第四話 気まずい昼食
相楽さんが作った昼食(焼きそば)を、無言で食べる……。
に、逃げたい……。
「と、トイレ行ってきても、いいですか……」
「いいよ」
トイレに入っても、用を足すことがない……。
あの二人は、どういった関係なんだろう……。
ますます、分からなくなるよ……。
「……手拭きがない! さては、相楽さんの仕業だな!?」
手拭きがないと、私の次に用を足した人が大変だ……。
二人のいざこざは放っておいて、トイレのセッティングをしよう。
「……そう、カッカッしないでさ。糖分あげるから落ち着いて」
「また子供扱いして! だから、きらいなのよ!」
まだ、続いてる……。
これはどうにかして、仲裁しないと。
「名前……、なんていうの」
「先に、あんたが名乗りなさいよ」
「私は栗原のんって、いうんだけど……」
「そう。だから?」
「ほんとは相楽さんと、映画館行きたいんでしょう? 相楽さんだって、あなたを苦しめたくて、すっぽかしたわけじゃないと思うんだよ……」
少女が「いらない」と言ったスイーツを、相楽さんはのんきに食べている。
「……まあ、相楽がのんきなのはいつものことだけど……」
「まだまだあるよ」
相楽さんからスイーツを貰うと、少女はふてくされた顔で食べた。
「……あんたって、運転できる?」
「できません」
「でしょうね。見るからに、どんくさそうだもの」
なんて言いながら、少女はスマホでバスの時間を調べている。
「行くわよ」
「え」
「え、じゃないわよ。約束はきっちり守ってもらうから」
蟹守さんが勧めてくれた「映画」は、恋愛映画だった。
私はラストのところでドッと涙があふれたが、相楽さんは爆睡してた。
蟹守さんも手にハンカチを握って、いつ涙が出てもいいように、構えていた。
*
「最高に泣ける映画だったね」
「でしょ〜? 色々、リサーチしたんだから」
さっきから蟹守さんとばかり話しているが、相楽さんは平気なのだろうか。
「夏だから、アイス食べたいね。何食べようか」
「季節的にメロンかしら……。フードコートのじゃなくて、こじんまりした店で食べるアイスは最高なのよ……。相楽も行くでしょ」
「帰る」
「「え」」
特に驚いていたのは、蟹守さんだ。
「帰るって……、一人で平気なの? 移動中に倒れたりとか」
「ヒッチハイクするから、平気」
「余計、危ないでしょう!?」
相楽さんが帰りたがっていたので、アイスは後日、家に帰ることになった。
店の中で花の世話をしていると、蟹守さんが手伝ってくれた。
剪定はお手のもので、私より切り方にセンスがある。
枝数が少なくなっても、花自体に輝きがある。
「……上手、だね」
「そりゃあ、実家が花屋だもの」
「そうなんですか?」
「あと、相楽がたまたま花屋に就いたのはいいけど、"友達"として心配でさ……。時々、様子見にくるの」
優しい人、だな……。
「あんたがどんくさいから、余計仕事増えたけどね。映画館でチケット買う際、テンパってたし」
「あ、あれは、普段映画館に行かないから、買い方分からなくて……」
「いいのよ」
蟹守さんは、笑う。
「覚えれば済む話だから。あたしの見習いになりなさい」
「……師匠が二人に」
「あたしもほんとはここに住みたいけど、親がうるさくてね。親が認めてくれないのってほんと辛いし、ずっと友達のままなのかな……なんて、思っちゃったりするわけ。あ、これは相楽じゃなくて、別の人の話だから」
相楽さんのことは人として好きだけど、蟹守さん以上の気持ちには、まだなってない。
性欲がないとかそんなんじゃなくて、自分にとって大切な人なのか……。
勢いで付き合うのってなんか違うし、ちゃんと見極めてから始めたいなって、考えたりした。