第一話 人間の「脚」を手に入れる
夢……、大きな夢を見ていた。
人間の「脚」を手に入れて、普通と変わりない暮らしをする夢……。
その暮らしを手に入れるには、私の「寿命」が必要だと、魔女は言ってたなあ……。
「…………ほんとうに、いいの? 海の世界に、未練はない?」
「全然!」
そう言ってのけた、「あの頃」の自分を呪ってやりたい。
*
「栗原さん、ちょっと」
相楽さんという私と年が変わらない店長に、声をかけられる。
「…………お釣りの計算、また合ってない。お客さんに多めに渡してるよ」
「……すみません」
「またそれ。謝れば済むと思ってるでしょ」
「…………わざとじゃないんです」
人間生活五年目。
私は相楽さんの計らいで、小さなお花屋さんに、住み込みで働いている。
仕事は全然できないし、相楽さんに怒られてばかりだけど、相楽さんはそんな私を見限ったりせず、店から追い出したりしない。
明るい茶髪を左肩で緩く団子にして、毛先を遊ばせた髪型だが、相楽さんだからこそよく似合っていた。
化粧は薄付きで、服装はTシャツジーパンの上に、エプロンが多かった。
「私の真似なんかしなくていいよ」と相楽さんは言うけど、最低限身だしなみだけは良くしたい。
三つ編みは相楽さんが見せてくれた動画を元に編み込み(※環境が違うので)、服装は相楽さんの車に乗って行ったデパートで、買った。
上が水色のトップスで、下がピンクのフレアスカート。
首元のスカーフは、同じ店で買ったもの。
これ以外にも、寝間着、ハンカチ、タオル、家着等、生活に役立つものを買ってくれた。
家に帰ると相楽さんは、「栗原さんて、何歳」と訊いてきたので、「21歳」と適当に答えた。
「21歳なら、お酒飲めるね」
「お酒……、とは」
「安いものしかないけど、まあ飲んで」
相楽さんはチューハイ一缶で眠ったが、翌朝トイレで吐いていた。