15 心強い?協力者
こうしてユージンという心強い協力者を手に入れたアリエスは、真っ赤に染めた顔をパタパタと手で仰ぎ冷やしながらユージンに視線を向ける。
ユージンはアリエスと目が合うと「さて」と口を開いた。
「早速詳しい話を聞きたいのだけど、時間はある?」
「はい……あ、うん」
頷くアリエスにユージンは優しい眼差しを向けながら指を鳴らす。
するとどこからともなく現れた男性に、アリエスは驚いた。
「ごめんね。彼は僕の従者兼護衛なんだ。人が来ないところだといっても流石に大事な話をするから、人が来ないように見張って貰おうかと思ったんだ」
「そうなんだ」と納得するアリエスに、ユージンはアリエスをベンチに座らせると隣に座った。
勿論紳士的な対応を心掛けるユージンは、アリエスが座る場所にハンカチを敷くことを忘れない。
アリエスはそんな気遣いにも心をときめかせながら、ユージンの隣に座った。
そしてアリエスは話をした。
様子がおかしい婚約者たちのこと。
特定の男性に言い寄るアリスのこと。
エリザベスから聞いた話のこと。
ユージンはアリエスを調べている中、アリエスの婚約者であるカリウスとカリウスに言い寄っている女の事を既に調べていた。
だからアリエスとカリウスの関係がうまくいっていないのなら、この機に応じて壊してしまおうと考えていたのだ。
だがエリザベスの話した内容を聞いて考えを改める。
もしカリウスが女の持つ力で強制的に心を奪われているのだとしたら、この件が解決した時にはカリウスの心はアリエスの元に戻るのではないかと考えていたのだ。
それはユージンにとっては嬉しくない展開だった。
だが無理に引き離そうとした際には、アリエスのユージンに対する好感度も絶対失うことになってしまうだろう。
ユージンはそれは何としても回避したいと考えていた。
アリエスには嫌われたくないというユージンの思いが、アリエスとカリウスの婚約を壊そうと考えていたユージンの気持ちを揺さぶっていた。
「……アリスは」
ユージンは小さな声で呟いた。
「なに?」
ユージンの小さな呟きをしっかりと拾ったアリエスは続きを促すと、ユージンは少し言いづらそうにしながら続きを口にする。
「…アリスはどうするつもりだい?」
「私?」
「うん、……君と他の女に尻尾を振る男とは婚約関係にあるだろう?だがそれは女の力なのだとしたら、解決した際には元鞘に収まる可能性もあるが、そうならない可能性もある。
そうなった時のアリスの考えを知りたいんだ」
ユージンの言葉にアリエスは一度口を閉じると、ユージンから顔を逸らして真っすぐ前を向いた。
「婚約関係について、正直な話どうなろうが構わないの」
「どうなろうとも、というのは?」
「私の家はユンも知っているでしょうけどあまり裕福ではなかったでしょう?だからユンとの婚約話はお母様同士の約束から出た話だったとしても、お父様も公爵家ならと許していたの。
でもそれがなくなって、条件のいい相手を探していたから、私自身政略結婚も仕方ないと考えてたけど、最近幸運なことに鉱脈を掘り当てたの。
だから婚約は破棄しても問題にならないし、仮に破棄する場合でもあちらに責があるから、私は慰謝料を受け取る立場となるでしょう?新しい婚約者を探さなくてはならないけど、それでも大きなデメリットはないから、どうなろうと問題ないと思っているってことよ」
ユージンはアリエスがいたウォータ伯爵領は随分と田舎だなという印象を受けた当時の記憶を思い出した。
例え安定した収益があったとしても、農業だけでは大きな利益を生むことがない。
寧ろ天候次第では損益が大きくなる場合だってある。
民を守るためにも条件がいい相手をアリエスの婚約者として探したいと考えるのは間違っていないと、アリエスの話を聞いて考えていた。
そして同じ伯爵家であっても、王太子の護衛騎士候補として名前があげられている男性ならばと縁を繋いだのだろう。