第3話
テストから1日が経ち、今日から2年生の授業が始まった。
1年生の復習から入る先生や、昨日のテストを返却し解説する先生。すぐに2年の範囲を始めるなど進め方は様々。
「西濱啓太です。スポーツ見るのもするのも好きです。割と全般好きなんで色々と話せると思います、よろしくお願いします」
午前中の授業が終わり、今は自己紹介の時間。
今年も無難な感じで終わらせた。
昨年ちょっと笑いとりにいって死ぬほど滑った人を何人か見たからね。
けれど、普通に自己紹介したところで果たして覚えてもらっているかは別問題。
クラス40人が順番に行うのだ。せいぜい覚えれて数人だろう。
それも趣味が被ったり引っ掛かりがあればの話。無ければ全員の自己紹介が右から左な気もする。
果たして自己紹介の時間は必要なのだろうか。そんなことを考えていたら全員の自己紹介が終了。結果として誰一人新しい情報が増えなかった。
「それじゃ、 次は委員会決めるぞ」
自己紹介を終え、続いては委員会決め。
最初にクラス委員を男女一人ずつ決めて、その二人が指揮の下残りの委員会を決めていくらしい。
「クラス委員に立候補する人いたら手上げてな」
先生が立候補を募る。
手を上げる人がいてすぐに決まるパターンと、誰も挙手せず困るパターン。
ここはクラスによって分かれるが、残念ながらうちは後者のようだ。
こうなった場合じゃんけん、成績優秀者に頼む。色々と決め方はあるだろうが森先生はどうするか。昨年も似たような感じだったが記憶にない。
「いないか。うーん・・・ちなみに昨年クラス委員やってた人いるか?」
先生からの問いかけに目の前の長峰さんが手を上げる。
「長峰と・・・あとはいないか。今年もやってくれたりしない?」
長峰さんの方を見ながら先生が聞く。
表情は見れないけど多分困った顔をしていると思う。この流れで断るのも難しいだろうし。
「えっと、私でよければまた頑張ります」
控えめに手を上げ引き受けた長峰さん。
正式に決まり周りから拍手が起こる。よろしくのエールなのか、自分じゃなくて安堵した喜びの拍手なのかは分からない。
「あとは男子だな」
「先生」
「どうした月野」
「男子は長峰に決めてもらえばいいんじゃないですか?」
「わ、私?」
「半分強制でクラス委員にさせられてるし、一緒に仕事するんですから長峰がやりやすい相手が良くないですか?」
「なるほど、確かにそうだな」
月野の意見に納得する先生。
確かにその意見は最もだと思う。
「ちなみに長峰、誰か候補の男子いるか?」
「えっと・・・」
先生が長峰さんに尋ねると男子の背筋が一斉に伸びた。すごくわかりやすい。
視界ではクラスの半分しか見れないが、おそらく残りの半分も同じだろう。
長峰さんとならクラス委員をやりたい。お近づきになれるチャンス。そう考える男子は多い。
そう、長峰さんはめちゃくちゃモテる。学年1、2を争うほどに。
昨年同じクラスだったから彼女の人気ぶりは知っている。
入学1ヶ月で既に告白人数は両手で数え切れず。先輩たちからも声をかけられていた。
誰の告白も受けないことから高嶺の花として男子から崇められているらしい。そのことは俺も最近知った。
そんな彼女と親しくなれるチャンスが目の前にやってきている。俺を選んでくれと内心で祈っているのだろう。
ただ、長峰さんには一つ問題が…。
「誰もいないか?」
「その、私が選んで困らせそうな気がしてて」
そんなことあるわけないと数人の男子が声を上げる。それに同意するように他の男子も頷く。
男子は困らないだろうね。けど、本人は困る。
だって長峰さんは男子が苦手だから。これは昨年本人から直接聞いた。昔から男子と関わることが少なくて話せないと。
いや、俺は男子にカウントされてないんかいと心の中でツッコんだからね。
「長峰に頼られたら男子は嬉しいんじゃないか?」
本心だか適当だか先生が言う。それに男子たちが首痛めるんじゃないかくらい頷く。
「それじゃ、西濱くんで」
(そういや、今年はどの委員会に入ろうかな。人の心配すしてないで考えないと。・・・西濱くん・・・西濱くん・・・え、今俺のこと呼んだ?)
ぼーっと黒板を眺めていた視線を目の前の彼女に向ける。長峰さんは恥ずかしそうに半身でこちらを見ていた。
他にも周りからいくつか視線が向けられているのが分かる。
「だそうだ西濱、どうだ?」
どうだと言われても困るのだが。
「えっと・・・長峰さん、俺ってこと?」
幻聴かと思って改めて聞いてみる。
「うん、ダメかな?」
幻聴じゃなかったらしい。それとさっきより視線が増えた。というか背中に殺気を感じる。
西濱が誰か分からなかったのが、今俺だということを理解したから視線が増えたんだ。うん、冷静に分析。
そして、俺に与えられた選択肢は一つしかない。
「いいよ、先生俺やります。少しでも長峰さんの足引っ張らないように頑張りますね」
「おう、頼んだぞ」
殺気は正直どうでもいいが、長峰さんを困らすわけにはいかないからな。