#1:Departure vol.2
レード星の宙域にはセイバース隊の監視衛星がいくつも漂っている。当然敵が来るものなら
探知してセイバース隊の基地へと情報が送られるのである。
その監視衛星に不穏な影が迫っていた。それは誰が見ても圧倒される大きさ、クジラを思わせるそのフォルムは
1000mはある。それは超巨大戦艦であった。赤く塗られた機体は多くの軍人の血を吸ったかのようである。
その中のブリッジでは、ルースの乗るギアードがモニターに大きく映し出されている。それを豪華なシートに
座った女性が見ていた。
その女性はとても人とは思えない美貌を兼ね備えていた。長く伸ばした美しい金髪の髪は神秘的な物を
感じさせ、大きく開けた胸元からは豊満な谷間が見られ男なら誰もが唾を飲み込む程艶かしい。そしてどの
宝石よりも美しく見える蒼い瞳は見るものを魅惑し、吸い込ませるだろう。女神でもあり悪魔とも言える
その絶世の美女は、指令する位置にいる事からどうやらこの戦艦を指揮する者である事が見受けられる。
「どうなるかしらね? 彼、二機のフライヤ相手にあんなギアードで勝てるかしら」
金髪の女性は、座り心地のよさそうな椅子に座りモニターを楽しそうに見ている。すぐそばの
オペレーターは彼女の言葉に苦笑する。
「大佐、いくら奴が「青き一閃」であってもそれは無理な話です。あのようなギアードでフライヤを…」
「いえ、もしかするとやるかもしれないわよ?」
その女性の微笑みに、オペレーターは少し戸惑う。
女性の表情は、既に結果が見えているような感じだった。
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「うわ、やっぱフライヤだよ」
あと500mまで迫ったルースは敵の機体を確認する。
―フライヤ―
高速飛行型ギアード。一見エイのような体型を思われる機体で、変形機能が搭載されており人型にも
なれる。レノス軍では大量に量産されている機体で、そのスピードはギアードでも上の域にある。
『なんだぁ〜? 普通の戦闘機タイプじゃねぇか。楽勝楽勝!』
意気揚揚とフライヤに乗るレノス兵はルースの乗るエベリィに迫る。そのスピードはエベリィの
2倍はある。青い機体の色は、まるで空に溶け込むようだ。
「やれやれ、こっちは普通も普通、民間にも使われているような奴なんだぞ?」
ルースの嘆きも空しく、フライヤは攻撃を開始した。
「わっ、わっ!」
フライヤは前方にある機銃で、エベリィを威嚇するかのように弄ぶ。いくら威力のない機銃
といってもルースの機体では洒落にならないのだ。
「くっそ! やってくれるじゃねーの!」
『へっへ! そろそろ落としてやるかぁ?』
フライヤから今度はレーザーが飛び交う。それを当たる寸前でエベリィは避ける。
『なにぃ!?』
「ふぅー。…奴らを倒すにはこの…」
ルースは、モニターで自分の機体の武器を映す。そこには誘導ミサイルが二基搭載されている。
「本当はビームもあるんだけど、急に持ち出したからエネルギーが充填されてないん
だよなぁ。これしかないか…。エベリィってあまり武装が無いからな。……よし…!」
ルースの目の色が変わる。それはいつもの陽気な彼の目ではなく、戦闘の世界の殺伐とした目だ。
『このやろ! 落ちろ雑魚が!』
必死に攻撃するレノスの兵士だが、2人がかりでしかも戦闘力も上のギアードを操っている
にも関わらず、ルースの操縦するエベリィには一度も当たってもいない。
「チャンスは一度、二機が交差する一瞬で!」
レノス兵の動きは、ルースの周りを旋回しながら攻撃するというものだった。ルースは
数十秒程度で敵の攻撃パターンを見破った。
『何で当たらないんだぁ!?』
「今だ!」
二機が交差した瞬間、ルースはミサイルのスイッチを押した。機体の両サイドに搭載されている
ミサイルが、ボシュ、という音を上げてフライヤ目掛けて飛んでいく。
『わっ、わぁぁぁ!!』
『くるなっ! くるな―――――』
レノス兵の叫びも空しく、誘導ミサイルが後を追って見事に命中した。爆発と共に
フライヤは広い森林地帯に落ちていった。
「YES! ふぃー、ギャンブルだったなぁ、今のは」
安堵の息を吐き、ルースは殺伐とした表情から元の笑顔に戻り、エベリィをセイバース隊の基地へと
帰還するのだった。
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「そ、そんなバカな…!」
「だから言ったじゃない」
レード星に近づいている巨大戦艦のブリッジ、驚くオペレーターとは対称に予想通りとばかりに
金髪の女性は微笑んでいる。
「あんなオンボロで、フライヤ二機をた易く撃破するとは…」
「…さてと」
椅子から立ち上がる金髪の女性。スラッと伸びた綺麗な足は他の女性が見れば
嫉妬する程。女性は通信機に手を回した。
「どう? 準備はできた?」
「問題ありません。いつでも回線をジャックできます」
「フフ、それじゃあ回線開いて」
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「ルース・ドラッド、入りまーす」
戦闘の後、ルースは隊長に呼び出された。どうやら、彼にもレノスの軍備拡張を
伝えようと隊長は考えているようだ。彼が扉を開いたのは隊長室の扉。そこにはジョン、ターニア
隊長、そして昼の食堂を通った女性がいた。
「うおっ!? どうしたんだよみんな集まって…それにアンタは食堂にいた…」
「ルース、この人は…」
ジョンがルースにその女性の事を紹介しようとした時だった。
『こんにちは、惑星レードのみなさん』
「「!!?」」
突然、隊長室に澄んだ女性の声が聞こえる。その声はあの金髪の女性なのだが、ルース達が知る訳無かった。
『私はレノス軍レブドア隊隊長、レサティア・ヴォルゲイン大佐と言います』
「レノス!?」
そのあまりにも突然の事にルース達は動揺を隠せなかった。エオードはすぐにヴィジョンを出し
通信士を呼び出す。
「何だこれは!?」
『今、調べます!』
「いきなり何だってんだ、無線か!?」
ジョンはターニアを見るが整備士の彼女は腕を組んでどんな方法でこんな通信をしてきているのか
思案しているようだった。
『突然ですが、失礼します。これから私達はこのレード星を制圧します。至る所を“消す”つもりです』
「何だって!?」
声を上げたのはルース。あまりにも恐ろしい事を言うレサティアと名乗る者の口調は、いかにも楽しげな
感じで、それが人を馬鹿にした風で聞く者を恐れさせ、苛立たせる。
『これは警告ではありません。“脅迫”です』
全ての回線をジャックしたのか、レサティアの“脅迫”はレード星全土に伝わっている。レード星の
人々は徐々にその脅迫に恐怖を感じ始めていた。
街の喫茶店でも―
『死にたくなければ早く逃げてください』
「なっ、なんなんだこれ!」
「なんか、やばいんじゃないの!?」
街の大通りでも―
『抵抗する人は、容赦せず“消します”♪』
「やべーぞ!」
「逃げろ!」
『まずは「大都市」から…消えてもらいましょうか?』
「「うわぁぁぁぁぁ!!」」
「「キャァァァ!!」」
それを聞いた大都市の人々が、パニックに陥った。ハッタリと言い張っていた者もやがては
他の人々の悲鳴で恐怖が感染して全ての市民が混乱を極めるのは、大して時間は掛からなかった。
セイバース基地隊長室では、怒りに満ちたエオードがその突然の出来事に腹を立てて机に
拳を叩きつけた。その目はこのような事態を招いたレサティアへの怒りで覆われていた。
「奴らは何処にいる!!!」
『通信を逆探知した結果、敵はレード星の真上にいる事になります!』
「何故今まで監視衛星が気付かなかった!? 何をやっていたんだ貴様らは!」
『も、申し訳ありません!! 恐らく敵の戦艦は高度なレーダージャマーを搭載しているらしく、ここまでの
接近を許してしまいました!!』
今ここで部下の怠慢を叱咤しても意味が無い。エオードは怒りを抑え、冷静に状況を判断する事に
する。隊員の通信は止まらず
『データに無い戦艦です! お、大きさは1kmを超えます!! しかも今、巨大な熱源を探知!
…これは恐らく主砲のものと思われます!!』
「「!!」」
今がどれだけ危機的状況に晒されているのかを実感し、ルース達は驚かされる。
「どうやら敵さん、マジみたいっスよ! 隊長!!」
ルースはエオードを促す。それにエオードは頷き立ち上がった。
「うむ! 考えている暇は無い! これより…」
出撃――と言いかけた所でまたレサティアの通信が響き渡る。
『ああ、それとセイバース隊の皆さん。変な気を起こさない方があなた達の身のためですよ?…それとも
自信の方がありまして?』
最後には嘲笑も含めて、レサティアの通信は終わった。
皆はエオードの言葉を待っていた。怒りに身を奮わせたエオードは、静かに、そして力強く言い放った。
「これより、セイバース隊は敵の迎撃に向かう!!!」
「「了解!!」」
いかがだったでしょうか? 次はいよいよ両軍入り乱れての戦いが始まります。果たしてルース達はレサティアを止められるのでしょうか? ご期待ください。