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あなたとわたしがいたところ

作者: 葉月らゆ

 がらんとした室内に座って、私は広い庭を眺めていた。

 梅や松など知った木もあるが、大多数は名も知らない木々が作り出す美しい日本庭園。

 小さいながらも橋のかかった池には、なぜか鯉ではなく金魚が泳いでいる。

 詳しい種類は知らないが、おそらくは和金なのだろうと思う。

 優に20cmはありそうな彼らは、わたしが少々餌をやりすぎたせいで貫禄ある体つきだ。


 小さな頃、私は池には金魚がいるものだと思っていた。

 大きくなって――といっても実際はまだ子供だったけれど――鯉が世間一般的に飼われているのだと知って驚いたほどだ。


 普通ではない。私はそれがとてつもない罪のような気がして、家の主たる彼に尋ねてみたのだ。どうして金魚なのか、と。

 彼は呵呵と笑って答えた。金魚が好きだからに決まっているだろう、と。


「皆がそうしているからと言って、好きなものを我慢するのは性に合わない。わずかな人数でも、自分を理解してくれる友がいるのだから、それ以外の人間に指をさされて笑われようが気にならないさ」


 格好よかった。少なくとも周囲の人間の顔色を伺ってばかりの私には、それがとても素敵に見えた。

 それから私は彼と一緒に金魚の世話をしてみた。

 水道水は金魚には毒にしかならないのだと知ったり。毎年たくさんの卵を産むのに、放っておくと自分でそれを食べてしまったり。たくさんの卵から生まれたたくさんの小さな金魚の稚魚のなかに、なぜかフナの稚魚がいたり。

 たくさんの疑問に彼はひとつひとつ答えてくれる。


 たくさんの時間を私はここで過ごし、たくさんの思い出を作った。

 懐かしくも美しい過ぎ去った日々。




 思い出に浸りきった後、私は漸く立ち上がり、黒と白の世界に向かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] しっかりした一人称視点と、堅実な地の文章が良かったと思います。読みやすく、内包しているテーマも伝わりやすいと感じました。 [気になる点] やはり短すぎると感じます。 一瞬を綺麗に切り取って…
2011/02/05 09:01 退会済み
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