5 アリエスの過去2
手を繋いで町を歩いていたアリエスとユージンは、誰が見ても仲良さげに見えていた。
そんな時複数の子供がアリエスたちの前に立ちふさがる。
「なんでお前…!誰だよそいつ!!」
三人の男の子はアリエスの前に現れるとユージンを指さして憤慨した。
「誰?こいつら」
「町の子供たちだよ。すっごくたまにだけど一緒に遊ぶ時があるんだ」
指を指されたことなど気にも留めずに疑問を口にしたユージンに、アリエスも答える。
ユージンは内心“貴族令嬢に対する態度じゃないだろ”と眉をひそめていたが、何も気にしていない様子のアリエスをみて子供たちを咎めることはしなかった。
どうせ子供だと、成長すればいやでも立場の差がわかるだろうと思ったのもある。
「無視してんじゃねーよ!!」
そう叫びながら地面に転がっていた小石を投げつける子供たちに、ユージンは前に立つアリエスを後ろ手に庇い、落ちていた木の枝を瞬時に拾い小石を叩き落とした。
そして木の枝を持ったまま、小石を投げつけた子供たちを睨みつけるユージンを、アリエスは後ろから頬を染めて見つめる。
「僕に勝てると思っているのか」
子供の筈なのに、帽子もかぶり顔も満足に見えない筈なのに、とても五歳とは思えない迫力に子供たちは顔を引きつらせ逃げ去っていく。
「覚えてやがれ」という捨て台詞を震えながらいうあたり、なんとも小物だなとユージンは思っていた。
「…あ、ごめん。あいつら君の友達だったんだよね」
ユージンはアリエスが町で遊ぶ際相手している人物だったことを思い出し、今後アリエスが気まずくなることを想定して謝った。
だがアリエスはううん、と首を振る。
「大丈夫だよ。本当にたまに遊ぶだけで、普段は女の子と遊んでるから気まずくなることなんてないよ」
にこりと微笑むアリエスにユージンはホッと安堵する。
アリエスはそんなユージンを見て「帽子、とってもいいかな?」と口にした。
ユージンは「え」と動揺する。
キラキラと輝くアリエスの眼差しと、悲しむように下げられた眉に、ユージンは動揺しながらも頬を染めて頷いた。
喜ぶアリエスにユージンは人差し指を突き出す。
「だけどここじゃ嫌だ。アリスの邸宅から町までの間にあった林道でなら、……いいよ」
許可をもらったアリエスは何故自分の家を知っているのかという疑問よりも、すぐにユージンの素顔を見たい欲の方が上回る。
もじもじと帽子に触れるユージンの手を握り、アリエスは駆け出した。
「わっ!アリス!?」
「早く行こう!!」
◇
「そんなにきれいなのに何で隠してるの!?」
林道に辿り着いたアリエスは、照れくさそうに帽子を押さえるユージンの手を振り払い、ユージンの素顔を隠していた帽子を取り上げた。
帽子の下から現れたのは綺麗に光る銀髪の髪の毛に、海のように深い青色の瞳。
そして子供特有の大きな瞳に、綺麗にパーツ配置された顔面だった。
(可愛い!可愛すぎる!)
そこら辺の女の子なんて勝負にならないくらいユージンは可愛いとアリエスは内心で叫ぶように思っていた。
だが男の子に対する言葉ではないことはアリエスもわかっている。
だから何故隠しているのかと開口一番に問いかけた。
そんなアリエスの気持ちを知らないユージンは、長い睫毛を伏せ、悲しそうに話す。
「…だって変だろ。子供なのに“白髪”って」
なんと何故かユージンは自身の銀髪を白髪だと思い込んでいたのだ。
「それに父上も母上も金髪なんだ」と呟くユージンに、アリエスはきっと後者の言葉がユージンにとって隠したい理由なのかなと察した。
「変じゃないしユンの髪は白髪じゃなくて銀髪だよ!すっごく綺麗!」
アリエスはユージンが被っていた帽子を握りしめてそう言った。
「私、遺伝とかよくわからないけど、それでも金と銀の色の相性がすごくいいってことは知ってるよ!
だから金髪の両親に相性がいい銀髪が生まれたって全然変じゃない!」
嘘なんてついていないと一目でわかる程アリエスの瞳は輝いていた。
だからこそユージンはアリエスの言葉をそのまま受け止めることが出来た。
ユージンは涙で歪む視界にアリエスを捉え、口角を上げて笑みを浮かべる。
「ありがとう。アリスにそう言ってもらえて、僕は本当にうれしいよ」