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第2話-4

 西濱が菅原との休日を楽しんでいた頃、学校では穂波たちバレー部が練習を終えたところだった。


「あれ、穂波また大きくなった?」

「え、そうですかね?」


 先輩が穂波に顔を近づけ手で計る。垂直に動かした手が穂波の頭に触れることはなかったが微かに毛先が触れた。


「前までもう少し差があると思ったけど。バレーの実力も身長もほぼ変わらなくなっちゃったな」

「全然ですよ、まだまだ先輩には届きません」


 更衣室のロッカーに手をつき大袈裟に項垂れる先輩。


 その表情はずっと目をかけていた穂波の成長に嬉しさを感じている様子。


「先輩が縮んだんじゃないですか?」

「おい」


 ニヤつきながら弄る月野に素早く反応する。いじられキャラの先輩ではよく見る光景。


「月野にはまだ余裕で勝ててるな」

「こっちはコールド負けしてますけどね」


 そう言って月野が視線を少し下に落とす。それに倣って先輩も自分の胸を見る。


「おい、誰が断崖絶壁だ」


 先輩のツッコミに月野が爆笑する。


 誰も断崖絶壁とは言っていないが自覚があるようだ。


「大体コールド負けはしてないだろ」

「そっか、コールド負けはあっちにか」


 そう言う視線の先には別の先輩たちが。ユニフォームを脱いで現れたそれは、はち切れそうなほど主張している。


「モンブランとアンナプルナか。大きいからなんだと言うのだ。あんなのスパイク打つ時大変だ」


 その大きさから山の名前をつけ呼ぶ先輩。アタッカーとして不要だと主張しているが、言葉の端々から嫉妬心が伺える。今も着替え中揺れているそれに視線が釘付けである。


 このやり取りもそうだが、女子だけの空間では男子の前では決して話題にしない内容を話す。


 言葉遣いが変わり下ネタが当たり前に飛び交う。


 日頃は清楚な月野も、先輩たちの柔らかいものを揉んで楽しんでいる。先輩たちも月野のを触ったりとおふざけモード。決して男子には見せない姿だろう。


 かくいう穂波も下着姿で更衣室を歩き回る姿は男子に見せられない。特に片思いしている大島には。


 着替え終えると先輩たちと並んで外へ出る。


 正午を過ぎ真上に移動した太陽の光は、朝よりも数段眩しい。


 穂波は右手で日光を遮りながら歩く。でないと目が開けていられない。


「あっ」


 短い言葉を発した先輩が小走りでバレー部の集団から抜ける。走る度モンブランと称されたものが激しく動く。


 先輩の視線の先には背が高く髪の短い男子生徒がいた。


「部活お疲れ様」

「そっちもね」

「ちっ、モンブランめ」


 野球部の彼氏とイチャつく姿を見て舌打ちする先輩。


 嫉妬心などは無いが、人前での先輩の行動に苦笑いを浮かべる穂波。


 熱々カップルの熱気がこちらにも伝わってくる。


「先輩も弁天山くらいになれば彼氏できますよ」

「彼氏とかいらないから」


 月野に弄られ先輩がそっぽを向く。


 バレーボールに一筋の先輩は色恋に興味が無いのかもしれない。


「穂波、私たちは中身で勝とうな」

「え、はい」


 肩をポンと叩かれ反射的に返事をする穂波。


 先輩も態度には示さないが彼氏は欲しいらしい。


 そんなことより今の先輩の言葉を脳内で巻き戻す。


 もしかしなくても先輩と同類にされたのだろうか。


 自然と自分のものに視線をやる。


 お世辞にもモンブランとは言えないが、平均はあると思っていただけに軽くショックを受ける穂波。


 先輩と同じは嬉しいけど嬉しくない。


「残念ですけど先輩、穂波にはお似合いの幼馴染がいますから」

「なに?」


 そんな情報は初めて知ったとばかりに穂波に視線を向ける。


「いや、啓太はただの幼馴染だから」

「啓太?」


 月野の発言を訂正しようとするも、名前で呼んだことで状況を悪化させる穂波。


「名前で呼び捨て・・・黒だな」

「違いますよ」

「よく一緒に登校してるよね」

「アウト、アウトだ」

「さな」

「へへ」


 大島のことが好き。それを告げれば誤解は溶けるものの、友人の前で爆弾発言は避ける。


「幼馴染か・・・ちなみにどんな男だ」

「朝弱くて少し適当なとこがあって。頭はそこそこ良くて私より背が小さいのを気にしてて」

「いや、そこそこじゃないでしょ。めっちゃ頭いいじゃん」


 穂波の発言を一部否定する月野。


「ここ最近のテスト全部学年1位だよ?」

「え、そうなの?」


 突然の衝撃発言に思わず驚く。


「逆に知らなかったの?」

「うん」

「なぁ、その幼馴染の名字ってなんだ?」

「西濱ですけど」

「西濱・・・西濱・・・あーなるほど。・・・まぁ、いいか」


 斜め下を見ながら独り言を呟く先輩。何か一人の世界に入ったように固まって動かない。


「なんですか先輩、将来有望株だから後輩から寝取ろうとしてます?」

「何バカなこと言ってるんだ」


 今日一くだらないといった感じで月野に視線を向ける先輩。それに対し少しだけ微笑む月野。


 一方で穂波は二人の会話の意味が理解できておらず、一人だけポカンとしていた。


「最後にもう一回だけ確認させてくれ、その西濱って男子に恋愛感情はないんだな?」

「はい」


 先輩の真面目な雰囲気から誤解がないようにハッキリと答える穂波。


 その表情で納得したのか元の笑顔に戻る先輩。


「よし、帰るよ」


 ここで話は終わりとばかりに歩き出す先輩。そんな先輩に合わすよう隣を歩く穂波。


 少し気になる発言もあったが、一度終わらせた会話に戻るのはやめる。


「おい、月野帰らないのか?」


 未だその場から動こうとしない月野に声をかける先輩。


 何か思い悩む表情をしていたが、先輩に呼ばれると笑顔に戻った。


「今行きます」


 お互い先程の会話でのリアクションに気になる点はあるものの、誰も深く追求することはなかった。

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