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アリエスと別れたユージンは、機嫌よさげに一般クラス棟へと向かう廊下を歩いていた時だった。


話題のピンクブロンドの令嬢がユージンの前に現れる。

狙っての事ではなかった為にピンクブロンドの令嬢、アリス・カルチャーシはユージンをみて驚きの表情を浮かべた後、隣に並んでいた男性から咄嗟に距離を取っていた。

アリスから距離を取られたのはマリアの婚約者であるカルンである。

カルンはアリスの行動がユージンの所為と判断すると、ギッとユージンを睨んだ。


ユージンはカルンの行動にほぉと少しだけ眉をあげる。


カルン・エドナー。

エドナー侯爵家の次男でありながらも優秀すぎる頭脳を持ったカルンは、その才能から長男がいるのにも関わらず、次期当主に相応しいと言われてきた。

実の弟の才能を憎み、キツク当たってきた兄の心を理解したカルンは、その才能を直接売り込んだ先が、同じ一般クラスに通う王太子だった。

入学早々自分を売り込んだカルンの判断に王太子は楽し気に笑い、そして側近候補として傍に置いたことが、次期宰相と呼ばれ始めた所以だ。


そんなカルンをユージンも知っていて、だからこそ意外に思いながら、婚約者がいながらも堅物さが直らない人物の変化が珍しかった。

ユージンは自身を睨むカルンから視線を逸らし、隣に並ぶピンクブロンドの令嬢、アリスを見た。


はしたなくも膝を出し、白く細い腿を晒しながらユージンの視線に気づいたアリスは甘えた声で話かける。


「…あ、あの…お名前はなんというのですか?」


ユージンは口角をあげると自身に指を差し「僕?」と答える。

ほんのりと色づいた頬と、潤んだ瞳をユージンに向けながらアリスはコクコクと頷いた。


「ユージン・デクロンだよ」


躊躇いなく答えたユージンにアリスは嬉しそうに破顔して、勝手に自分の名を名乗る。


「ユージン様ですねっ。私はアリス、アリス・カルチャーシといいますわ。仲良くできたら凄く嬉しいです」


「アリスか、可愛い名前だね」


「ありがとうございます!私も自分の名前が好きなので、ユージン様にそう言ってもらえるともっと好きになっちゃいますわ」


楽し気に話す二人に、カルンはアリスの腕を引いてユージンから距離を取らせようとした。

いつの間にか興奮したアリスがユージンとの距離を詰めていたようだ。

腕を引かれたアリスはカルンに対し、訝し気な眼差しを向けたが、カルンの目はユージンに向けられていた為に気付くことはない。

そしてアリスはそれほど自分に心酔しているのだと解釈して、にやりと口角をあげた。

だがカルンがユージンを睨みつけているのは嫉妬に駆られたからではなく、本能的に守ろうとした行動に過ぎない。

一切瞳の奥が笑えていなく、底冷えするほどの冷たい視線をアリスに向けるユージンからカルンは守ろうとしていたのだ。

だが理由がどうであれ、カルンの心は既にアリスに向いている。

結局アリスにとっては気分が高まる結果となるのは変わらない。


「折角ユージン様と話せたのにごめんなさい。私達これから用事がありますの。

だから私とのお話は次の機会までお待ちくださいね」


そんなカルンの心境など知る由もないアリスは、微笑みを向けるユージンを見て自分に気があるのだと判断しそう告げる。

まったく見当違いだたが、ユージンは「そうだね」と返事したことで、アリスはパッと表情を明るくさせた。


「僕たちはまた出会える運命にあるようだからね。また今度、ゆっくり話そう」


楽しみにしているよ、と告げるユージンにアリスはニヤニヤと下品な笑みを必死で堪えながら「はぁい」と返事をする。

獲物が罹ったかのように笑うアリスに、ユージンは完璧な笑みを向けるとすぐに背を向けて歩き出した。

そして暫く歩き進め、人気が感じられなくなった時ぼそりと呟く。


「……アレのどこがいいんだか」


小さく呟かれたユージンの言葉は長い廊下に響くことなく消える。

見た目は中の中。愛しのアリエスに比べたら天と地ほどの差がある容姿だけでなく、中身も最悪だったことを思い出したユージンはさっさとアリスの姿を脳内から消した。

それでもどんな男でも好感を抱いてしまうといわれる魅了を持っているかもしれない女と対面し、言葉を交わしたユージンは自分の心が変わらずアリエスに向けられていることを自覚し、幸せそうに微笑んだ。

先程とは全く違う本物の笑みは誰に向けられることもなかったが、ユージンは自分の言葉に驚き顔を真っ赤に染めるアリエスを思い出し、更に笑みを深くする。


「……徹底的に、やらないとね」


楽し気に呟かれた言葉はやっぱり誰にも聞かれることはなかった。





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