第五話 相楽さんが消えた
昨夜アラームかけたのに、起きたのが11時……。
それなのに一階はしんとしていて、人のいる気配がない。
「……相楽さん?」
仕事着に着替えてから店に行くが、相楽さんの姿がない。
今日は、営業日のはずだけど。
「……相楽さんの部屋に行けば、何か理由が分かるかな」
一度も入ったことない、相楽さんの部屋。
昨日は蟹守さんに部屋めちゃめちゃにされてたけど、あれから自分で片付けたのか整理されている……。
「……植物の本もあるし、海の本もある」
本が極めて多いが、中には官能小説? みたいなものもあった。
タイトル見ただけでなんかやばそうな本だって分かったし、海の本のみを読もう。
「海にまつわる逸話……みたいなのも、あるんだ。……あれ?」
「海の歴史」42頁に栞が挟んである。
内容は「人魚伝説」という小さな記事。
私はこれを読んで、相楽さんが信じられなくなった。
いつも私が先に入るよう促してたのは、これのせい?
手にしたものをどこかに売って、黒字にしてたって……こと?
「……魔女の言う通りだ」
海に戻ろう。
突然いなくなったって、誰も困りはしない。
もう、誰も信じられない……。
*
「……で、海に戻ってきちゃったわけ?」
「寿命は、あと何年残ってますか……」
「海の中に入れば、年を取ることがないけど……。私の中じゃ、よくある話だよ。人魚だってバレて町民に利用されたり、捌かれたり」
「さ……、さばく?」
「……捌かれる前に戻ってこれて、よかったね。人間たちはお怒りだけど、こちとら知ったこっちゃないよ。自分たちの命の方が、大事だもん」
魔女(※に扮した人魚)の言う通り、戻ってこれて、良かったかもしれない。
相楽さんが私をどうするつもりだったのかはまだ分からないが、急に居なくなるから心配だし、近くにいるなら話くらい聞いてあげてもよかったな……。
「あと、どうでもいい話ではあるんだけど」
魔女はため息混じりに言う。
「"人間"が私らの領域に入った。15年前に沈没した船の中に入って、何してたんだろうね。あそこはもう、海の倉庫なのに」