第3話-2
「じゃあ、残りの委員会決めは二人の進行でよろしく」
そう言って俺にプリントを渡して離れていく先生。
自分の仕事は終わったとばかりに、丸椅子に座り頭の後ろで手を組んでいる。
昨年の1年間で俺たちへの信頼があるのは感じるが、丸投げしていいのだろうか。
少し物申したくもなるが、今は任された仕事をこなすのが先。
渡されたプリントには委員会の一覧と仕事内容が要約されている。
目を通した感じ昨年と変わらない。これなら説明も短くて済む。
「長峰さん達筆だから書記をお願いできる?」
「うん、わかった」
立ち上がった長峰さんに小声で話しかける。
「委員会と定員数だけで大丈夫」
「縦書き?」
「だね」
プリントを彼女に渡し教卓の前に立つ。
先程まで背中で感じていた視線と相対する。ここまで視線を向けてくれると進行としてはありがたい限り。
一瞬右端に視線をやると健から頑張れと口パクのエールを貰う。
こちらも任せろと口パクで返す。
その二つ後ろの席でニヤついてる穂波は無視だ。絶対面白がってやがる。
「これからみなさんの委員会を決めていきます。進行は先程このクラス2年3組のクラス委員に就任した西濱啓太が、書記は長峰栞が務めます」
改めてクラス委員になったことを伝え、名前を名乗る。間違いなく先程の自己紹介よりも記憶に残るだろう。これでクラスの大半が名前と顔を覚えてくれるはず。
長峰さんが黒板に記入している間に、俺は委員会名と仕事内容の一部を説明する。
プリントは彼女に渡したから記憶を頼りにではあるが、頭に入っているから問題ない。
「文化祭の実行委員は開催前後の期間のみ活動になります。ただ、その期間は放課後毎日居残りになると思ってください。部活動に所属、もしくはバイトなどをしている場合はその辺も考慮するようお願いします」
全ての説明が済むと長峰さんも書き終えたよう。
あとは挙手をとっていけばいい。人数が溢れたらじゃんけんで決める。というわけでここからはサクサク進む。
「申し訳ないけど決まった人は自分で黒板に名前書いてください。まだクラス替えして3日で全員の顔と名前把握できていないので」
ただ名前を書いてより、理由をつければ大半の人は納得して行ってくれる。
忘れていたが殺気もいつの間にか消え去った。ここまでスムーズに進行したのが良かったのかもしれない。
「よし、全員決まったな。少し早いけど今日は解散」
今日は帰りのホームルームも行わず、先生の合図で解散となった。
「二人はまだ残ってな」
そう言って白紙を1枚出してくる。どうやらまだ帰れそうにない。
「もしかして板書を移すんですか?」
「理解が早くて助かるな」
「今どきこういうのってパソコンかと思ってました」
「この後パソコンに打ち込む。その前の下書きが必要なわけ」
「先生メモしててくださいよ」
「お前らに任せてて忘れてた」
笑っている先生に対しこちらは笑えない。本来やらなくていい仕事が増えたのだから。
「俺一人で終わるから長峰さんは帰っていいよ」
「え、悪いよ」
「大丈夫、マジで書くだけだから」
「じゃあ、塾もあるからお先失礼するね」
「うん、じゃあね」
「また来週」
長峰さんを見送り作業を進める。
部活など用事がある生徒が多いからか、教室にはあっという間に先生と俺の二人だけになった。
「前から思ってたけどお前ら付き合ってんのか?」
「いきなり聞いてきますね。というかお前らって俺と誰ですか?」
「長峰」
「はい?」
急に何を言い出すんだと、森先生って生徒に恋愛話とかするんだの二つのインパクトが同時にくる。
「よく話しますけど友達ですよ」
「長峰があんなに男子と話すの西濱以外に見たことないからな。てっきりそうかと」
「噂じゃ他校にイケメンの彼氏がいるとか」
「なるほど他校か」
あくまで噂。男子を近づかせないための嘘とも聞いたことがある。真意は定かでない。
先生には噂ですからと口止めし書き終わった紙を渡す。
「ありがとな西濱」
「いえ、それじゃ俺も帰ります」
他の生徒に遅れること数分で教室を出る。
他のクラスも早く終わったらしく静かな校舎内を一人歩く。
昇降口を出て左を向くと、遠目のグラウンドにサッカー部の姿が。
あの集団のどこかに健もいるはず。流石に遠すぎて見つけることは難しそう。
「先輩おはようございます」
「おはよう」
歩き出すと元気な声が右側のテニスコートから聞こえてくる。
視線を向けるとジャージ姿の女子生徒たちが声出しをしていた。その顔つきはどこか幼く、おそらくは新入部員だと思われる。
今年もたくさんの部員が入ったようで嬉しい限り。
そんな新入部員を部長が見て、残りの部員は4面あるコートのうち3面を使って準備運動をしている。その全員が女子。
今は空けているが、きっと数分経ったら気にせず女子が全面使うと思う。
俺が退部してから半年ほど。相変わらず男子部員のモチベは低いままらしい。
「1年生はランニングの後コートに入ってね・・・声小さいよ」
「はい」
十数人いる1年より部長一人の声がよく通る。
「相変わらずだな先輩」
もう少し見ていたいが、長居していると見つかるかもしれない。
先輩の声を背に、少し懐かしい気持ちになりながら帰路に着いた。