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沸騰する1999 -黒い雨の聖餐-  作者: クトゥルフ好き


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9/20

【Episode 6: 2日目】

【1999年8月上旬 - アーカム財団日本支部 第7解析室 Day 2】


【07:00 - 朝】


2日目の朝。


目覚めたマサルを包み込んでいたのは生臭いミルクの臭いだった。

むせ返るような芳香。


「……ん……数値、記録……」

部屋の中央。


田中冴子がパイプ椅子を並べただけの仮眠スペースで身じろぎをした。

彼女は、上半身裸に近い状態だった。


着ていたTシャツは、襟元から胸の中央にかけて裂け、ボロ布のようにぶら下がっている。


露わになった二つの巨大な乳房は、重力に従って左右に広がり、床につきそうなほど垂れ下がっている。


皮膚は薄く引き伸ばされ、内出血を起こしたかのように赤黒い血管が幾重にも走っている。

肥大化した乳輪は、直径10センチにも達してドス黒く変色し、その中心にある親指ほどもある乳頭からは絶え間なく白濁した液体が滲み出し、床にポタポタと滴っていた。


「……ああ、勿体ない。」

田中は目を覚ますと、床に広がった白い水溜まりを見て呟いた。

羞恥心など欠片もない。


彼女はすぐに足元の医療用ビーカーを手に取り、自分の乳房の下に宛てがった。

「ヤマモト君、おはよう。……今のうちに採取しておくわ」


彼女は慣れた手つきで、自らの巨大な肉塊を両手で持ち上げ、絞り上げるようにマッサージを始めた。


ギュッ、ギュッ、という肉が軋む音。

そして、勢いよくビーカーに母乳が注がれる音。


「粘度が増している。」

彼女は、ビーカーに溜まったドロとした液体を光に透かし、真剣な眼差しで観察している。


その液体は、微かに「青白い燐光」を放っていた。

人間の母乳ではない。


【09:00 - 実験1:物理法則への反逆】


朝食の後、本格的な実験が始まった。

田中はTシャツをガムテープで無理やり補修し、白衣を羽織って顕微鏡の前に座った。


「さて、始めましょう。まずは物理的耐性の確認よ」


「検体『カオス・ドロップ』に対し、熱衝撃を与える。……設定温度、マイナス196度」

田中は、液体窒素のタンクから極低温のガスをシャーレに噴射した。


白煙が上がり、部屋の空気が凍りつく。


モニターの中の黒い液体は一瞬凍結したかのように見えた直後、自ら「非ユークリッド幾何学的」な形状にねじれ、氷を溶かした。


「……物理法則を無視しているわ。」

田中は興奮し、ガリガリとボールペンでメモを取る。


その拍子に、机に乗せた乳房が揺れ、白衣の布地を突き上げる。


【12:30 - 異形たちの履歴書】


昼食。


田中は配給されたパスタを食べていた。


マサルは尋ねた。

「田中さん……その体、本当に大丈夫なんですか? 病気なら、治療を受けるべきじゃ……」


田中はフォークを止め、マサルを見た。

その瞳には諦念に近い狂気があった。


「病気? ……違うわ、ヤマモト君。これは財団における『キャリア』よ」


「キャリア……?」


「3年前よ。私は南米アンデス山脈、地図にも載っていない地下深層の大空洞、『チャビン・デ・ワンタル遺跡』の最奥部調査隊に参加したの」


田中は遠くを見る目をした。


「そこでね、私たちは見つけてしまったの。……地底湖に眠る、山のように巨大な『何か』を」


「巨大な……何か?」


「現地の人々は『蒼白き女神(The Pale Mother)』と呼んで恐れていたわ。……古くて、静かな、地球土着の神性よ」


田中は語り始めた。

その内容は、科学者の報告というよりは、悪夢の独白だった。


地底湖の中心に鎮座していたのは、白くブヨブヨとした、不定形の肉の山だった。

目も口もない。あるのは、全身を覆う無数の「乳房」だけ。

その器官から、白濁した液体が絶え間なく湖に流れ込み、地下水脈を満たしていたのだ。


「隊員の一人が、その湖の水を飲んだの。……喉が渇いていたからじゃない。強烈な甘い香りに脳髄を犯されたのよ」


「ど、どうなったんですか?」


「破裂したわ」


田中は淡々と言った。


「一口飲んだ瞬間、彼の腹が風船のように膨れ上がった。胃袋の中で、あの白い液体が爆発的に増殖したの。……彼は『もっと欲しい、もっと飲ませてくれ』と叫びながら、口からも、鼻からも、耳からも白い液体を噴き出して……最後は、パンッて。内臓とミルクの混合物を撒き散らして弾け飛んだ」


マサルはフォークを取り落とした。


「私はね、逃げなかった。それ以上に魅入られてしまった。自ら、女神の体液に触れたわ」


田中は自分の胸を愛おしそうに撫でた。


「口の中に濃厚なミルクが流れ込んできた。甘くて熱くて……。既に変質を始めていたわ。生理が停止し、代わりに乳腺組織が発達を始めた」


「医者は治さなかったんですか?」


「治す? まさか」

田中は冷笑した。


「財団は喜んだわ。工場として利用価値があると判断されたのよ。再生作用と幻覚作用があるからね」


彼女は、自分の胸を指差した。


「この組織にはね、私みたいな人間がたくさんいるのよ。……第3研究室の木島博士を知ってる? 彼はインスマス沖の深海調査で『何か』を見てしまって以来、首にエラができて、陸上でも溺れるようになったわ。今は水槽の中で研究を続けている」


「……そんな」


「第9機動隊の隊長は、全身が炭化しているけど生きている。火山の神の怒りに触れた結果よ。……財団にとって、私たちは『人間』じゃない。『呪い』という名の才能を持った、特殊職員なの」


彼女の体から漂う臭いは、人間のそれとは微妙に異なる芳香を含んでいた。

それは、地球上の生態系に属さない、「外なる神」の分泌物なのだ。


「だからね、私は知りたいの。……今、目の前にあるこの『カオス・ドロップ』と、私の中にいる『白い女神』。……どっちが強いのかを」


田中は、シャーレを睨みつけた。

そこにあるのは、科学的探究心だけではない。


「神」に対する対抗心と異なる神性同士を戦わせようとする好奇心だった。


【16:00 - 実験4:母乳投下実験】


そして、夕方。

田中は、震える手でビーカーを持ち上げた。


朝に採取した、自身の「変質した母乳」が入っている。青白く発光する、粘度の高い液体。


「ヤマモト君、カメラを回して。……これが本日のメインイベントよ」


「田中さん、まさか……」


「ええ。黒い雨と白い乳、混ぜたらどうなるか。」


彼女はピペットで母乳を吸い上げ、シャーレの上へ運んだ。

白濁した粘り気のある雫が、ポタリと落ちる。


ジュワアアアッ!!!


黒い液体に白い雫が触れた瞬間、爆発的な反応が起きた。

これまでのような「捕食」や「適応」ではない。

化学反応を超えた闘争がシャーレの中で勃発した。


黒い液体は棘を出して白い液体を刺し貫き、白い液体は泡を出して黒い液体を包み込もうとする。

シャーレの中で、微小な雷鳴と閃光が走る。

それは殺し合いだった。


「ああっ……! 熱い……! 痛いッ!」


田中が呻き声を上げ、胸を押さえてうずくまる。

共鳴現象だ。


シャーレの中の「女神の因子」の苦悶が量子的な繋がりを通じて、フィードバックされている。


「すごい……! 互いに食い合ってる! ……いいえ、殺し合いながら、混ざり合おうとしているの!?」


シャーレの中で、黒と白がマーブル模様を描き、新たな灰色のアメーバ状物質へと変化していく。

異なる二つの神性が交わり新たな子を産み落とそうとするかのようだった。


「見て、ヤマモト君! この数値! 」

田中は、激痛と快楽に顔を歪めながら、モニターにしがみついた。


Tシャツの胸元が、内側からの圧力でさらに引き伸ばされ、繊維が千切れる音がする。

乳首から噴き出した母乳が、噴水のようにモニターを濡らし、キーボードの隙間に流れ込む。


「もっと……もっと欲しいのね!? あげるわよ、全部あげる! 戦いなさい! 混ざりなさい!」


彼女はピペットを投げ捨て、ビーカーの中身を全てシャーレにぶちまけた。


シャーレから、黒と白の触手が飛び出し、ガラス壁を突き破らんばかりに暴れ回る。

その動きは、明らかに歓喜していた。

新たな力を得て、進化しようとしているのだ。


【23:00 - 搾乳の儀式】


実験終了後。

田中は、疲労困憊で椅子に沈み込んでいた。


だが、その表情は満たされていた。


「素晴らしいデータが取れたわ。……異なる神性因子の融合。これは鍵になるかもしれない」

彼女の白衣は母乳と汗でぐっしょりと濡れ髪は乱れ、激しい情事の後のような有様だった。


だが、彼女がノートに書き連ねているのは数式と化学反応式だ。

あくまで科学者として、この現象を解明しようとしている。


肉体がどんなに獣じみた反応を示そうとも、彼女の理性は健在だった。


夜。

田中は、寝る前にメンテナンスを行っていた。


電動の搾乳機を巨大な胸に当て、溢れ出る母乳を処理しているのだ。

ウィーン、ウィーン、という機械音が、静寂な部屋に響く。

透明なチューブの中を、白濁した液体が脈打ちながら吸い出されていく。


「……痛い……張って痛いの……」

彼女は独り言を漏らしながら、モニターの中の灰色のアメーバを見つめていた。


「待っててね。……明日になったら、もっとたくさんあげるから」

その声は、研究対象への興味なのか、それとも我が子への愛なのか。

区別がつかなくなっている。


マサルは震える胎盤を抱きしめた。


胎盤は、今日の実験――特に白い液体との融合――に対して、激しい反応を示していた。

熱くなり、表面が硬化し、マサルの手を拒絶するように震えている。

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