#1:Departure vol.1
新作です。拙い文章でありますがどうかお付き合い
下さい。
「くっそ〜〜〜! また負けた―! …それにお前、昼飯おごりなら早く言えっての!」
ジョンは渋々これから自分の金で払わなければいけないテーブルの上にある
フライドポテトをかじる。彼の目の前では忙しそうに大量の食べ物を口の中に放っているルースの姿
があった。彼は自分の財布の中身は気にしなくてもいいので存分に胃の中を満たしている。
ここはルース達の所属する、惑星レードを管轄している部隊「セイバース」の基地の食堂。
セイバース隊はセンドラド軍に属する部隊で、日夜レード星に攻め込むレノス軍と戦っている。
この二人はセイバース隊でもトップの実力であり、ルースはセイバース隊で若いながら
エースと言われるほどの腕前である。
「まぁ、そうほめんなって」
「クソがぁ!」
憎たらしいルースの態度に、ジョンは激怒するが彼らのテーブルの前を通る美人によって
それは消化される。短く切りそろえた黒い髪は彼女に合い、特徴なのはその
右耳の前に長く垂らした髪がある所だ。顔は落ち着いており大人の雰囲気を漂わせている。スーツは
セイバースの軍服で紫色のスーツもまた彼女に合っている。ジョンは口を開けたまま彼女を見つめていた。
「ヒュ―、とびっきりだな」
ジョンが口笛を鳴らした頃には、彼女は食堂にはいなかった。ルースは彼女に違和感を感じていた。
「セイバース隊に、あんな人いたっけ?」
彼の言う通り、彼の記憶にはセイバース隊にあのような美人はいない。だがジョンは全く気にしなかった。
「別にいいじゃんか。うち等の女共とは大違いだぜ」
「だ〜れが、大違いですって?」
「!!!」
ジョンの背後より、ドスのきいた女の声が聞こえる。彼が振り返るとそこには茶髪の
ポニーテールと、左目の下のほくろが特徴の女性が立っていた。つなぎを着ている事から彼女はギアードの
整備士か何かを連想させる。そして彼女の目には、自分への愚弄に対しての怒りが燃えていた。
「オッス、ターニア(…怖!)」
「はぁい、ルース♪」
その二人の挨拶とは対称に、ジョンはターニアの視線に完全に負けて、その隣に座る彼女に
怯えきっていた。彼は今日寝る時、枕を噛んで恐怖に怯え枕を濡らすだろう。
ルースはターニアに先ほどの女性について訊いてみた。
「ターニアは分かるか? さっき食堂通って行った女の人」
「どんな人?」
「美人!」
即答するジョンをターニアはエルボードロップをかまして黙らせた。
「そうだなぁ…あれでこれで…」
ルースはターニアに先ほどの美人の特徴を説明する。しかしターニアは首を傾げるばかりだ。
「うーん…悪い、分からないな」
「そっか。それじゃあ新しく入った人なのかな?」
それっきり美人の女性についての話はなくなった。
「…そうだ、聞いてくれよターニアぁ!」
突然、ポテトをかじりターニアに押し寄せるジョン。少し涙ぐんでいるのがいい歳して子供っぽかったが
ターニアはそれが少しウザかった。
「なっ、何だよ!? ちょ、ウゼーよ!」
「それがさぁ、今日のレノスの奴等とでさ、ルースが昼飯賭けて何機落とせるか勝負したんだよ」
「おいジョン、それじゃあ俺が無理やりやらせた感じじゃんかよ」
ルースはフライドポテトを咥えながら、テーブルに身を乗り出してジョンを責めた。しかし
そんな二人を尻目にいきなりターニアが笑い出した。それにジョンは驚き、ルースは首を傾げる。
「タ、ターニアさん?」
「どした?」
「アッハハ…そりゃジョンが負けるって。いつもそうだけど、ルースの『スピニオン』、好いパーツが
手に入ってさ。ちょっといじってたんだ…」
「「なにぃ!?」」
二人はターニアの告白に驚いた。スピニオンとはルースが駆る愛機のギアードである。高速戦闘用で
敵味方共にその戦闘時の姿は『青き一閃』と呼ばれ恐れられている。
「んっ?」
ルースが振り向くと、そこにはただならぬ殺気を放ったジョンの姿があった。その顔は
笑っている様に見えるが、まったくの作り笑いである。
「金、返せ?」
ルースはジョンに恐怖を感じた。ここは何としても逃げなければ…というルースの考え出された結果は…
「あっ! さっきの美人の人!!」
「ナニィィ!!!?」
ルースの指差す方向に、ジョンは異常な速さでそこに走りこんだ。…しかしそこには
誰もいなかったのだった。
「おいルース、居ないじゃないか! …あれ?」
ジョンの振り向く所には、ルースは居なくターニアがそこに立っていた。
「おいターニア、ルースは?」
「ハァ〜…」
ターニアは、ジョンの頭の悪さにため息をつかざるを得なかった。当の本人は
まったくわかっていない様子だ。
「バカか、お前は。ルースならとっくに逃げたぞ」
「なっ…。あ、あのヤロ――――――!!」
ジョンの叫びは、食堂全体に響き渡ったという。
「イィィィィイヤッホーーーーーー!!」
一方その頃、ルースは戦闘機型飛行ギアード・エベリィで空のフライトを楽しんでいた。いわゆる
脱走という奴である。
ルースの顔は何ともいえない開放感を表していた。それはまるで無垢な子供が遊んでいるかの
ような、そんな感じにさせる楽しそうな顔であった。
「フゥ、まったく、何か変だと思ったんだよな〜今日のスピニオンは。まっ、どうせパワーアップ
しなくてもジョンの奴なんかに負けないけどな」
と、言葉では平和的なのだが、ギアードの方は恐ろしく難度な飛行を繰り返している。上空から
急降下して、地面スレスレで浮き上げてから機体を2回転させている。誰が見てもぞっとする光景で
ある。そんなアクロバット飛行をを軽くこなしてしまうのだからルースはセイバース隊のエースなのである。
「やっぱ、飛んでいるとスッキリするぜ〜〜♪ よーし、もっとぶっ飛ばすぞー!」
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ところ変わってセイバース基地の「隊長室」。そこには別名「鬼の隊長」と恐れられている隊長
エオード・オークが座していた。スキンヘッドに黒のサングラス、鬼髭面。そしてその厳しさ故に
「鬼の隊長」と恐れられている。そこに、ルース達が食堂で見かけた通った美人の女性が何やら
エオード隊長と話しをしている。
「なんと…レノスが密かに軍備拡張を…!!」
「はい」
その女性の情報に、エオードは驚きを隠せないでいた。
「ううむ…奴らめ、最近手応えが無かったのはそのせいだったのか」
その時、電子音と共に隊長の前にヴィジョンが現れる。ヴィジョンには慌てた様子の隊員が映っていた。
「た、隊長!」
「何だ、今は会議中だぞ?」
隊員はどこか落ち着いていない様子で、報告にためらっているような感じも受ける。
「そ、それが…」
「どうされたのですか?」
丁寧な口調で女性は隊長に語り掛けるのだが、まだ隊長は隊員から事を聞いている。そして…
「なにぃ!? まぁたルースが勝手にギア―ドを乗って出ただと!!? 貴様ァ、どうしてもっと
早くそれを報告しなかったぁぁあ!!」
「ひ、ひぃいいいいいいい!!」
正に鬼の形相でエオードは激怒した。隊員はそんなエオードを見て失禁寸前で青ざめる。
女性は近くにいるにも関わらず怒るエオードを恐れもせず、出てきた名前が気になっていた。
「ルース?」
「♪〜〜♪♪」
勝手にギアードを持ち出したとされているルースは、お気に入りの曲をかけてフライトを
楽しんでいた。曲は「BLUE SKY」というロック系である。
「ブルーブルー」
『ルゥゥゥゥゥス!!!!』
「!!!!」
突然の通信、そして大声で一瞬ルースの意識は飛んだ。
機体は急落下して、地面スレスレの所でルースの意識は帰ってきた。
「だっ、だれだぁあ! もう少しで死ぬ所だったぞ!」
ルースが叫んだときには目の前にヴィジョンが出ていた。そこにはエオード隊長が
映っている。それにルースは絶句した。
『誰に口を聞いている?』
「隊長――――――!!?」
もう言い逃れのできないルースは、死を覚悟した。
『貴様…これで何度目だ!? ギアードで出れば敵に気付かれるかもしれないというのに、貴様は
いつもいつもいつも!! 脳が湧いてるのではないか!?』
「ご、ごめん、ごめんって隊長!」
ルースは誠心誠意を込めて謝るのだが、謝り方も過去のものと全く同じだった。エオードは溜め息を
吐いてこれ以上は時間の無駄だと悟った。
『…もういい。さっさと戻ってこい』
「わっかりましたー♪」
ケロッと態度を変えるルース。ヴィジョンに映るエオードはもう諦めているのか深い息を吐くのだった。
――その時、ルースの機体の中でWARNINGの文字が出てけたましい非常サイレンが操縦席に鳴り響く。
「あ、隊長。敵に発見されちゃった」
『何ィ!? だから言っただろう!!』
「ごめんって! …2機、2機だ。速さから言って多分フライヤだと思う」
レーダーに反応する二つの点が、徐々にこちらへと迫ってきている。
『高速飛行型のフライヤか!? お前の乗るエベリィでは歯が立たん! 2機は無理だ、逃げろ!』
「隊長、フライヤ相手じゃエベリィで逃げるの無理だって。とりあえずやってみるわ」
『何!? お、お前まさか…ルース! 無茶はよ―――』
途中でルースはヴィジョンを消した。舌なめずりをして、これから起こるだろう戦闘に胸を
躍らせるような表情をしていた。
「へへっ、2回戦の始まりってか? 面白くなってきやがった!」
戦闘機型ギアード・エベリィは全速で敵のいる方へと飛んでいった。
始まりましたGEARD、いかがでしたでしょうか?
まだ始まったばかりでいかがでしたかは無いとは思いますけど…。次回はいよいよバトル開始です。