で発射されるかと。監視衛星は2分前に破壊され、それ以前の映像に

映ったものからギアードを15機ほど確認。大気圏を突破後すぐに交戦の可能性大! 全隊員、乗り組み

終了!」

「時間が無い! 一番スピードのあるソードガッシュが迎撃に向かう! 残りの戦艦は大都市を死守!

繰り返す、ソードガッシュは迎撃、他の戦艦大都市を死守だ! ソードガッシュ発進ッ!!」


 エオードの命令により、一気にソードガッシュは浮上して辺りに強風を巻き起こしながら

発進した。基地を後にして…




 レード星の頭上に迫るレノスの巨大戦艦「ヘルシャークナル」。そのクジラとも思わせるフォルムの

尻尾ともいえる所にカタパルトがある。そこから次々とギアードが出てくる。既に戦闘準備は完了と言った

感じである。ブリッジにはあの金髪の美女、レサティア・ヴォルゲインがその光景を楽しそうに

見つめている。その微笑みは天使のものか、悪魔のものか。


「敵艦、上昇してきました! 距離4000!」

「フフフ…やってきたわね。【選定者】に相応しいか見せて貰うわ。「青き一閃」さん♪」



「うおおおおおお!!」


 猛ダッシュでルース達パイロットは艦内を走っている。行く所は無論格納庫である。無重力の

宇宙空間にいても艦内で走れるのは重力制御しているからである。


「はい一着〜! 準備はOKかターニア!?」

「はいよ! 早く行って来い!」


 ターニアに一声かけてルースは自分の機体の下へ走る。約20mくらいの巨人はそこにいた。蒼く

輝くその人型のギアード【スピニオン】はルースの愛機である。通常このスピニオンの基本色は黄色なのだが

ルースの嗜好で特別に塗り替えている。スピニオンは人型でも飛行形態のフライヤに近づく機動力を持ち

最大出力で動くと閃光のように見えるので、「青き一閃」の異名を持っている。


「頼むぜ相棒!」


 威勢良くハッチを開けてギアードのコクピットに乗り込むルース。起動スイッチを押すとスピニオンの

目に当たる部分が光る。ルースは銃が握り締める部分だけになったような2本のトリガーを握った。


『GO!!』


 ソードガッシュよりスピニオンが出撃した。無限に広がる宇宙を背に青い一閃が煌く。


『おいジョン、敵さん、相当多いぜ?』


 レーダーに映る敵ギアードは20を超えていた。ソードガッシュに搭載できるギアードはせいぜい

15機。だが、状況が状況なだけにそれは仕方無い事だ。

 だがそんな状況にも関わらずルースは臆せず、むしろこれから起こる戦いに胸を躍らせるような

感じだった。不謹慎ではあるが。


『ルース、ここは俺達に任せてスピニオンで敵を振りきれ! そしてあの馬鹿デカイ奴に一発

食らわせてやれ! 出来るな!』

『あぁ、任せろ! 死んだら承知しねぇぞ?』

『誰に言ってやがる』


 ジョンは親指を立てて白い歯を剥き出しにした。それを見てルースはもう何も言う事がない事を

悟ると敵ギアードの群れへとスピニオンを突っ込ませていく。それをジョンや他のパイロット達は

援護する形で後に続いて行った。



 ソードガッシュのブリッジは敵の分析で大忙しだ。オペレーターが必死になって分析に勤しんでいる。

副司令であるマリアもオペレーターを務めていた。


「全ギアード出撃! ルース機だけ先行しています!」

「スピードはスピニオンが一番だ。20機以上のギアードを突き抜けられるのは奴しかいない」


 20機以上もいる所を真正面から突っ切ろうとするなど自殺行為もいい所だ。しかしセイバース隊の

誰もがそれに口を挟まない。今日から配属となったマリアはそんな光景に驚いていた。


「信頼、してるんですね」


 マリアはエオードのすぐ隣、副司令席にいる。エオードは何も言わなかったがそれが

答えだとマリアは悟った。


「敵戦艦の主砲発射まで、後5分!」

「くっ…時間は無い! ソードガッシュ前進! 多少の被害は構わん、突っ込め!」

「了解!」


 本来、戦艦は前に出るべきではないがそんな悠長な事を言っている場合ではない。


「大都市に向けた主砲が、こちらに来る可能性は考えられないでしょうか?」


 マリアは考えていた。これがセイバース隊の精鋭を一掃する作戦ならばそれも有り得ると。だが

エオードは首を横に振った。


「いや、それは無い。あの手の輩はやると言ったら必ずやる」


 豊富な経験からエオードはそう断言する。確かにあのレサティアとかいう女は危険だ。普通じゃ

ない。絶対に禁止とされている一般市民への無差別攻撃をしようとしているのだ。


「それはそうと、ルー君は大丈夫なんですか? たった一機であの大群に…」

「マリア君、見ておくといい。奴が「青き一閃」などと呼ばれている所以を」



 

『撃て――――!!』

 2体いるレノスの人型ギアード、「ヘルム」の銃撃をそのスピードでスピニオンは避けまくっている。


『くそっ、何て速さだ!』

『おらぁ! 邪魔だ――――!!』


 一時の方向から来るスピニオンに2体のヘルムは必死にビームブラスターで撃つが、全然かすりもしない。


『HYU!』


 高速でその2体に迫るスピニオン。ルースは確実にビームブラスターの照準をヘルムに合わせた。そして…


『なっ…』

『BANG!』


 スピニオンの左手のビームブラスターが火を吹いた!


『う、うわああああああああ!!』



 コクピット部分にビームが命中したヘルムは爆発音と共に宇宙に散っていった。


『YES!』


 勢いよくルースはスピニオンを巨大戦艦ヘルシャークナルへと突き進むのだった。



 青く輝く一閃が、次々にとレノスの機体を避け、撃破するのをまるで映画でも楽しむように見つめる女性、レサティア。微笑み

ながらブリッジでその様子を見る彼女は、スピニオンが迫ってくるのを望んでいるようにもとれる。


「フフ…さすがは「青き一閃」と呼ばれるだけはあるわね」


 自軍の兵が、次々に倒されているのに彼女はまったく動じていない。その余裕の笑みは不気味な物を感じさせる。


「でも、もう時間がないわよ?」



『ビーム発射まで、後…1分です!!』

『チッ、もうそんな時間かよ!?』


 セイバース隊のパイロット全員に残酷な通信が響き渡る。ジョンは冷や汗をかくのを感じた。


『くっ!』


 その不意を突かれたのか、ジョンは敵のビームを防御する形に持ち込まれてしまう。そして、ジョンの目の前に彼の

考えもしない光景が広がっていた。


『……おいおい、マジかよ…』


 レーダーに映る数の敵の表示が増えていく。それは一つや二つどころではない。おびただしい敵信号の点が

どんどん現れていく。


『こいつら…“さらに増えてる”…!?』


 ルースやジョン達が落としたギアードはおよそ10機。しかしヘルシャークナルから更に出撃してきたギアードは推定50機。合わせて

60機超。セイバース隊の機体の数は残り12機、とても勝てる数では無い。ジョンは回りの仲間と陣を組み防戦一方となってしまった。



『うわぁぁぁ!』


 レノスのギアード・フライヤのビームブラスタ―が、セイバースの人型ギアード「バーム」に直撃する。その機体は爆散して

宇宙のもくずの一つとなった。丁度、ソードガッシュを守っていたセイバース隊員を襲った悲劇だった。


『うわぁぁ!』

『助け…』


 ブリッジでは、その場面を間近で見たマリアが顔を青ざめる。そんなマリアを見てエオードは声をかけた。


「君は、あまり戦場に出た事は無いのだったそうだな」

「ええ……。事務でしかたから…」


 そんあ話をしている内にオペレーターの口から次々と現実を突きつけられる。


「敵ギアード、さらに増大…20機です。我々との数、約60は違います…。ビーム発射、30秒前です…」


 メインオペレーターも、平静を装っているが明らかに顔は青ざめている。何故なら、彼らにとってこんな絶望的な状況は初めて

だったからである。エオード隊長は歯を食いしばって仲間の死を悔やむ。


「駄目押しか…元より勝てる相手では無かったのか……くそっ! 初めからこうするつもりだったのか…ふざけおって!!」



 余裕の正体を明かしたレサティアは、座席から立ち突然笑いだした。純真無垢な子供のように、まるで遊びを楽しむ

ような、そんな笑い方を彼女はしている。


「アハハハハハハ!! ハハッ、ハハハ!」


 ヘルシャークナルの主砲エネルギー充填が終わろうとしている。

 そう、レード星大都市の最後が迫っているのだ。



『19…18…』


 絶望のカウントダウンの中、必死に戦うセイバース隊。ジョンは仲間達を必死に守り、エオードはソードガッシュに

迫るレノスのギアードに必死の抵抗を強いられている。


 そしてルースは…


『くっそおおおおおお!!』


 スピニオンのスピードを最大出力まで上げてヘルシャークナルに迫る。しかし、その距離はどう計算しても後20秒は

かかる。それにレノス兵の守りも厚くまさに絶望的であった。


『8…7…6…』


『間に合え……あそこには戦争には関係ない人たちがいるんだぞ? スピニオン、頑張れ!!! 早く…もっと早く!!』

『邪魔させるか!』


 ルースの嘆きも空しく、スピニオンの動きを止めようと周りに5機のギアードが囲む。…もう、間に合わない…


『やめろ……やめろぉぉ!! うおおおおおおおおおおお!!!!』



 まるで星が爆発でもしたかのような音が光と共に宇宙の戦場に響き、ヘルシャークナルから放たれた主砲は、寸分の狂いも無く

レード星の大都市に向かっていく。そして間もなく、主砲は大都市を焼き払った。


 跡形も無く、全てを消滅させて…


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