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4 アリエスの過去




アリエスは元々カリウスとは別の男性と婚約する予定だった。


アリエスが五歳の頃、母親同士が親友で、将来自分たちの子供に男の子と女の子が生まれることがあれば結婚させようと約束していたのだ。

その約束通り子供同士を引き合わせるためにアリエスは母親から「婚約者と会うのよ」と言われていた。


小さい頃から貴族の令嬢としていやいやながらも教育を受けていたアリエスは、政略結婚というものを理解していた。

その為アリエスは親が決めた婚約者に対してしょうがないなという気持ちを持っていたが、それでも幼少期の段階から婚約は早いだろうと考えていた。

まだまだ遊び盛りの子供として、令嬢としての教育や婚約者との付き合いよりも、子供らしく楽しく遊びたいという気持ちの方が強かった。

だから逃げた。

子供の頃からまるで動物のように身体能力が高かったアリエスは三階の子供部屋から木を伝い、部屋から逃げ出していたのだ。


アリエスが逃げ出したことなど気付いてもいないアリエスの母親は、ウキウキと気分を高揚させながら子供部屋へと向かう。

だが扉の先には大人しく待っている筈のアリエスの姿はなかった。

ソファの下も、ベッドの下も、ぬいぐるみの下も、アリエスの母親は手をかけて探したのに見つけることが出来なかった。


どこに行ったのかと怒りもそうだが、それよりも娘を会わせることが出来なかったことに、せっかく来てくれた親友に対してアリエスの母親は頭を下げる。


「あの子は好奇心が少し旺盛なのよ……」


「それならしょうがないわね」


困ったように話したアリエスの母親に笑って許した親友の袖をくいくいと引っ張った親友の子供は、「散歩でも行っていいですか?」と尋ねていた。

アリエスの母親はもしかしたら町であの子と出会うことがあるかもしれないと閃き、どうぞどうぞと送り出す。

勿論一般的には子供の一人歩きは危ないといわれているが、アリエスの父であるウォータ家が納めるこの領地に関しては、犯罪など滅多に起きないし、子供が困っていたら周りの大人たちが手を差し伸べることが出来る非常に珍しい場所だったことから子供の一人歩きを簡単に許していたのだ。


町へと繰り出したユージン・デクロンは物珍しそうに見渡していた。

頭に被る帽子の下から見える範囲は少ないが、それでも自分たちの領地よりも自然豊かな土地に視線は右へ左へと移動する。

そして澄んだ空気を感じながらユージンは目を瞑った。


「あれ?初めましての子だね?」


自然を堪能していたユージンに女の子が話しかけた。

明るい茶髪の女の子は長い髪を一つに結い上げていたことから、とても活発そうな印象を与えた。

ユージンは話しかけてきた女の子に少しだけ警戒しながらも返事する。


「……うん、今日初めて来たんだ」


「そうなんだね!今日初めてなら私が町を案内するよ!」


純粋な笑みを浮かべた女の子にユージンは高鳴る心臓を誤魔化しながら、繋がれた女の子の手を振り払う。


「ちょっと待ってよ、名前も知らない人といけるわけがないだろ」


“知らない人にはついていかないこと”と町へと一人繰り出そうとしたユージンに、見送った母親であるデクロン夫人はしっかりと忠告していた。

ユージンはその忠告をしっかりと守り、例え自分と同じ子供でしかも女の子とはいえ、“知らない人”とは一緒にいけないと拒否する。

怪しい人物だと告げたことに女の子は怒るかもしれないと、ユージンは内心ドキドキと不安に感じていると女の子は「確かに」と納得し、ユージンに対して向き合った。


「私はアリエス・ウォータ。父はウォータ伯爵で怪しいものじゃないから安心して」


そして手を差し出すアリエスは、今度は無理にユージンの手を取ることはしなかった。

ユージンは名を名乗ったアリエスに「君が…」と呟くと、差し出された手を取る。


「僕はユージン・デクロン。母上にはユンって呼ばれてるから、君も好きなように呼んでいいよ」


これがアリエスとユージンの出会いだった。




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