19 解決のための提案
「まず、アリスからエリザベス嬢の話を伺い、聖女がいた時代を調べたんだ。
今から一千年前、確かに魔力という力を元に魔法を使っていたようだということがわかった。そして今は魔力も魔法も感じ取ることが出来ないが、それでも鉱石の中には魔力が含まれるものがあると言われている。
まぁ、今はその魔力を計ることも出来ないから確認のしようがないけどね。でも美しく輝く鉱石は誰もが目を奪われるものがあるから、的外れなわけでもないかなと思っているんだ」
「それはどうしてですか?」
「聖女の存在だよ。神のいとし子と呼ばれた聖女は誰をも魅了した。異性は愛を捧げ、同性は友愛を誓う。
だけどそれでは人類が滅ぶだろ?だから本当に愛を誓った男女の場合は問題ないが、そうではなかった場合、男は愛を誓ったはずの女性を疎ましく感じ、女は愛を誓った男性が離れれば憎らしく感じるようにしたらしい。
そんなことがないようにしたらしいが、魅了の力は神が思った以上に大きく、人類の数はかなり減ったらしいよ。
まぁ、そんなことは置いておいて、鉱石に魔力が込められているのかと考えられるのは、聖女が持つ魅了と同じように、磨かれた鉱石も人々を魅了しているからだね」
ユージンの言葉は正確とは言えるものではないかもしれないが、それでもエリザベスの内容と似通っていることもあるアリエスたちを納得させるような推測ではあった。
それでも全てが信じられるものではないと、アリエスたちは互いの顔を見合わせる。
「答えられる範囲であれば、僕の調べた情報を伝えるよ?」
疑うアリエスたちに嫌な顔をすることもなく、疑問があれば答えるというユージンはまるで女神の様に優しい人物だと写る。
「あの、エリザベス様の話ですと異性を魅了していったとありましたが、デクロン様の話ですと聖女以外に愛を誓った人は魅了されないというのは本当なんですの?」
「それは本当だよ。だって僕自身が検証したからね」
マリアの質問にあっさりと答えたユージンは目を細め、質問したマリアではなくアリエスを見つめた。
見つめられたアリエスはその言葉の意味を理解した瞬間一瞬で顔を真っ赤に染める。
「そ、それはどういった…?」
アリエスとユージンの雰囲気を感じたキャロリンはドキドキと期待しながら、楽し気な様子で更なる詳細を尋ねた。
するとユージンは質問したキャロリンに目を向けると「例の女性と話したんだ」と告げる。
「実際に僕には魅了が効かなかった。人数の制限でもあるのかと思ったが、身を潜めていた僕の従者は例の女性と接触も会話もしていないのに好感を抱いていたから、人数の制限も接触も、細かい条件はないとわかる。
なら何故僕だけには効かなかったんだと調べていくと、心から好きな女性がいれば聖女の魅了は効かないとわかったんだ。
僕にはずっと昔から思っている女性がいるからね。だから聖女の魅了は効かないんだとすぐに納得できたんだ」
ユージンの話を聞いているアリエス以外の三人は、両手を合わせてまるで感動する舞台のエンディングでもみたかのような表情を浮かべていた。
そして遠回しに愛を語られたアリエスはプルプルと体を震わせながら下を向く。
ユージンの話を聞いて、アリエスがカリウスをアリスに取られても平気なのは、カリウスではない他の人を既に愛しているからだということがわかったからだ。
婚約式は様々だが、神殿から発行される書面に署名するということが、神にお許しをたてるという意味として、ある意味愛を誓っているからこそ、他に好きな人がいないアリエス以外の令嬢たちは婚約者を奪われたことで少なからず怒りの感情を抱いている。
だが同じように婚約した筈のアリエスにはそれがないということは、アリエスにはカリウス以外の好きな人が、いや、愛している人がいるということだった。