表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/92

2 友達が感じた異変






「あの……アリエス様…」


学園に通うようになって暫くしたある日のことだった。

淑女クラスに通うアリエスは、授業が終り明るく心地よい陽射しが差し込む時間帯、仲のいい友人たちと学園のガゼボを借り、小さな茶会を開いていた。

人脈づくりも淑女として重要視される社会ではアリエスたちのように茶会を楽しむ令嬢たちが多く、普通の事だった。

今回も楽しい時間になると、一人一人がお薦めとして持ち込んだ茶菓子や茶葉を披露した時だった。


顔色を悪くさせたマリアは長い睫毛で瞳を隠し、アリエスの名を呼んだ。


マリア・ヴィノビアンは侯爵家の令嬢で立場はアリエスよりも高かったが、アリエスの人柄に好感を抱き、良き友人として共に行動していた。

だがそれだけではなく、マリアとアリエスには共通点があった。

アリエスは次期王へと指名された王太子の護衛騎士候補として選ばれたカリウス・プロントの婚約者であり、マリアは次期宰相として、王太子の側近候補として選ばれたカルン・エドナーの婚約者であった。

王太子の側近が婚約者である共通点から、二人の仲はただのクラスメイトから、友人と呼べる関係になるまで時間はかからなかった。


そんなマリアが青ざめた表情でアリエスの名を呼ぶ。


開こうと思っていた茶会はアリエスとマリアだけではなく、他にも王太子の従者見習いに選ばれた男性の婚約者キャロリン・ケンタ侯爵令嬢、そして王太子の婚約者であるエリザベス・シャンティ公爵令嬢も茶会に参加していた。


「マリア様?どうかしたのですか?」


アリエスはマリアの背中を優しく撫でながらどうしたのかと訳を尋ねた。

アリエスの他の二人の令嬢たちも、心配そうにマリアの様子を見守る。


「私、見てしまったのです……カルン様が私以外の女性と二人でお会いしているところを…」


「え」とアリエスは呟いた。

マリアの言葉が聞こえた二人の令嬢たちも、「どういうこと?」と眉を顰める。


「見たのは一度だけですが、…カルン様が私に隠れて他の女性の方と会っているのなら、私、どうしていいのか…」


マリアは綺麗な青空の瞳を涙でいっぱいにさせ悲しげに眉を寄せる。

アリエスは何も言わずにマリアの背中を撫で続け、キャロリンは「きっとなにか事情があったのですよ」「みたのは一度だけなんですよね?」とマリアが悪い方向に考えないよう言葉をかけていた。

そんな中アリエスと同じく口を閉ざしていた一人の令嬢が、顎に当てていた手を膝の上に戻して背筋を伸ばす。


「……もしかしてその令嬢、ピンクブロンドの髪色を持っているのではなくて?」


王太子の婚約者であるエリザベス・シャンティ公爵令嬢は、目を細めながらそう告げる。

マリアは顔を上げてエリザベスの言葉に頷いた。


「…はい、その通りです。後姿だったためにお顔はわかりませんが、エリザベス様が仰ったようにピンクブロンドの髪色をしていました」


マリアの言葉にエリザベスは「やっぱり…」と呟いた。

その小さな言葉を漏らすことなく拾い上げたアリエスは「なにかご存じなのですか?」とエリザベスに問う。


「…ええ。つい先日の事です。私と殿下が登校中、一人の女性が現れましたの。

令嬢はまるで教育を受けていない子供のように殿下に話しかけ、身の程知らずにも殿下の御身に手を触れていました」


エリザベスは苦々しく表情を歪ませながら話した。

それが本当ならば貴族の令嬢として最低限のマナーすらも身に付けていないといえる。

だからこそエリザベスの話を聞いたアリエス含む令嬢たちは驚いた。


「まぁ!なんて方なの?!」


「ありえませんわね…、王太子への態度もそうですが婚約者がいる男性に馴れ馴れしく接するなんて…」


顔も知らない令嬢に各々の心情を口にする令嬢たちに、アリエスはエリザベスに続きを促した。


「それで、殿下はどうされたのです?」


アリエスの言葉にエリザベスは口元を扇で隠す。

先ほどもそうだったがエリザベスはアリエスたちの前で表情を隠すことをあまりしない。

どんな表情であれ扇で表情を隠すことは、自分の気持ちを隠すことだと考えがあるからこそ、心からの友人だと伝えるためにエリザベスは敢えて隠すことをしなかった。

そんなエリザベスが扇で表情を隠すということは、自分でも見せたくない気持ちがあるということを指していた。


「……許して欲しいと、そう言ったのですわ」


「え?」


「彼女は元平民で、貴族としてまだ不十分なところがあるから、私たちが心を広くして受け入れてほしいと、殿下が言ったのです!」


そう告げたエリザベスは怒りで震えていた。

公爵令嬢として、幼い頃から厳しい教育をこなしていたエリザベス。

今は王太子の婚約者として、将来は王妃の立場につく彼女は王妃教育も視野に入れ始めていた。

だからこそ、いくら元平民だとしても今は貴族であるはずの彼女がマナーを学ぼうとしない姿勢と、王位に着くだろう殿下がマナーを軽く見た発言が許せなかったのだろう。


アリエスは怒るエリザベス達と、カルンの婚約者として今後の不安を感じているマリアをみて、これが前兆にならないことを静かに願った。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ