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沸騰する1999 -黒い雨の聖餐-  作者: クトゥルフ好き


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7/9

Intermission 2: 財団評議会

世紀末、世界は「熱」と「愛」に溶かされた。狂気と変異のパンデミック・ホラー。

【1999年8月上旬 - アーカム財団本部 "円卓の間"】


漆黒の闇に浮かぶ13体のホログラム。

前回、この場に満ちていた高揚感は、微塵も残っていなかった。


代わりに漂っているのは、鉛のように重い沈黙と困惑だった。


『……日本支部、特別医療棟Bブロックの封鎖完了。焼却処理による浄化を確認しました』

諜報局長「静観者」が、事務的な口調で報告した。


『損失は?』

議長席の「大導師」が短く問う。


『上級研究員を含む医療スタッフ12名、警備員4名。精神汚染による離職者・自殺者は計30名を超えています。日本支部だけでなく世界中で同様の事例が多発しております。』


『たった数日で、これか』

軍事部門の長、将軍が忌々しげに唸った。


『人的資源の損耗などどうでもいい。問題は「制御」だ。錬金術師、君の部下が管理していたサンプルはどうなった? 制御下にあったはずではないのか?』


名指しされた医療部門長「錬金術師」は、苦虫を噛み潰したような顔でデータウィンドウを展開した。

『……言い訳はしない。我々の予測モデルが甘かった』


日本支部から回収された解析データを指し示した。


『「黒曜」の適応能力は、我々のシミュレーションを遥かに上回っています。見てくれ、このグラフを。彼らは学習している』


グラフの曲線は、指数関数的に跳ね上がっていた。

『既存の化学物質、ワクチン、神経ガス、そして鎮静剤。……すべて無効化されました。それどころか、投与した薬剤の化学構造を瞬時に解析し、それを「栄養源」として取り込む酵素を体内で合成したのです。与えれば与えるほど、奴らは強くなる』


『なんだと……?』

科学局長「教授」が息を呑んだ。


『さらに悪い報告がある』

将軍が割り込んだ。


『南米の封鎖エリアだ。現地部隊との交戦記録において、火炎放射器への耐性を持った個体が確認された。奴らは、表皮を炭化させて耐熱層を作り、内部の核を守る術を覚えている。……物理的な焼却処分も、いつまで通用するか怪しいぞ』


円卓の間に、戦慄が走った。

「科学」と「武力」。その両方が学習のための教材にしかなっていない。


『……認識を改める必要があるな』

大導師の声が、重く響いた。


『これは「資源」ではない。「災害」だ。それも、文明をリセットしかねないレベルの』


『では、核で焼き払いますか?』

将軍が身を乗り出す。


『いや、まだ早い』

止めたのは経済部門の「銀行家」だった。


『今の汚染エリアを焼き払う規模で核を使えば、南米大陸は死の土地になる。経済への打撃は計り知れない。それに、教授の懸念通り、もし核さえも吸収されたら? 我々は自ら敵に餌を与えることになる』


『だが、汚染エリアの拡大速度は、シミュレーションを大幅に超えているんだぞ!』


『静粛に』

大導師が手を挙げた。場の空気が凍りつく。


『楽観視は禁物だ。事態は人類存亡の危機へ移行したと認定する。……なりふり構っている場合ではないな』


大導師は、空中に新たな極秘ファイルを開いた。

そこに表示されたのは、巨大な宇宙船の設計図と、衛星軌道上に浮かぶ人型兵器のシルエットだった。


『「箱舟」の建造を急がせろ』

賢人たちがざわめく。


それは、地球放棄を前提とした、選ばれたエリートのみの脱出計画だった。


『逃げるおつもりですか? 我々が?』


『最悪の場合、種としての人間を残すことが最優先となる』

大導師は冷徹に続けた。


『既にAIやロボットを用いた資源の採取、生産システム、生態系の構築技術は一定程度完成をみている。数百人規模であれば、宇宙空間であろうと数百年は生存環境を維持できる。』


『同時に、「デミウルゴス」の起動シークエンスをレベル1まで引き上げろ。』


『デミウルゴス……。機械仕掛けの神か』

教授が眼鏡の奥で目を光らせた。


『我々は看守だ。囚人が暴動を起こせば、刑務所ごと爆破するのも仕事のうちだ』


「教授」が、静かに制止した。

『待ってください。まだ手は残っています』


手元のコンソールを操作し、円卓の中央に新たなホログラムを展開した。

南米の汚染エリアを取り囲むように、衛星軌道上から投下される巨大な「黒い杭」のシミュレーション映像だった。


『これは……「天の楔」か?完成していたのか』

将軍が目を見開いた。


『その通り。正式名称、「局所的現実固定装置(Reality Anchoring Device: RAD)」。』

教授は続ける。


『物理法則を無視し、エントロピーを逆転させ、有機物を書き換える。ならば、対抗策は一つ』


教授が指を鳴らすと、映像の中の「杭」が地面に突き刺さり、青白い波動が広がった。

その波動に触れた赤黒い肉塊が、瞬時に灰色に変わり、活動を停止していく。


『この杭は、周囲の空間における物理定数を、強制的に「不変の値」に固定します。いかなる超常的な干渉も、このフィールド内では無効化される。魔法が使えない世界を、人工的に作り出すのです』


『……物理法則の強制固定だと?』

銀行家が息を呑んだ。


『可能です。過去にも、物理法則を改変する神や能力者は確認されています。対抗策として開発が続けられていたものです。我々は既に、量子レベルでの事象の確定プロセスを制御する技術を持っています』

教授は傲然と言い放った。


『この杭を南米の汚染源――「マルス」の周囲に打ち込めば、「書き換え能力」は封じられます。増殖も、進化も、歌うことすらできなくなる。永遠に固定されるのです』

賢人たちの間に、どよめきが走った。


『だが、リスクはあるのだろう?』

諜報局長「静観者」が冷静に指摘する。


『ええ。現実を無理やり固定する反動で、境界線に時空の歪みが生じます。周辺の空間に亀裂が入り、最悪の場合、ブラックホールに似た特異点が発生する可能性がある。……まあ、南米のジャングルが多少消滅する程度ですが』


『些細なことだ』

静観者が即答した。


『人類が滅ぶよりはマシだ。』


『素晴らしい……』

錬金術師が恍惚とした表情で呟く。


『我々はついに、物理法則さえも飼いならしたのだな』


大導師は、しばらく沈黙した後、重々しく頷いた。

『見事な成果だ。事前に情報共有はしてほしかったが。。。』


円卓の間に不協和音が鳴り響いた。


『緊急入電! 南米封鎖エリア、第3防衛ラインより「レベル5」救難信号!』

通信士の焦った声が割り込む。


大導師が眉をひそめた。

『レベル5だと? 全滅判定ではないか。何が起きた』


『現地の映像を繋ぎます。……精神汚染フィルターを最大にしてください。直視すると、脳が焼けます』

ホログラムの一部がノイズ混じりの映像に切り替わった。


そこに映し出されたのは、地獄だった。


【南米封鎖エリア - 第3防衛ライン】


映像の中では、最新鋭の戦車部隊が、ジャングルの木々に「捕食」されていた。

否、植物ではない。幹は筋肉の繊維で編まれ、枝は血管のように脈打ち、葉の代わりに無数の「人間の耳」や「眼球」がぶら下がっている。


戦車の装甲を、植物の根のような触手が貫き、中の兵士を引きずり出して養分にしているのだ。


『……糞ッ! 撃て! 撃てェェェ!』

現場指揮官の絶叫が響く。

彼の足元では、地面が口を開け、部下たちを飲み込んでいる。


『効かねえ! ナパームも、対戦車ミサイルも、全部「食われ」ちまう! エネルギーを吸収してデカくなりやがる!』


『こちら司令部! 撤退せよ! 防衛ラインを放棄して……』


『撤退だと!? どこへ逃げるんだ! 後ろを見ろ! 道がない! 道が「腸」になってるんだよ!』


カメラがパンする。


彼らが通ってきたはずの軍用道路は、巨大な腸壁のようなトンネルへと変貌していた。

彼らは既に、巨大な生物の体内に取り込まれていたのだ。


『あ、あ……空が……』


指揮官が空を見上げる。


降り注ぐ「黒い雨」と共に、巨大な「有翼の捕食者」の群れが旋回していた。それは、鳥やコウモリではない。人間が縦に引き裂かれ、翼を生やして飛んでいるようなシルエットだった。


『ママ……助けて……』

指揮官が幼児退行を起こし、銃を自分の口にくわえる。


パンッ!

映像が血飛沫で赤く染まり、プツンと途切れた。


【円卓の間】


重苦しい沈黙が支配した。

将軍が、拳を震わせていた。


『正規軍の一個師団が……わずか2時間で消化されたというのか?』


『消化だけではありません』

教授がデータを確認する。


『装備、生体情報、戦術パターン。全て学習されました。次に現れる敵は、我々の戦車の装甲を持ち、我々の無線暗号を解読して偽情報を流してくるでしょう』


『学習する災害か……』

大導師が呻く。


『だが、これほどの騒ぎだ。隠し通せるのか?』

銀行家が懸念を示した。


『衛星写真や、現地の民間人の目撃情報は? 煙も上がっているだろう』


『ご心配なく』


静かに口を開いたのは、情報操作とメディア戦略を統括する「紡ぎ手」だった。

彼のホログラムは、無数のニュース映像のコラージュで構成されていた。


『我々のナラティブは完璧です』

紡ぎ手が指を鳴らすと、世界各国の主要ニュース番組の映像が展開された。


『現在、CNN、BBC、NHKを含む全世界の主要メディアに、「大規模森林火災と、それに伴う有害な煙霧の発生」というカバーストーリーを流布しています。煙の色が黒いのは「特殊な植生のため」、住民の避難は「ガス中毒防止のため」と説明済みです』


『目撃者は?』


『ネット上の掲示板や、アマチュア無線での告発が数件ありましたが……』


冷笑した。


『即座にAIボットを数万体投入し、「あれは宇宙人の仕業だ」「政府の陰謀だ」といった「荒唐無稽なデマ」で埋め尽くしました。真実は、嘘の洪水の中に沈めれば、誰も見つけられなくなります』


『情報の飽和攻撃か。えげつないな』


『さらに、大衆の目を逸らすために、ハリウッドスターのスキャンダルと、英国王室のゴシップをリークしました。今、世界中の人々は、南米の火事よりも「人気女優の不倫」に夢中です』


映像の中では、ワイドショーがスターの離婚騒動を嬉々として報じている。

その裏で、数万人が肉塊に食われているとも知らずに。


『見事だ』

大導師が頷く。


『だが、日本支部はどうだ? 報告によると、東京でも「黒い雨」や「変異体」の目撃情報が出始めているそうだが』


『日本は……少々厄介です』


紡ぎ手の声が少し曇る。


『完全に口を塞ぐのは難しい。……ですが、手を打ちました』


『どんな手だ?』


『「異常気象キャンペーン」です。気象庁に圧力をかけ、今年の夏は「千年に一度の異常気象」であると発表させました。黒い雨は「大陸からの汚染物質を含んだ酸性雨」、変異した生物は「環境ホルモンによる奇形」として処理します』


紡ぎ手は続ける。


『人々は、「分かりやすい科学的な説明」を与えられると、それ以上深く考えなくなる生き物です。彼らは、目の前で魚が足を生やして歩いていても、「環境問題は怖いね」と言って通り過ぎるでしょう。……我々が提供する「正常」という麻薬に、彼らは依存しているのです』


『愚かな……』

将軍が吐き捨てる。


『その愚かさに、我々は守られているのだよ』

大導師が諭すように言った。


『よろしい。継続せよ。世界という水槽が血で真っ赤に染まるその瞬間まで、「きれいな水だ」と信じ込ませるのだ』


『急げ。嘘で塗り固めた壁が崩れる前に、物理法則の楔で現実を縫い止めるのだ』


大導師がそう告げ、会議を終了させようとした、その時だった。

将軍が、ホログラムの机を叩き割らんばかりの勢いで立ち上がった。


『待て! 私はまだ承認していないぞ!』


その怒号が円卓を揺らす。

鎧の巨人のホログラムが、赤黒い威圧的な光を放った。


『天の楔で動きを止める? 甘い、甘すぎる! 相手は物理法則を食い物にする怪物だぞ。もし固定された時間すらも捕食したらどうする? 楔ごと飲み込まれたら、我々は手詰まりだ!』


『では、どうしろと言うんだ』

大導師が疲れたように問う。


『確実な「消滅」だ。……「槍」の使用許可を求める』


その名が出た瞬間、円卓の空気が凍りついた。

教授が、目を見開き、眼鏡をずり落としかけた。


『正気か、将軍! あれは兵器ではない!』


『構わん』

将軍は冷酷に言い放った。


『知らない者のために説明しておこう。槍とは、衛星軌道上に配備された超高出力粒子加速器だ。標的の一点に向けて反物質を照射し、それを起点に空間そのものに「マイクロ・ブラックホール」を生成する』


空中にシミュレーション映像を展開した。

南米のジャングルに光の槍が突き刺さり、次の瞬間、球状の「虚無」が生まれ、森も、肉塊も、空気さえも、音もなく消滅させていく映像だ。


『空間ごと削り取って、次元の彼方へ廃棄する。これなら再生能力など関係ない。細胞の一つ残らず、この宇宙から「なかったこと」にできる!』


『却下だ! 絶対にあり得ん!』

教授が絶叫した。


『空間に穴を開けるリスクを分かっているのか!?惑星が消滅する可能性すらある!核兵器など問題にすらならないリスクだ!下手するとデミウルゴスよりも酷い!それに、あれは一度起動すれば、エネルギー充填に半年かかる。失敗は許されないんだぞ!』


『失敗などしない』

自信満々に断言した。


『精度は確実だ。患部だけを正確に抉り取る外科手術のようなものだ。……それとも何か? 科学局は、自分の作った玩具を使うのが怖いのか?』


『玩具ではない! あれは禁忌だ!』


『おやめなさい、二人とも』


静かな、しかし氷のような声が介入した。

諜報局長「静観者」だった。


『技術的なリスクもさることながら、政治的なリスクが大きすぎる。南米大陸にブラックホールを落とせば、もはや「火事」や「異常気象」というカバーストーリーでは隠しきれない。世界中の物理学者が異常重力を検知するだろう』


『世界が滅びれば、隠蔽も何もないだろう!』

将軍は食い下がる。


『いいか、奴は今も成長している。我々がこうして議論している間にも! 生半可な「固定」など捨てて、今すぐ根源から断ち切るべきだ!』


『……資源としての価値が……』

錬金術師が未練がましく呟くが、殺気ごもった視線に口をつぐんだ。


『……ふむ』

長い沈黙の後、大導師が重い口を開いた。


『確かに、あれならば理の外にいる怪物をも葬れるかもしれん』


『マスター!?』


『だが、即時使用は認めん。リスクが大きすぎる』


老人は、空中に浮かぶ二つの兵器――「天の楔」と「槍」のアイコンを並べた。


『折衷案だ。「天の楔」を第一の矢とする。これで奴を固定し、封じ込める。……だが、もし奴が楔を破壊し、封鎖エリアを突破しようとした場合』


『その時は、ためらうな。槍を撃て。南米大陸に風穴を開け、奴を虚無の彼方へ追放せよ』


『……条件付き承認、ですか』

不満げながらも承諾の意を示し、敬礼した。


『承知しました。照準合わせと臨海出力までのアイドリングを開始します。……いつでも「削除」できるように』


『教授、異存はないな?』


『狂気の沙汰ですが、従います。地球が歪んでも、私の責任ではありませんよ』

忌々しげに吐き捨てた。


『決定だ』

大導師が宣言する。


『我々は、右手で時間を止め、左手で空間を削り取る準備をした。……これほどの力を持ってしても、まだ背筋が寒くなるのは何故だろうな』


『クックック……。相変わらず、科学局と軍事部は「破壊」がお好きだな』


『何がおかしい』

ストラテゴスが錬金術師を睨みつける。


『滑稽だからさ。』


空中に新たなウィンドウを展開した。

映し出されたのは、南米の地下深くに建造された、巨大な格納庫の映像だった。

暗闇の中に、全長5,000メートルを超える「人型の巨体」が、拘束具に繋がれて眠っている。


『怪物を倒すには、同じ「怪物」をぶつけるしかない』


『……「デミウルゴス」か』

大導師が呟く。


『左様。だが、ここにいる賢人たちの中にも、あれの「正体」を正確に知る者は少ない』

映像を拡大した。


白銀の装甲に覆われているが、隙間から覗くのは有機的な筋肉と脈打つ血管だった。


『あれは1950年代、南極の氷床下から「発掘」された、超古代文明の遺物――いや、「かつて地球を支配していた神の死体」だ』


賢人たちが息を呑む。


財団の最重要機密の一つ。過去に獲得した最大のオブジェクト。

極秘裏に南米へ移送し、数十年かけて機械化手術を施し、制御可能な「人工神」へと作り変えていたのだ。


『奴の体内には、マルスと同じく「物理法則を書き換える器官」が備わっている。だからこそ、奴はマルスに触れ、殴り、殺すことができる。「理」が同じだからだ』


『だが、制御は?』

静観者が懸念を示す。


『死体とはいえ、元は神だ。もし目覚めて、我々に牙を剥いたら?』


『そのために、脳を摘出し量子コンピュータに置き換えている。……それに、動力源にはアレを使っている』


指差した先。

デミウルゴスの胸部には、赤黒く輝くコアが埋め込まれていた。


『「1908年の隕石ツングースカ・オブジェクト」。あの中には、無限のエネルギーを産む「心臓」が入っていた。それを移植したのだ』


過去に獲得した「神の肉体」と「異界の心臓」。

二つの超常遺物を組み合わせ、人類の科学で縫い合わせた、フランケンシュタインの怪物。


それが「デミウルゴス」の正体だった。


『……狂っている』

教授が呻いた。


『毒には毒を、神には神を。それが財団の流儀だろう?』

錬金術師は、大導師に向き直った。


『提案します。もし「楔」も「槍」も通じなかった場合……デミウルゴスの拘束を解き、マルスへぶつけてください。これは「神話」です』


『……よかろう』

老人が決断を下した。


『「デミウルゴス」の覚醒シークエンスを承認する。ただし、起動は私が直接行う。……過去の亡霊にすがる日が来るとはな』


『感謝します、マスター』

深く一礼する。


『会議は解散だ。……各員、自分の地獄へ戻れ』


通信が切れる。

静寂が戻った円卓の間。


だが、その闇の奥で、何者かの嘲笑う声が聞こえた気がした。

――これは、僕が僕でなくなるまでの、最後の数ヶ月の物語。

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