第2話
翌日。昨日より気持ち早めに家を出るも、穂波の姿は既にあった。相変わらず来るのが早い。
「おはよう」
「おはよう啓太」
今日の穂波は前髪をセンター分けしている。放課後部活があるらしい。
穂波は部活がある日は前髪を分け、休みの日は下ろす。昨年そんな風に生活していたから勝手に覚えた。そのためバレー部の活動日は毎朝穂波の髪型を見れば分かる。
「穂波勉強した?」
「軽く復習したよ」
そういえば、穂波とこんな風に一緒に登校するのは高校に入学してから復活した。
中学ではお互い部活の朝練で時間が合わず登下校は別々。クラスも違い話す機会も少なかった。
それが高校に入り復活。バレー部の朝練が休みの日は一緒に登校するようになった。
朝が弱い俺にとって幼馴染である穂波の存在は大きい。
ほぼ毎朝一緒に登校するため待ち合わせ時間に間に合わせる必要がある。そのおかげで遅刻せずに済んでいると思う。穂波には毎朝家の前で待たせて文句言われてるけど。
「それ春休みの課題を適当に眺めただけだろ」
「バレたか」
今日は1年生の範囲を総復習するテストの日。春休み前に言われていたし対策用に課題も出された。
成績には含まれないテスト。そのためモチベ維持が大変ではあったが、今後に繋がると考え机に向かった。
勉強が好きじゃない穂波は今回もノー勉だろう。昨年もテスト前日に詰め込んで撃沈する姿を何度も見た。
教室に着くと昨日より静かな印象を受ける。
固まってグループを形成しているのは数組で、残りは一人でいるか教室に姿がない。
まだ新クラスも2日目で旧友との交流がメインだろう。
俺の席で談笑している女子生徒もそんな感じだろうか。
他人なら対応に困るが、知人なので特に気にせず近づく。
今日も黒髪のショートカットを左側だけ耳にかけている。長峰さんと会話を弾ませていたが、俺の存在に気づくと手を振ってきた。
「おはよう西濱」
「おはよう月野」
月野さなえ。昨年俺や長峰さんと同じクラスだった女子。穂波と同じバレー部でとても明るい性格をしている。
「おはよう西濱くん」
「おはよう」
「ごめん席借りてた。退くね」
「いいよ座ってて」
「ありがと、カバンは置いていいよ」
机を叩く月野。お言葉に甘えスクールバッグを乗せる。
「今日来るの早くない?」
俺に話しかける月野。
二人の邪魔をしないよう移動するつもりだったが、会話に加わることに。
「今日はテストあるから早めに起きた」
「めっちゃ気合い入ってるじゃん」
「違うよ、寝坊して受けれないのが嫌なだけ」
「さなも見習いな」
さな。穂波たち親しい友人からはそう呼ばれている。
(そういや穂波は・・・)
月野と仲良い穂波なら会話に混ざってくると思っていたが、いつの間にか自分の机に突っ伏して寝ている。
昨日夜更かしでもしていたのか。それにしては登校中眠そうには見えなかったけど。
「今日だけ透視能力欲しい。そしたら人の解答見れるし」
「その人が間違えてるかもよ?」
「大丈夫、栞か西濱の見るから」
「なんか能力使ったら代償ありそう」
自身の学力向上ではなくカンニング力を求める月野。
不正とは言わず誤答する可能性を教える長峰さん。
能力を使った代わりに代償を受けると考える俺。
一見意味があるか分からない会話。けれど、こういう会話をできるのが友人だなと個人的に思う。
「え、どうしよハゲたら」
「寿命が少し縮むとか?」
「睡魔に襲われて寝るとか」
「それじゃテスト中寝ちゃって元も子もないやないかーい」
月野がわざとらしい関西弁で俺にツッコむ。
そんな会話をしていると先生が教室に入ってきた。
「月野テスト中寝るなよ」
「寝ませんよ」
最後のツッコミだけ先生に聞こえていたらしい。
月野は先生に注意され不満を口にしながら自席へ戻って行った。
月野が席へ戻り俺もようやく着席する。
「おはよう。知ってると思うが今日は一日テストだ。HRが終わり次第すぐに始めるぞ」
テストは主要5教科。午前中3教科、お昼を挟んで午後に残り2教科を受ける。
成績に反映されないとはいえ当然カンニングは禁止。机の上に筆記用具だけ出し残りはしまう。
最初は英語。説明を終えた先生が問題用紙と解答用紙を配る。前から回ってきた二つを自分の分だけ取り後ろへ回す。
「はい、始め」
チャイムが鳴り先生がスタートの合図を出す。
みな一斉に問題用紙を開きテストに向かう。
そんな中俺は問題用紙を次々とめくり大問の数を確認する。加えて白紙の解答用紙を見て最後に英作文があることに気づく。
今回はリスニングの代わりに英作文があるらしい。
『自分の思う長所についてアピールしてください(最低5行以上。内容や表現の仕方で加点します)』
(長所か・・・難しいな)
自己PRはこの先のことを考えても大事なもの。そう思ってはいるが、まだ自分の強みを分かっていない。
(問題解きながら考えるか)
名前を記入し大問1から解いていく。
問題は記述式が多く選択問題はほぼ無い。それでも穴埋めや並び替えなどある程度勉強していれば解ける問題ばかり。難易度はさほど高くない。
試験時間の半分を残し英作文以外を終わらす。
(それじゃ書きますか)
人見知りしない。人とのコミュニケーションが得意。好奇心旺盛。
問題を解きながら浮かんだ長所を箇条書きしていく。
あとは英語で書いていくだけ。分からない英語は似た意味で表現すればいい。
(テニスの公式戦は結構勝率高かったからな。本番に強いも長所にしちゃお)
そんなわけで時間ギリギリまで使い自己PRを書き終える。
時間はかかったが、それなりには書けたと思う。
あとは採点結果を待つだけだ。
「はい、終了ね。後ろの人回収して」
終了の合図で一斉に教室が騒がしくなる。
回収役の生徒に解答用紙を託す。
先生がチェックを終え動き出すと、今度は一斉に椅子を引きずる音が聞こえる。
周りがテストの難易度や内容で愚痴る中、俺は離席し廊下へ向かう。
特に用はない。単にこの先も長時間座るため立つことにしただけ。
窓の外を覗くと中庭を歩く男子生徒を数人見かける。チャイムが鳴ってまだ1分ほど。随分と移動が速い。
彼らは自販機に用があったらしく全員がペットボトルを持っている。
そんな彼らを見て、ふと自分も水分を所持していないことを思い出す。
今のうちに買っておこうと財布を取りに教室に戻る。
「また座ってます」
「どうぞ」
再び俺の席に座っている月野。
先程より少しおチャラけながら言う彼女にこちらも笑顔で返す。
そのまま中腰になり机にかけたスクールバッグに手を突っ込む。
これ以上しゃがむと目のやり場に困りそうだから。
「顔少し浮腫んだ気がする」
「そんなことないと思うけど」
「栞は美顔器使ってる?」
「うん、たまに」
「やっぱ買おうかな」
財布を取り出し顔を上げる。
今回の話題に俺は疎い。途中から聞くのをやめ教室を出る。
小走りで1階まで下り昇降口に隣接する自販機へ向かう。
新学期も特にラインナップが変わることはなく、相変わらずジュース類が半分を占めている。
正直どれも好きなのだが無難にお茶を選ぶ。食事中のことも考えるとやはりお茶に限る。