第4話-2
「ぷっ」
先輩たちとのやり取りから数時間。クラス委員の集まりで来た教室に森岡先輩の叫び声が聞こえ思わず吹き出す。
これは校内で恐れられているのも納得。
横に座る長峰さんも驚いて窓の外を見ている。
「みなさん揃ったようなので始めますね。私3年2組クラス委員長の大橋です。今日は各イベントの担当を決めます」
直近である球技大会をはじめ、文化祭にあいさつ運動などのイベント。これらの運営や裏方をクラス委員が生徒会と一緒に行うそう。
こんなに仕事が多いだなんて聞いてなかったけどね。あと俺がクラス委員長になった。じゃんけんで負けて。
仕事はクラスごとに配置されるため、俺と長峰さんは同じイベントの仕事になる。
「どれにする?」
「文化祭は自分が楽しみたいからパスしたいな」
「わかる、あいさつ運動も」
「やっぱ外すと思った」
笑いながら言う長峰さん。俺が朝弱いのを知っている彼女ははなから選択肢に入れてなかったみたい。
「球技大会はどう?」
「いいんじゃないかな、西濱くんは?」
「俺もいいと思う」
ある程度希望のイベントに配置してもらえるため、俺たちは球技大会の裏方をすることに。
計6クラスで担当するらしく、他5クラスは他学年。
顔見知りもいないため互いに挨拶を交わしておく。
先輩も後輩もいるが男子はみな俺の横に視線が向けられている。
果たしてその視線に気づいていないのか、それとも気づかないフリをしているのか。長峰さんは表情変えずに会話している。
「あの、1年3組の栗原まりかです、よろしくお願いします」
「2年3組の長峰です、よろしくね」
「同じクラスの西濱啓太です、こちらこそよろしくね」
後輩から声をかけられ他の人と同じように挨拶を交わす。
すぐに視線を外されると思ったが、栗原さんは俺から視線を外すことなく見つめてくる。
隣に視線が集まることはよくあるが、自分に向けられることは少ないので少し戸惑う。
「えっと、俺の顔になにか付いてる?」
「いえ、もしかしたら昨年の文化祭で見た人かなと思って」
「うちの文化祭来てくれてたんだ」
隣の長峰さんが嬉しそうに反応する。
「はい、友達と三人で」
「それなら会ってるかもな」
昨年は屋台で接客を担当していた。もしかしたらその時対応したのかも。
そんな目立つタイプではないから、覚えてもらえてるのは素直に嬉しい。
「ねぇ、良かったら一緒に帰らない?」
集会が終了し続々と教室から出ていく。
隣の長峰さんから誘われ、特に断る理由もないので頷き一緒に帰ることに。
「ナイスショット」
昇降口を出るとすぐに森岡先輩の声が響いてくる。
視線だけ向けると先輩が審判台に乗りコート全体を眺めている。
まるで部長兼監督みたいだ。
「よく声出てるよね」
長峰さんもコートの方を見ながら関心している。
「大会近いからね」
「そういえば、西濱くんって元テニス部だったね」
「うん、半年だけね」
「えっと・・・怪我だっけ?」
「そんな重い話じゃないから、もう治ってるし」
聞きづらそうに様子を伺う長峰さん。大した怪我じゃないからと、左肘を曲げ伸ばしして問題ないことをアピールする。
「そっか。けど、見てみたかったな西濱くんがテニスしてるとこ」
「そう?」
特に秀でた選手ではなかったから、見ても感動とかはしないと思うけど。
こんな感じと1回だけ軽くエアーで素振りをする。
「今打ったの見えた?」
「もう1回やって」
同じようにもう一度振る。
「どう?」
「どっか飛んでった」
「ダメじゃん」
お互い同じタイミングで笑い合う。
一瞬だけ左肘に視線を送る。どうやら違和感はないみたい。
エアーとはいえ少し不安だったので痛みがなくて安心する。
(ラケット触りたいな)
久しぶりに握りたくなった。帰ったらクローゼットの奥にしまったラケットバッグを出そうと思う。