赤毛の天使
藍色のマフラーが、北風に飛ばされて、葉が全て散った桜の木の枝に絡まった。
前日の仕事納めで、恥ずかしく不甲斐ないミスをやらかしてしまった。あまりにショックで、悶々と心ここにあらずの心境で、陸上の亀のような足取りで、遊歩道をとぼとぼと歩いていた。そこへ、いたずらのような突風が不意に吹き、遥か昔に初恋の女の子からプレゼントされた大切なマフラーが、よりによって百七十センチの俺でも手の届かない高さの木に引っかかった。
不運はどうして重なるんだと、素っ裸な高木の下でうなだれていると、突如天使が現れた。後ろから見知らぬ若い女性が、白い息を弾ませながら、声をかけてきた。健康そうな美人だが、浅黒い肌で、赤いチリチリパーマに、白いダウンコートを身に着けていた。そして、俺の有無を言わさず、リスのごとくスルスルと桜の木に登り、木と一体になったような惚れ惚れするほどの慣れた動作で、さらわれたマフラーを手中に収めた。木から無事に下りると、宝物を扱うように、両手でマフラーを差し出してきた。受け取って、感謝の言葉を口にしようとした次の瞬間に、彼女はどこかへと駆けて行った。
あの頃の小さな蕾が、今や満開だ。あの極寒の真冬の日の出逢いは、俺の人生では、まばたきほどの一瞬だが、正直俺個人のくだらないプライドなんかよりも、ずっと美しい一ページだと思う。




